【見どころ】UFCファイトナイト・ストックホルム:男には勝たねばならぬ時がある

UFCファイトナイト 見どころ
UFCファイトナイト・ストックホルム:アレクサンダー・グスタフソン【スウェーデン・ストックホルム/2017年5月26日(Photo by Michael Campanella/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・ストックホルム:アレクサンダー・グスタフソン【スウェーデン・ストックホルム/2017年5月26日(Photo by Michael Campanella/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
スターファイター、グスタフソン誕生

2013年9月に開催されたUFC 165で、当時チャンピオンとして圧倒的な強さを誇っていたジョン・ジョーンズに新鋭のアレクサンダー・グスタフソンが挑戦するUFCライトヘビー級タイトルマッチが行われた。下馬評ではジョーンズの圧勝と見られたこの試合で、グスタフソンはそれまでテイクダウン防御率100%だった難攻不落の最強王者から初めてテイクダウンを奪うなど大健闘。判定3-0で敗れはしたものの、ジャッジ2名が48-47のスコアを付ける接戦を繰り広げたのだった。この試合はUFCライトヘビー級屈指の熱戦として今でも語り継がれており、敗れたとはいえグスタフソンはジョーンズを最も苦しめた男として人気も評価も急上昇、ジョーンズとのリマッチが大いに期待されることとなった。

地元がい旋、3万人の前で秒殺負け

そして2015年1月、余勢を駆ってグスタフソンは地元ストックホルムにがい旋。アンソニー・ジョンソン(アメリカ)を迎えて事実上のUFCライトヘビー級次期挑戦者決定戦に挑む。

アメリカでのテレビ生中継に時間を合わせるべく大会は現地時間の深夜に行われ、メインイベント開始の頃には早朝3時45分になっていた。それでも地元の英雄の勇姿を一目見ようと、会場のTele2アリーナに集まったファンは誰1人帰宅しない。それどころか、メインイベント開始直前まで当日券が売れ続けるという過熱人気で、最終的には実に3万人がこの試合を目撃することになる。あまりにも高い期待を一身に背負って登場したグスタフソンだったが、試合は早々からジョンソンの桁違いのパワーをモロに受けて昏倒(こんとう)、第1ラウンド2分46秒であっさりとノックアウト負けを喫してしまったのだった。

この時の3万人の沈黙の重さは今でも忘れられない。文字通りの完璧な静寂、見てはいけないものを見てしまったかのような、自分の目で見たことを認めたくないような、押しつぶされそうな沈黙。数人のジョンソン陣営が発する空騒ぎのような歓喜の声が沈黙の中でむなしく響く。それは“ストックホルムの惨劇”とでも名付けて額に飾っておきたいほどの、ある意味で強く心を揺さぶるシーンだった。3万人をどんよりした気持ちのままで、明け方の街に放り出すこととなったグスタフソンの無念さは、見る者の想像を拒絶するものだった。

負けを引きずる男、ネガティブ発言からの帰還

その後、2015年10月(UFC 192)にめぐってきた再びのライトヘビー級タイトルマッチでも王者ダニエル・コーミエに接戦の末、スプリット判定負けを喫したグスタフソンは“もはやモチベーションが沸いてこない”と言ってみたり、“そろそろ潮時なのかもしれない”とこぼしたり、さまざまなメディアでネガティブ発言を漏らす機会が増えていく。それゆえ2016年4月に本人がソーシャルメディアで「悲しいお知らせですが、自分はMMAを引退することにしました。2015年の厳しい結果により、トレーニングのやる気を失ってしまいました。さらに今日、古傷に手術が必要で1年以上の欠場が必要となることが分かったため、引退を決意するに至りました」とエイプリルフールの冗談を発信したところ、これを真に受けて騒ぎ出す人が続出した。

「何の仕事でも、良いことと悪いことがあるだろう」とグスタフソンは語っている。「僕にも悪い日はあった。敗戦からの復活は難しい。僕はバッドルーザーなんだ。負けを引きずって、いろんなことを口走ってしまう。でもそのことと、実際に引退することはまた別。僕はこのスポーツが大好きだし、これしかできないしね」

テロには屈しない! ストックホルムに元気を!

日本時間5月28日(日)から29日(月)にかけて開催されるUFCファイトナイト・ストックホルムでは、グスタフソン(ランキング1位)が“ストックホルムの惨劇”以来の地元でのメインイベントに登場し、ベテランのグローバー・テイシェイラ(ランキング2位)を迎え撃つ。敵地に乗り込む格好となるテイシェイラは「ホームタウンで戦えるのは確かにいいことだが、だからといって勝てるとは限らない。スマートでスピーディな試合でオレが勝つよ」と自信満々に語っている。

今年4月7日、ストックホルムの繁華街にある百貨店に暴走トラックが突っ込むといういたましい死傷事故が発生した。当局はこれをテロ行為であると断定しており、現場はグスタフソンが所属するオールスターズ・トレーニングセンターから3kmほどしか離れていない場所だ。現場には今も花やお供えがなされており、悲しみに暮れる市民の心の団結力はかつてなく高まっているという。UFCイベントのカウントダウン番組に出演したグスタフソンは、テロで被害を受けた人が少しでも元気になれるような試合をしたいと語り、決意を新たにしている。また5月12日付の本人のソーシャルメディアでは、娘さんが無事誕生したことが報告されている。

またしてもさまざまな使命感や負けられない理由、ファンの期待を背負って地元のメインイベントに立つグスタフソン。ここは一番、何としても勝たなければならない舞台となった。ここできっちりと期待に応えることで、初めて本格的にタイトル再挑戦への道が拓(ひら)けてくることになるのだろう。おりしも近年、UFCではヨーロピアンパワーが席巻(せっけん)、アイルランドのコナー・マクレガー、イギリスのマイケル・ビスピン、ポーランドのヨアンナ・イェンドジェイチェク、オランダのジャーメイン・デランダミーと、4人ものUFCチャンピオンが登場している。グスタフソンもこの勢いにうまく乗って、頂上を目指して浮上していきたいところだ。

【文 高橋テツヤ】
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