第1回UFC開催の地デンバー
第1回のUFCイベント『UFC 1: The Beginning』が開催されたのは1993年11月12日のこと、場所はコロラド州デンバーのマクニコルス・スポーツ・アリーナだった。
キックボクサーのパトリック・スミス、極真空手のジェラルド・ゴルドー、プロレスラーのケン・シャムロック、力士のテイラ・トゥリ、プロボクサーのアート・ジマーソン、ブラジリアン柔術のホイス・グレイシーら、8選手参加によるワンナイトトーナメントで開催されたのがUFC 1だ。
どの格闘技が一番強いのかをはっきりさせようというコンセプトのもと、試合は時間無制限、かみつきと目潰し、金的攻撃以外は何でも許されるルールの下で行われ、選手は素手で殴り合った。主催者の1人で、UFC殿堂のアート・デイビーは「このイベントを通じて、闘いの真実を見つけることができた。アメリカの格闘技史上初めて、答えを用意していない仕掛けでもOKだと分かったんだ」と語っている。まさに現在に至るコンバットスポーツの歴史を決定づけた一夜だったのである。
あれから25年。日本時間11月11日(日)にUFC生誕の地デンバーで開催されるUFCファイトナイト・デンバーは、UFC創設25周年記念イベントとして開催される。
復活なるか、コリアンゾンビ
この記念碑的なUFCファイトナイトのメインイベントに配されたのは、ジョン・チャンソン(韓国)と、ヤイール・ロドリゲス(メキシコ)のフェザー級5回戦だ。
どれほど強打されても決してノックアウトされず、何度でもふらりと立ち上がり、ひたすら前進し攻撃し続ける姿がゾンビそのものだとして“ザ・コリアンゾンビ”の愛称を獲得したチャンソン。レナード・ガルシアとの名勝負数え歌での秘技ツイスター(グラウンド・コブラツイスト)のほか、マーク・ホームニックを7秒でノックアウト、ダスティン・ポワリエを年間ベストパフォーマンス級のダースチョークで葬るなど、印象に残る幾多のエキサイティングなフィニッシュを連発したゾンビは、カルトヒーロー的な人気を博すこととなった。
2013年8月に、当時無双状態だったジョセ・アルドのフェザー級タイトルに挑戦するも惜しくも退けられると――右パンチを打った際に腕が肩から外れて戦闘不能になってしまったというから、負けっぷりまでゾンビである――、そこから母国韓国で徴兵に応じるため戦線をいったん離脱。2017年2月の復帰戦では、当時ランキング9位のデニス・バミューデスをすばらしいタイミングのアッパーカットでノックアウトして、健在ぶりを見せつけたのだった。
UFC 214(2017年7月)で予定されていたリカルド・ラマス戦に向けた練習中に前十字靭帯および内側側副靭帯を断裂、手術とリハビリのため再び長期欠場となっていたゾンビにとって、今回はいわば2度目の復帰戦となる。
ゾンビがオクタゴンを離れていた間に、フェザー級上位選手の顔ぶれは大きく変わった。今回、再び元気な姿を見せてくれれば、これから展開されるであろう上位選手との対戦は、どれを取っても新鮮で刺激的だ。ゾンビが廃墟(はいきょ)からの復活を遂げる舞台として、25年前に男たちが流した血の残り香漂うここデンバーほど、ふさわしい場所はない。
挫折のエリート、ロドリゲスのリスタート
元2階級王者のB.J.ペンをノックアウトするなどUFC参戦以降怒濤(どとう)の6連勝を飾り、スーパースター街道をばく進中だったロドリゲス。長いリーチから繰り出すダイナミックな打撃が魅力の選手だが、2017年5月にフランキー・エドガーに連勝を止められると、そこから長い沈黙の期間に入ってしまった。そして2018年5月には、ロドリゲスは何といったんUFCを解雇されてしまう。1年間にわたって試合のオファーを断り続けたことが原因だとされた。しかし、その翌月には再びUFCに復帰したことが発表され、今回の試合に至っている。
「周囲からのプレッシャーに耐えられず、頭がどうにかなってしまいそうだった」と空白期間についてロドリゲスは語っている。「コーチのアドバイスに耳を貸さず、練習中はずっと怒っていた。スターになるためには、他人を信用してはならない、などと考えるようになり、自分の殻に閉じこもってしまっていた」
「今回、オレは人生について多くを学んだ。過去にとらわれすぎていては気分が落ちこむ。未来にとらわれすぎていては不安でたまらない。今この瞬間を生きるしかないんだ。オレはこんなところで立ち止まらない。これから、ますます素晴らしいキャリアが始まるんだ」と再スタートを期するロドリゲスが、ゾンビ退治に魂の再生をかける。
危険な血の匂いを漂わせるカウボーイ対ペリー
UFCファイトナイト・デンバーのセミメインイベントでは“カウボーイ”ことドナルド・セラーニ(アメリカ)対マイク・ペリー(アメリカ)の一戦が予定されている。
レジェンドのセラーニはここ10年以上、アルバカーキの名門ジム“ジャクソン・ウインクMMAアカデミー(以下ジャクソン・ウインク)“に所属しつつ、ふだんは自らの住居兼ジムである“BMFランチ”でトレーニングに励んできた。
一方、ジェイク・エレンバーガーをエルボー一閃でKOした試合がUFC公式サイト2017年年間ベストノックアウトの第2位に選ばれるなど、破壊力満点の攻撃で人気上昇中のペリーも、今年からジャクソン・ウインク所属となっている。
いわば同門対決となるわけであるが、担当コーチのマイク・ウィンクルジョンが、今回はペリーのトレーニングを担当し、ペリーのセコンドにつくと宣言したことから、気分を害したセラーニはジャクソン・ウインクの離脱を決意してしまう。
「ジャクソン・ウインクはいつからロイヤリティよりカネが大事になったんだ? これではまるで悪徳繁殖業者じゃないか」と元所属先を非難するセラーニ。
対するペリーは「セラーニはカネがどうのこうのといっているが、ヤツは自分が金持ちだから気がつかないだけなんだ。オレは破産寸前のハングリーなライオンだ。オレが貴様をオクタゴンできれいに成仏させてやる」と先輩の首を掻(か)き切らんと吠(ほ)える。
ケンカ早いファイトスタイルがどこか似ている両者が、お家騒動と世代闘争にケリをつけるべく、危険な血の粛清に乗り出す。男臭い殴り合い必至の好カードだ。
【文 高橋テツヤ】