UFCファイトナイト・ポーランド見どころ:明日なきカウボーイの格闘哲学

UFCファイトナイト 見どころ
UFC 214:公式計量セレモニーに登場したドナルド・セラーニ【アメリカ・カリフォルニア州アナハイム/2017年7月28日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 214:公式計量セレモニーに登場したドナルド・セラーニ【アメリカ・カリフォルニア州アナハイム/2017年7月28日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間10月22日に開催されるUFCファイトナイト・ポーランドのメインイベントではウェルター級ランキング6位のドナルド・“カウボーイ”・セラーニに、リバプール出身の新進気鋭ダレン・ティルが挑む。



Anyone, Anywhere, Anytime:いつでも、どこでも、誰とでも

かつて「年間6試合が理想」と語り、2014年1月から2015年1月までの13カ月間で本当に6試合6連勝をやってのけたセラーニ。2016年のウェルター級転向後も4連勝と好調だったが、2017年に入って急ブレーキがかかり、1月のホルヘ・マスビダル戦ではノックアウト負け、7月のロビー・ローラー戦では判定負けを喫している。

一般に試合に負けた後の選手は、ケガを癒やし、ダメージを抜き、じっくり練習して弱点を克服するなど、次の試合の用意ができるまでに時間がかかることが普通だ。しかし、セラーニは勝とうが負けようが、早く次の試合を組んでくれと、UFC会長のデイナ・ホワイトをせっつく。

「(マスビダル戦の後)試合をしたくなったら電話していいか、と尋ねたら、デイナは“ダメだ。少し休め”と言うんだ。“そりゃないよ、頼むよデイナ”と食い下がったんだけど、やっぱり“ダメだ”と言って取り合ってくれない」

ローラー戦では目を負傷し、6カ月の出場停止が命じられたが、驚異の回復で医師のゴーサインを取り付けるや否や、次の試合を自ら持ちかけている。

「実はUFC 216(日本時間10月8日)で試合する予定だったんだ。でも、うまく調整がつかなかった。そこでオレの方から、じゃあポーランドではダメなのか、と持ちかけたんだ。UFCからは“ポーランド? アメリカではテレビ中継がないのですがいいんですか”と言うから、そんなこと構うものか、と答えたんだ」

「ティルのことは全く何も知らない。試合も見たことがない。ディスってるんじゃないぞ。オレはそういうことはよく知らないんだ。何せ対戦相手が決まっていないうちから、オファーを受けてしまうからな。対戦相手を探してくるのはUFCの仕事だろ」

今回、ノンランカーのティルに勝ったからといって、セラーニの株が上がるわけではない。セラーニにとっては勝って当たり前、負ければ被害甚大の、いわば“おいしくない”試合のはずだ。しかしセラーニの念頭には、そんな小賢(こざか)しい計算は全くない。あるのはただ、“Anyone, Anywhere, Anytime(いつでも、どこでも、誰とでも)”戦う哲学だけだ。

「こんなスポーツができるのも、ほんのわずかの時間だけなんだから、できる限りのことをやり尽くすのが当然だろう。おまえと金網で戦いたいと言ってくれる人がいるのに、喜び勇んで立ち向かっていかないヤツがいるのは、いったいどういうことなんだ? オレはいつでも、どこでも、誰とでも、自分の腕で勝負をする。これまでも、これからも、ずっとそんな風だ」

アドレナリンジャンキー

試合と試合の間の短いオフにも、セラーニはひと時もじっとはしていない。乗馬、射撃、ウエイクボードにスピードボード、ハンティング、ロッククライミング、スキューバダイビング、サーフィン、スカイダイビング、斧(おの)投げ、ロデオ、モトクロスと、自他共に認めるアドレナリンジャンキーのセラーニは実に多趣味だ。

そしてアクシデントにも事欠かない。若い頃にはモトクロスの事故であばら骨を全部折ったこともある。立ち上がった際に腹部から腸が出てきたため、手で受け止めたのだそうだ。ロッククライミングで12メートルの高さから落下して大ケガをしたこともある。2013年にはコロラド州の湖でボートを運転中に、割り込みをされたことにカッとなって無謀運転を行い、警察のお世話になっている。昨年はハンティング中に自分の馬を誤射してしまい、興奮して大暴れした愛馬に顔面を蹴られ、目に裂傷を負った(本人は「メキシコで幹細胞移植をしたからもう治った」などと不気味なことを平然と話す)。今年は湖底に沈んでいる財宝探し(賞金は500ドル相当の銀だ)に参加したものの、空気タンクのレギュレーターがぶっ壊れて空気が漏れ、一歩間違えば溺死するところだった。つい先日も、セラーニの『Instagram(インスタグラム)』には、ガラガラヘビ(有毒)を素手で捕獲してドヤ顔を決めた写真が掲載されている。

ホワイトは「セラーニは才能あり、ものすごくたくさんのことができるが、試合前にもロッククライミングやウエイクボードをやめてくれないのには参っている」と語っている。

セラーニも「余計なことはしないで格闘技に専念すればチャンピオンになれるのかもしれない」と認めているが、「それではハッピーではないんだ。世の中にやりたいことは山ほどあるんだから」と語る。

「高校時代の友だちに会うと、みんなずっと同じメンツで同じことばかりをやっている。せっかく高校時代のガールフレンドと結婚したのに、だんだん不幸になってきて、今では女房の不満ばかりを言ってやがる。ミッドライフクライシスだか何だか知らないが、オレはあんなふうにはなりたくない。いつでもやりたいことをやっていたいんだ」

明日なきカウボーイから目が離せない

「試合ほどスリルのあることはない。世界一恐ろしい、興奮と楽しさのローラーコースターだ。そしてカネも山ほど稼げる。だから試合後にはやりたい放題できる」と語るセラーニの、まるで生き急ぐかのようにエネルギーを燃やし続ける様子は、痛快きわまりないと同時に、どこか明日なきカウボーイのように切なさもあって、今のうちに堪能しておかねば、こちらまで後悔するのではないかという気にさせられる。

そんなファンの心配をよそに、セラーニは軽快に言うのだ。「オレは試合の日の夜はパーティにはいかないんだ。だって、さっさとメシを食って、早く寝ないと、翌日は朝6時からウエイクボードをやらないといけないからね」

【文 高橋テツヤ】

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