UFCファイトナイト・オーランド見どころ:大輪を競い合う遅咲きの苦労人

UFCファイトナイト 見どころ
UFCファイトナイト・ウィニペグ:リカルド・ラマス vs. ジョシュ・エメット【カナダ・ウィニペグ/2017年12月16日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・ウィニペグ:リカルド・ラマス vs. ジョシュ・エメット【カナダ・ウィニペグ/2017年12月16日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間2月25日(日)に開催されるUFCファイトナイト・オーランドのメインイベントでは、ジョシュ・エメット(米国)対ジェレミー・スティーブンス(米国)戦が行われる。

スティーブンス、「オレはレベルが違う野獣なんだ」

前々回はギルバート・メレンデスに判定勝ち(UFC 215、2017年10月)、前回はチェ・ドゥホにノックアウト勝ち(UFCファイトナイト・セントルイス、2018年1月)と、戦歴40戦のベテラン、スティーブンスはここに来てキャリアハイのような充実ぶりを見せている。連勝と連敗を繰り返す粗いケンカ屋というかつてのイメージは影を潜め、今やまるでカオスを支配する賢者である。

「これまで、勝っても負けても、次の試合には必ず、改良バージョンの自分をお見せしてきた。まるで『ターミネーター』のように、毎回進化した武器と経験を身につけてきたんだ。このスポーツでは、進化しない人は死んでいるのと同じなんだよ」

「自分の進化も、試合中の対応力も、これまでの経験も、すべてが合わさってファイトIQが高まってきている。いつ殴るべきか、いつディフェンスすべきか。いつポイントを稼ぎ、いつフィニッシュするか。そうしたことが手に取るように分かるようになってきたんだ。心理的なアドバンテージは常にこちらにある。こうしたことは、自分で学び取るしかないことなんだよ」

特にメインイベントの5ラウンド戦の場合、8週間ないし12週間の合宿でコンディションを作る選手が多い中、ドゥホ戦からわずか6週間後の今回の試合を、スティーブンスは迷うことなく引き受けた。

「オレはもう、合宿はやらないんだ。試合のない時でも、常にしっかりと走り込んでいるし、長い距離を泳いでいる。ライフスタイルそのものをアクティブに保っているんだ。プロのファイターである以上、急なオファーにも常に備えておかないといけないからね」

「おかげでビールもろくに飲めなかったのは確かだが、2試合連続のメインイベントだぞ。こんなチャンス、逃すわけにはいかないじゃないか」

対戦相手のエメットに対しては「とてもタフで、激しい試合をする選手だが、オレはレベルが違う野獣なんだ。嵐のように襲いかかり、圧倒してやる」と闘志を燃やしている。

一番エキサイティングな試合を見せたいと意気込むエメット

前回、2017年12月のUFCファイトナイト・ウィニペグで、ジョゼ・アルドの代打として急きょ出場したエメットは当時ランキング3位のリカルド・ラマスを、第1ラウンドに左フックワンパンチでノックアウトに切って落とし、世界を驚かせた。この試合はUFC公式サイト選定、2017年アップセット(番狂わせ)ベスト10の第2位に選ばれている。

チーム・アルファ・メール所属12年のベテランで、ローカル団体で無傷の9連勝という実績をあげていたエメットだが、チャンスに恵まれず、引退を考えたこともあった。

「僕はもう30歳になっていて、常にUFC入り間近とされていたんだけれど、UFCに問い合わせるたびに“あと1勝しなさい”と言われていた。それで2016年になって、今年の終わりまでにUFCに入れなければ普通に就職をしよう、と決心していた」

しかし2016年5月8日、エメットは31歳にしてついにUFCデビューを飾る。欠場選手の穴埋めで、わずか4日前のオファーを受けてオランダに飛び、判定勝ちを収めたのだ。以降、UFCでは4勝1敗、今回が初のメインイベント登場となる。

ちなみに現在のランキングはエメットが4位、スティーブンスが8位だ。両者の知名度を考えると意外な気もするが、勝ってランクアップできるのはスティーブンスの方なのだ。スティーブンスについてエメットは次のように分析している。

「僕らはファイトスタイルが似ている。共にレスリングのバックグラウンドがあって、パワフルで爆発力もある。自分自身と戦うみたいな気分だ。乱打戦になるだろう。でも、僕の方がスピードがあって、動きがトリッキーだと思うよ」

遅咲きのエメットは「僕にゆっくりしている暇はない。今年中にはタイトルを取りたいんだ」と意気込む。

「だから、勝つだけではなく、大会で一番エキサイティングな試合をお目にかけたい」

“くい打ち機”対“トルネード”

セミメインイベントに登場するのは、昨年9月のUFCファイトナイト・ジャパンで、女子ストロー級レコードとなる1試合242発の打撃を繰り出して劇勝、敢闘試合賞(ファイト・オブ・ザ・ナイト)を獲得したジェシカ・アンドラージ(ブラジル)だ。小柄な体格のため、バンタム級時代には4勝3敗と伸び悩んでいたアンドラージも、ストロー級転向後は4勝1敗。減量してもパワーはそのままに、ヴァンダレイ・シウバのような突進力でファンを沸かせている。ニックネームの“Bate Estaca(バチ・エスタカ)”はパイルドライバー(くい打ち機)の意味。オクタゴンに足を踏み入れる際に、ドスン、ドスンと足を踏みならすルーチン動作にちなんだものだ。

対戦相手のテシア・トレス(米国)はベック・ローリングス、ジュリアナ・リマ、ミシェル・ウォーターソンを相手に3連勝で2017年を駆け抜けて目下絶好調。愛称の“タイニー・トルネード(チビ台風)”が示すように、空手とムエタイをベースとする手数の多い打撃スタイルが特徴である。昨年5月には大学院を無事卒業(専攻は犯罪学)、トレーニング一筋の生活になったことも好調の原因だ。

トレスはアンドラージ戦について、「タフでパワフルで、グラウンド・アンド・パウンドが好きな選手だから、私もその対策に集中している」と語っている。同性パートナーであるUFC女子バンタム級トップファイターのラケル・ペニントンが2015年にアンドラージをチョークで締め落としており、対策をばっちり授かっているのだという。

一方、やはり昨年、同性のパートナーを得たアンドラージは「どんな作戦で来るのかは知らないけれど、乱戦になるでしょう。私はオクタゴンに上がり、意地悪な顔でトレスにこう言ってやる。“あんた、まずいよ。今日の私は凶悪な気分だから”ってね」と脅迫を予告している。

“くい打ち機”対“トルネード”のとんでもない抗争劇の行方、黙って見届けるしかない。

【文 高橋テツヤ】
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