マット・ヒューズ、決定的試合

”グレート”や”レジェンド”と言う言葉があまりにも簡単に飛び交う世の中で、マット・ヒューズはそういった賞賛の言葉を彼の殿堂入りに値する戦いのキャリアを通じて正当に勝ち得てきた。37歳と言う年齢にもかかわらず、UFCウェルター級王者に二度輝いたヒューズはマット・セラ、ヘンゾ・グレイシー、そしてヒカルド・アルメイダに連勝しそのキャリアを復活させた。UFC 123ではBJペンを相手に迎えた楽しみな決戦で、4連勝を飾ることを狙っている。ヒューズはこの試合を自身の今後を決定付ける試合とするのだろうか?

カーロス・ニュートン I – 2001112UFC 34
結果ヒューズ KO2
パット・ミレティッチを即座にサブミッションで仕留めUFCのウェルター級タイトルを獲得したカリスマに満ちたダイナミックなファイター、カーロス・ニュートンを多くが数年にわたりUFCのウェルター級タイトルを維持し続けるだろうと考えていた。UFCは公然とこれに同意し、UFC 34のポスターではそのメイン・イベンターのランディ・クートゥアとペドロ・ヒーゾとともにニュートンを並べ、そこに”カーロース・ニュートンがUFCウェルター級タイトルを防衛する”とまで印刷した。そこにはヒューズに関する言葉は何もなく、そのイリノイ生まれのヒューズが2ラウンドにニュートンをノックアウトしベルトを奪い去ったとき、それは大きなアップセットだった。

しかし試合はヒューズによって支配されたものの、 物議をかもすものであった。ニュートンとほぼ同じ身長
5フィート9インチ、体重169ポンドのヒューズは異常なまでの力強さで試合の初めから容易に相手をコントロールした。スラム、膝蹴り、そして打撃でヒューズは容易に1ラウンドを勝ち取った。第2ラウンドも彼が支配しているように見えたがニュートンがミレティッチのチームメイトである彼を三角絞めに捉えた。ヒューズがニュートンを頭上までリフトし、金網に向かうとMGMグランドに悲鳴と歓声が交差した。

チャンピオン、ニュートンは金網の上部を掴んで持ちこたえたが、レフェリー”ビッグ・ジョン・マッカーシー”の忠告を受けるとすぐに手を離した。ニュートンを頭上に持ち上げたまま、そして依然としてチョークに捉えられた状態でヒューズは一歩後ろに下がると相手をマットに叩きつけた。マットに頭を強打したニュートンは失神し、マッカーシーは試合をストップした。十分にシンプルであった、がヒューズも意識が朦朧としており彼が勝利しタイトルを獲得した、と説明されなければならない状態だったのだ。ではどちらが先に失神したのか?ニュートンの試合後のインタビューでは彼はヒューズを絞めで失神させたと信じていると語った。私があの晩に見た観点では、先に失神したのはニュートンであったと信じている。なぜなら別のアングルからの最後のスラムのリプレイを見ると、ヒューズには一歩後ろに下がるための意識が残っており、このためニュートンは金網から離れ、そしてマットに叩きつけられたのだ。その判定がどうであれ、ヒューズは
UFCのウェルター級のタイトルを冠することでデニス・ホールマンに喫した二つの敗北と言う雪辱をはらした。

桜井速人
2002322UFC 36
結果ヒューズ TKO4
年間に片手で数えられるほどの大会しか開催されなかったころのUFCでは国際的なスター選手を招聘し、UFCのスター選手に作り上げてゆくチャンスは稀であった。海外のビッグ・ネームがUFCに来た場合、ごく稀なことではあったが、その選手はすぐさま猛火に放り込まれた。フランク・トリッグ、中尾受太郎、宇野薫といった選手に勝利し、1912分け(唯一の敗北はアンデウソン・シウバに喫したもの)と言う戦績の桜井”マッハ”速人の場合はまさにそうであった。桜井は戦う相手にとって確実な脅威であったがヒューズは体の大きさ、体力、そして金網際でのコントロールを駆使して試合の最初から、そして4ラウンドのフィニッシュまでを支配し続けた。その試合はヒューズ時代のなかでそれほど広く認知されたものではないかもしれないが、この試合に勝利したことによってヒューズはハードコアなMMAファン・コミュニティーのなかでの地位を確固たる物にした。ヒューズ戦の後の桜井は青木真也、ジェンス・パルヴァー、ヨアキム・ハンセン、そしてマック・ダンジングに勝利しUFC唯一の参戦後の戦績は決して悪いものではない。

BJ
ペン I – 2004131UFC 46
結果ペン W1ラウンド・サブミッション
桜井の勝利のあと、ヒューズは再戦となるニュートン、技術に優れたグラップラー、ギル・カスティーヨ、彼自身と瓜二つな戦い方をするショーン・シャーク、そしてトラッシュ・トークの相手役であるフランク・トリッグから勝利を奪い取った。その戦いを通じてヒューズはUFCの正統なスターとなり、元ライト級タイトル挑戦者のBJペンのウェルター級デビュー戦の相手としてその前に立ちふさがるべき選手として期待されるようになった。しかし、それはヒューズにとって思い通りにはならない試合となってしまった。

試合開始のベルの直後から、ペンはヒューズを動かし続け、物理的に体の大きささえチャンピオン、ヒューズよりも大きくすら見えた。すぐにヒューズはマットに倒された-高い技術を誇る柔術の神童を迎え撃つのには最悪の状況だった。ヒューズの名誉のために言えば、ヒューズはチャンピオンにふさわしい戦いを見せた。深刻なダメージを受けることなく、ペンに効果的な打撃を放ち続けた。

しかし1ラウンドの最後の1分を迎えると、試合の流れを引き寄せたのはペンの打撃だった。ヒューズは鼻から出血を誘う打撃で硬直し、本能的に横を向いてしまいペンにバックを奪われた。首を折らんばかりの素早さで、ペンは即座にヒューズのバックを奪うとリア・ネイキッド・チョークを深々と食い込ませ、新たなチャンピオンが誕生したのだ。

「自分が何をしでかしたのか分からない。」感情的な新しいチャンピオンはそう説明した。ヒューズもおそらく同じように感じていただろう。そして私がヒューズに彼らが再戦をするときに、その試合に備えるために最初の試合の映像を見たかどうか尋ねると、「ノー。見ていない。正直に言えば今後も見るかどうかさえ分からない。自分がどのような間違いを犯したかを理解している。あの試合のことはかなりしっかりと覚えていから、他の誰かに俺がどんなミスをしたかを話すためにわざわざ後戻りしてあれを見ようとは思わない。」

ジョージ・サンピエール
I – 20041022UFC 50
結果ヒューズ W1ラウンド・サブミッション
ペン戦での敗北のあと、ヒューズは5ヶ月もしないうちにオクタゴンに戻り、ヘナート・ヴェヒーシモを判定で下して勝利を手にした。この勝利がヒューズを無敗の若きカナダ人、ジョージ・サンピエールと空位となっているタイトルをかけて戦う機会に進めることとなった。サンピエールはカロ・パリジャンやジェイ・ヒーロンにオクタゴンの中で勝利し、すでに人々の耳目を集める存在であったが、

ヒューズはこの再び訪れた頂点へのチャンスを逃せる状況ではなかった。興味深い試合として紙面を飾り、たった
1ラウンドと言う試合時間にもかかわらず、その試合は人々の期待に応えるものであった。

キレのあるジャブといやらしいキックを織り交ぜ、サンピエールはテイクダウンさえも成功させながら前半でのサンピエールは23
歳と言う若さにもかかわらず170ポンドのエリートとやり合えるということを見せていた。ところがラウンドの後半になるとヒューズは彼の代名詞でもあるスラムをサンピエールに決めるとそのカナダ人のガードの上からパウンドを叩き込み始めた。しかしアリーナにいた誰もが本当に驚かされたのはヒューズが1ラウンド残り1秒、見事なトランジッションでアームバーで試合を終わらせてしまったときだった。

ヒューズはチャンピオンに返り咲き、彼の陣営は勝利の喜びを爆発させた。

フランク・トリッグ
II – 2005416UFC 52
結果ヒューズ W1ラウンド・サブミッション
2003年の11月、最初の戦いではヒューズに敗北したものの、フランク・トリッグはチャンピオンが自分よりも優れたファイターだと言うことを認めなかった。そしてトリッグがかつてのヒューズの宿敵、デニス・ホールマンを短時間で仕留め、さらにヒューズが判定までもつれこんだヘナート・ヴェヒーシモをも破ったとき、まさに再戦の機運が熟したのだった。ヒューズにとっては特に関心のある試合ではなかった。

「二度目のトリッグとの試合は乗り気ではなかった。なぜならそこから俺が勝ち取ることができるものが無い様に感じていたからだ。」とヒューズは認めた。「一度目のときよりもより良く相手を痛めつけることができるとも感じていなかった。となると再び試合をする意味はいったいなんなんだ?あの試合でトリッグは失うものがなく、俺には得るものが無かった。」

ヒューズは間違っていた。他の試合のように
55ラウンドに渡る試合ではなく、45秒に凝縮された、トリッグに勝利したその試合は間違いなくUFC史上にのこるベストファイトの一つになったからだ。

トリッグがヒューズを突き飛ばし、チャンピオンが押し戻すと言う試合開始時のにらみ合いの後、二人の戦士は金網の真ん中で出会って組合になるまでパンチの欧州を繰り広げた。金網に押し込みながら、トリッグはヒューズにローブローとなる膝蹴りをお見舞いするが、レフリー、マリオ・ヤマサキはそれに気づかなかった。ヒューズが退がりながら体力の回復を図ろうとすると、トリッグは飛び掛ってヒューズを左の顎からキャンバスに叩きつけた。

深刻なトラブルに見舞われ、ヒューズはトリッグがマウントを奪うために打ち下ろすグラウンドでの猛烈なパウンドに捕まってしまう。

ヒューズは下から逃げようともがくか興奮からか、残り
3分の時点でトリッグにバックを許してしまい、挑戦者トリッグはすぐにリア・ネイキッド・チョークの体勢に入った。ヒューズの顔面は濃赤色になるが驚くべきことにそこから脱出すると、相手を持ち上げ、彼の代名詞であるスラムで相手を背中から落とす前に金網の反対側まで持ち上げて運んだのだ。

今度はヒューズがコントロールをする番だった。フルマウントから両手でトリッグの守りをこじ開けた。満員の観客が熱狂する中、トリッグはうつぶせになり、ヒューズはその首にリア・ネイキッド・チョークを食い込ませ、45秒、タップを奪ったのだった。言葉が正義を行うことはない。もしこの試合を見たことが無いのなら、今すぐにでも見るべきだ。

ホイス・グレイシー
2006527UFC 60
結果ヒューズ 1ラウンドTKO
ハードコアなMMAのファンたちはその結末にそれほど驚くことはなかったが、カジュアルなファン層にとってUFCレジェンドの一人、ホイス・グレイシーがオクタゴンに帰還すると言うのは大事件であり、また大局的な視点で見たとき、これは古典的技術体系と近代UFCの最新の技術体系とのぶつかり合い、と言う意味合いもあった。ヒューズはグレイシーに大いに敬意を払ってはいたが、試合前の彼とじっくりと話せば彼がこの試合に敗北する可能性は微塵も存在しない理由を明確に語っただろう。

「ものすごい寝技野郎だ。」グレイシーの印象を訊かれたヒューズは語った。「正直に言うと選手になる前の俺は
UFCを見て育ったようなものだけど、俺なら勝てるっていつも思っていた。総合のトレーニングを始める前ですら”俺はあいつに勝てる”ってね。奴の寝技には敬意を払わないといけないね、でもそれ以外の部分は奴には何も無いよ、何にも無いんだ。」

「奴はサイコロを振っているんだ。」ヒューズは続けた。「奴はギャンブルをしていて、勝ち目がある、って思っている、俺をサブミッションで捉えるって勝ち目がね。実際のところ奴が俺をサブミッションに捉えるには結構いくつものミスを連続して俺が犯さないといけない。奴は素早いサブミッション・アーティストではないからね。」

試合のベルが鳴ると殿堂入り選手、ホイスにヒューズの相手は荷が重過ぎるのは明らかだった。しかしグレイシーは
1ラウンド439秒にフィニッシュが訪れるまで折れない心で戦い続けた。

BJ ペン II – 2006923UFC 63
結果ヒューズ 3ラウンドTKO
UFC 63のメインイベントで予定されていたヒューズとサンピエールの再戦はGSPの負傷により消滅、その対戦相手に名乗り出たのは復帰戦が熱望されていたBJペンであった。

「この試合にはそそられるね。」ヒューズは試合前に語った。「以前俺に勝った奴とやることになった、このプレッシャーは俺ではなく
BJの肩にのしかかっているぜ。俺は負けて失うものは無い-奴はすでに一度俺に勝っているんだ。俺はまっさらな状態で試合をして、勝つためにするべきことをするだけだ。奴はすでに俺から奪った勝利を守るために戦わなくてはいけない側だよ。」

ペンは一戦目の勝利をまもるために
1ラウンドは素晴らしい働きをみせ、そして2ラウンドも試合を完全にコントロールしていた。誰もが試合の終わりは近い、と見ていたがヒューズだけは違った。

「最初の
2ラウンドを落としたのは分かっていた。」ヒューズは語った。「つまり3ラウンドはまだ残っているってことさ。」

この王者としての態度が
3ラウンドには功を奏した。疲労したペンにヒューズは襲い掛かりペンをパウンドで仕留め、その戦績をイーブンにした。

1120日、ヒューズは三度ペンと対戦する。ヒューズの名声がすでに確立しているいま、彼に期待するのは再び最高の状態のマット・ヒューズで”ザ・プロディジー(神童)”との決戦に臨むことだけだ。

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