UFCファイトナイト・ウルグアイ見どころ:なるかリベンジ、シェフチェンコ

UFCファイトナイト 見どころ
UFC 238:ワレンチナ・シェフチェンコ vs. ジェシカ・アイ【アメリカ・イリノイ州シカゴ/2019年6月8日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 238:ワレンチナ・シェフチェンコ vs. ジェシカ・アイ【アメリカ・イリノイ州シカゴ/2019年6月8日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間8月11日(日)にUFCファイトナイト・ウルグアイが開催される。UFCにとって今回が初進出となるウルグアイの記念すべきそのメインイベントでは、王者ワレンチナ・シェフチェンコ(キルギス共和国)と挑戦者リズ・カムーシュ(アメリカ)によるUFC女子フライ級タイトルマッチが行われる。

9年ぶり再戦、前回はカムーシュにがい歌

実は両者は以前に対戦したことがある。UFCで女子部門がスタートする3年前の2010年9月、『C3』という団体が主催した、オクラホマ州の小さな町で行われたイベントでのことだった。ケージは屋外に設置されていて、試合中には季節外れの雪が舞っていたのだという。まだスマートフォンすら出回っていない時代で、試合の映像はどこにも残っていない。

当時は両選手ともMMAでは「グリーン中のグリーンだった」と明かすのはカムーシュだ。シェフチェンコはムエタイの試合にこそコンスタントに出場していたが、MMAの試合はこれが4年ぶり。一方のカムーシュはキャリアの浅い姉アントニーナとの試合だと思い込んでいたものの、試合直前にイベントポスターを見て、キャリア10年のムエタイ王者と戦うことを知ったという有様だった。カムーシュは、この試合のファイトマネーは300ドルだったと証言している。

試合は「あの頃はまだ、サウスポーの選手とは練習すらしたことがなかった」というカムーシュを、サウスポーのシェフチェンコがムエタイ殺法で幻惑、しかし第2ラウンド終盤にグラウンドの展開になると、カムーシュの下からの蹴り上げがシェフチェンコの目尻を大きくカットし、出血多量によるドクターストップでカムーシュが白星を得たのだった。

「彼女にとってあの結末は不公平なストップだったという不満はあるでしょう」とカムーシュは振り返っている。MMA戦績17勝3敗のシェフチェンコにとっては、これがキャリア初の黒星、後にアマンダ・ヌネスに喫した2敗を除けば、キャリア唯一の黒星となった。

カムーシュ、ラウジー戦以来のタイトルショット

「彼女は今でも、当時と大差ない選手に見える」とカムーシュは語っている。「彼女はゲームプランに忠実なだけで、ファイターとしては大した進化はしていない。それに比べると今の私と当時の私は、昼と夜くらいの違いがある」

カムーシュは、UFC 157(2013年2月)で行われたUFC女子部門の初戦(ロンダ・ラウジー戦)に出場、オクタゴンに足を踏み入れた最初の女性として格闘技ファンの記憶に残る。そして今回は、それ以来、実に6年ぶりとなるタイトルマッチに挑む。

「人からよく、“あの試合のことはよく覚えているよ”“と、きまってラウジー戦のことを言われる。でも私はあれ以来6年間、ずっと戦い続けてきていて、もっといい試合もある。今回、みなさんの頭の中に新しいイメージを植え付けられればいいなと思っている」

世界標準の戦闘能力、シェフチェンコ

シェフチェンコは2018年12月にヨアンナ・イェンドジェイチェクを下して女子フライ級王座を獲得、今年6月にはジェシカ・アイを戦慄のハイキック一閃(いっせん)でKOし、初防衛に成功した。

わずか26秒でアイを仕留めたシェフチェンコは、呼吸1つ乱すことなく、試合後インタビューに英語で応じた後、同じコメントをスペイン語とロシア語でも話すという前代未聞の1人多言語通訳パフォーマンスを披露した。

シェフチェンコがマルチリンガルである背景には、出身地のキルギス共和国、現在の本拠地があるペルーのほか、タイ、ロシア、ラスベガスなど、世界中を常時旅するグローバルシチズンとしてのライフスタイルがある。

「私にとっては旅がライフスタイルそのもの。トレーニングキャンプ中か、そうでないかによって密度が違うだけで、トレーニングも毎日している。新しい土地に行くと、興味深い人々に会うことができるのがいい。そして、いろいろなスパーリングパートナーと練習もできる。さまざまなファイトスタイルの相手と練習することはとても有益よ。おかげで試合当日になって、驚くということがない」

今回の試合に向けては、上海にオープンしたUFCパフォーマンス・インスティチュートのアンバサダーもかねて、中国でトレーニングをスタートさせたというシェフチェンコ。先週末のUFCファイトナイト・ニューアークでは、共に旅をしている姉アントニーナが血みどろの乱戦を制し、ファイトボーナスを獲得したばかりだ。姉のパフォーマンスに刺激を受けてますますモチベーションが上がるシェフチェンコが、またしても別格の戦闘能力を見せつける可能性は大だ。

頭角を現すのはルーケか、ペリーか

セミメインイベントに配されたのは群雄割拠のウェルター級戦線屈指の好取組、ビセンテ・ルーケ(アメリカ)対マイク・ペリー(アメリカ)の一戦だ。

ルーケは過去10戦で9勝9フィニッシュ、そして現在は5連続フィニッシュ勝利中と絶好調。ベラル・ムハマッド、ニコ・プライス、ブライアン・バーバリーナら有力選手相手に勝ち星を重ねてきたが、ウェルター級の層の厚さのため、いまだにランキング外となっている。

ルーケはニックネームの“サイレント・アサシン(静かなる殺りく者)”の通り、無慈悲な殺し屋のような試合ぶりと、試合後に対戦相手に礼節を尽くす謙虚な姿が同居するファイターだ。

「俺はマーシャルアーツを信じている。格闘技は乱暴者だけのものではない。一般のみなさんも格闘技を練習するだけも、規律や努力など学べることがたくさんある。お金だってそんなに掛からない。UFCの高いレベルで戦っている選手でも、スーパーマーケットで働いている人と変わらない礼節をもっていることを示すことで、格闘技を広げていきたいんだ」

ルーケも、英語、ポルトガル語、スペイン語のトライリンガルで、UFC新市場ウルグアイでMMAを広める役回りにはうってつけの存在となりそうだ。対照的に対戦相手のペリーは、まさに常時無礼講のけんかっ早さで人気を博している武闘派。過去5戦で2勝3敗と戦績的には苦闘しているからこそ、ルーケのような選手を食うことで、一気にタイトル戦線に浮上してくる可能性を探りたいところだ。これまでの両者の戦いぶりや戦績を見る限り、この試合がウルグアイのファンの度肝を抜く激闘となることは必至だ。

【文 高橋テツヤ】
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