レガシー・オブ・ジョゼ・アルド

UFC
UFC 218:公式計量セレモニーに登場したジョゼ・アルド【アメリカ・ミシガン州デトロイト/2017年12月1日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 218:公式計量セレモニーに登場したジョゼ・アルド【アメリカ・ミシガン州デトロイト/2017年12月1日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
ジョゼ・アルドと対戦してきたファイターたちは、足にくらった強烈なキックを、顔に浴びせられた鋭いパンチを、そして、勝利への不屈の意思を、決して忘れないだろう。“ザ・キング・オブ・リオ”が史上最高のフェザー級ファイターとして、また、母国ブラジルのアイコン的な存在として引退した理由が、まさにそれだ。

人々の心に残り続けるもう一つのものが、そのスマイルだろう。

何年もの間、アルドの顔いっぱいに広がる笑顔をわれわれは垣間見てきた。彼が笑うとき、まるで室内に光が差すかのようだった。その様子は、アルドが長年のチームメイトであるヘナン・バラオンと一緒にいる写真からも見て取れる。2人が2014年にニュージャージー州ニューアークのプルデンシャル・センターで実施されたUFC 169でそれぞれのタイトルファイトに臨むべく、ニューヨークを訪れたときの一枚だ。

ノヴァウニオンに所属する2人の傑出したアスリートには、ハッピーになるだけの理由があった。彼らはそのショーのスターであるだけではなく、自分たちでそこまで上りつめたのだから。厳しい時に耐え、激戦や長期戦を乗り越え、ときには自分たちがMMA(総合格闘技)の頂点に立つことができるのかとの疑問を振り払って。

2008年6月に組まれたアレッシャンドリ・ノゲイラとの対戦を前に、アルドはそういった時期について語っていた。アルドはWECでデビューし、ハードコアな格闘技ファンにはよく知られた10勝1敗の有望株ながらも、未来の宿敵であるユライア・フェイバーと元UFC王者ジェンス・パルヴァーの戦いをサクラメントのアルコ・アリーナに見に来た観衆たちにとっては無名の選手。アルドが登場するのはその夜の2試合目だったが、それがどの位置であれ、キャリアを前進させてくれるならなんでも歓迎だった。

「キツイ時を過ごしてきた」とアルドは言った。彼はすでに、リオデジャネイロのアンドレ・ペデネイラスとノヴァウニオンの元でトレーニングすべく、すべてを故郷のマナウスに置いてきたのだ。当時はUFCにフェザー級がなく、ノゲイラとのバトルは21歳のアルドにとって将来へのチケットだった。これに勝てば、これまでとは違う未来が見えてくる。敗北という選択肢はなかった。

「俺は今の位置にたどり着かなきゃいけなかったし、そのことを誰よりも望んでいた」とアルド。同郷のノゲイラを第2ラウンドで仕留めたアルドは、WECのケージに上って勝利を誇示した。そして、バックフリップでケージの外へ飛び降りた。頬は緩んでいたものの、笑顔ではなかった。その時は、まだ。やるべきことは、まだあった。そして、彼はいつか、145パウンドの階級で誰よりもうまくそれをやり遂げるのだ。

WECでさらに3つのノックアウトを決めたアルドは、2009年6月にカブ・スワンソンと拳を交え、8秒で試合を終わらせた。タイプミスではない。8秒だ。

それから5カ月、アルドはマイク・ブラウンからベルトを奪い、WECフェザー級チャンピオンになった。さらにはWEC史上最大のバトルとなった過酷な5ラウンドマッチでフェイバーを打倒。マニー・ガンブリャンを相手に最後のタイトル防衛に成功した後、UFCがWECファイターを迎えてフェザー級およびバンタム級を創設したのに伴い、UFCフェザー級初代王者となっている。

アルドはたどり着いた。最初に触れたニューヨーク訪問の頃までに、アルドはマーク・ホーミニック、ケニー・フロリアン、チャド・メンデス、フランキー・エドガー、ジョン・チャンソンらを破り、5度のタイトル防衛に成功している。

そのスキルは明らかにトップクラスだ。しかし、アルドがトップに君臨し続けた理由は、そのマインドセットにある。

2014年のリカルド・ラマスとの対戦前、堅牢な(そしておそらく満足している)王者としてではなく、まるでハングリーなファイターのように毎回戦えるのはどうしてか尋ねられたアルドは「俺は彼らのように夢見続けている」と答えた。

アルドの夢は決して尽きなかった。2015年には格闘技ファン以外の心もわしづかみにした一戦でコナー・マクレガーにタイトルを奪われ、こういった苦い敗戦を経れば誰でも勢いを落としたり、競技への愛情を失ったりしがちであるにもかかわらず、アルドは再びタイトルを取り戻している。また、その後も苦しい敗北を乗り越え、バンタム級での3試合でその偉大さをファンの心に刻みつけた。アルドはこの3つのバトルで、マルロン・ヴェラ、ペドロ・ムニョス、ロブ・フォントを立て続けに倒している。30代半ばのアルドは21歳の頃とは別のファイターになっていたが、マインドは変わらなかった。ハングリー精神も決して消えてはいない。過ぎゆく時の手が忍び寄る中、アルドは戦術を変え、スキルセットを完成させ、ガッツとファイトIQを頼りに戦い、まれにしか見られない類のアスリートであることを見せつけた。

ビッグアップルでバラオンと一緒に記者対応したアルドは「家族や友人、皆と離れ、自分の夢に向かって何かを見つめだすとき、それは暗闇に向かって射撃するようなものだ」と話した。

「だから、俺たちはいつもそのことを考えていた。俺たちはどうにかして自分たちの人生を良くして、家族や両親を助けたちと思っていた。それは俺だけの夢じゃなく、ヘナンや、このゲームにいる全員の夢でもある」

ジョゼ・アルドはその夢を生きた。これから、彼の顔にはもっと多くのスマイルが浮かぶのだろう。
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