トラッシュトークで悪役人気上昇中!
コビントンは前回、2018年6月にブラジルで開催されたUFC 225で、ハファエル・ドス・サントスを下してウェルター級暫定王座を獲得した。
試合後の勝利者インタビューでコビントンは、「オレは前から“メイク・ウェルターウェイト・グレート・アゲイン“と言ってきただろう」と豪語、「これからオレは、本物のアメリカ人が世界チャンピオンになった時にやるべき正しいお祝いをする。ホワイトハウスに行き、ミスター・ドナルド・トランプに会い、彼の机の上にベルトを置くんだ」とうそぶいてみせた。
そして実際にコビントンは同年8月、ベルトを持ってトランプ大統領を訪問、ホワイトハウスの大統領執務室で記念写真に収まることに成功している。
Like @POTUS @realDonaldTrump always says: Promises made. Promises kept. Pleasure to finally meet you Mr. President. Thank you for always putting America first! #maga #GreatAmericanWinningMachine 🇺🇸 pic.twitter.com/yYZWkdd5wS
— Colby Covington (@ColbyCovMMA) August 2, 2018
ほんの4年前には、コビントンはカレッジレスリング出身の若手無名ファイターの1人にすぎなかった。コナー・マクレガーがジョゼ・アルドを13秒で倒した日、コビントンは前座でウァーレイ・アウベスという選手にギロチンチョークで締め落とされていたのだ。
そこからコビントンが王道を切り拓(ひら)いてきた背景には、現在6連勝中の確かな実績に加え、プロレスの悪役風のトラッシュトーク力が冴(さ)え始めたことがある。
「オレはUFCのスーパーヒールなんだ。みんながオレを見たがる。オレが勝つところを見たいのか、負けるところを見たいのかはどちらでもいい。同じことだからな」
(暫定王座獲得後に)「オレの勝利を予測したメディアはそんなにないだろう。そしてネット上のオタクは全員、オレの負けを予想していた。そんなヤツらを黙らせたのはいい気分だ。オタク野郎は涙目。いい気味だよ」
コビントンはまた、人気選手やUFC関係者、ファンに辺り構わず因縁をふっかけては話題を作り出し、憎悪を煽(あお)っている。例えば2017年末、熱狂的ファンの多い映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開された直後にコビントンは、「ルーク・スカイウォーカーが死ぬ。はい、これでお前らオタク野郎の童貞人生の2時間33分を節約してやったからな。礼には及ばない。お前ら、何か新しいことをしろ。ナイトライフを楽しめ」と悪質なネタバレツイートを発信、楽しみを台無しにされたファンの激怒を買った。
2018年11月にはオーストラリアのイベントにセコンドとして乗り込み、コビントンがかつてブラジルを“ゴミ捨て場”、ブラジル人を“汚らしい動物”と称したことに怒り心頭のファブリシオ・ヴェウドゥムから、比喩ではなく実際にブーメランを投げつけられるという事件が発生した。
またUFC 235(2019年3月)前には、コビントンはホテルの朝食会場で出くわした現王者カマル・ウスマンと乱闘を展開、周囲にいた観光客や老人が逃げ惑い、女性の悲鳴が響く騒動となった。
良くも悪くもセレブ的な人気が高まっている現状について、コビントンは冷静に次のように分析している。
「誰もが他人からどう思われるのかを気にしすぎていて、他人の気持ちを傷つけないようにしすぎなんじゃないか。オレたちはやさしさビジネスをしているんじゃないんだぞ。これはファイトビジネスなんだ。オレは、友達を作るためにやっているんじゃない。金を稼ぐためにやっているんだ」
雌雄を決するかつてのチームメイト
コビントンはUFC 228(2018年9月)で、当時の正王者タイロン・ウッドリーとの王座統一戦に駒を進める予定だったが、この試合を無念の負傷欠場で流すと、暫定ベルトははく奪処分となった。しかし、現在も王者は自分であるとの考えを変えないコビントンは、ローラー戦について次のように語っている。
「UFCがメインイベント不足にあえいでいたから、オレは最初の防衛戦を引き受けてやることにした。ウスマンよりもビッグネームで、ベン・アスクレンが恐れをなす男、この階級最後のリアルチャンピオン、リビングレジェンドのロビー・ローラーだ」
ローラーとコビントンはかつて、フロリダのアメリカン・トップ・チーム(ATT)で一緒に練習をする仲だった。ところが昨年、ローラーは近隣のハードノックス365に移籍している。
「ローラーとはかつては友達だった。でもヤツが俺たちに背を向けた以上、これは私闘になる。よく覚えておけ。ローラーは血の海に沈み、担架で運び出されることになる。オレはATTのキャプテンとして、責任を持ってローラーを始末しなければならない」
UFC会長のデイナ・ホワイトは、この試合でコビントンが勝てば、ウスマンへの挑戦権を得ることになると明言している。コビントンにとってはいろいろな意味で、決して落とすわけにはいかない一戦となる。
拳で語る男、ローラー
「トラッシュトークは自分には効果がない。毎日練習をし、試合で勝つ。ただそれだけのことだ」
コビントンとは対照的に、ローラーは言葉ではなく拳で語る男だ。
「彼がいろいろ言っていることは知っている。でも俺は他人の言葉には注意を払わない。ATTを離れた理由なら自分が1番よく知っている。過去の出来事を話し合うために試合をするのではない」
前回はアスクレンをほぼ一方的にいたぶりながら、仕上げの段階でブルドッグチョークの罠(わな)にはまり、技が効いてくる前にレフェリーに試合を止められ、無念の敗戦を喫したローラー。ただ、アスクレン戦に至るまでの期間には、キャリアで初めて1年以上の欠場を経験(膝前十字靭帯損傷)し、その間に十分英気を養ったことにより、現在のコンディションは絶好調なのだという。
「今の自分はまたビーストに戻っている。言葉ではなく、身体がエキサイトしているんだ」
寡黙なのに豊じょうな物語をまとっているかのようなローラーの存在感は、ローラーの肉体が、そしてローラーの試合そのものが多弁であることの証(あか)しなのだ。
【文 高橋テツヤ】