UFC 214見どころ:ジョーンズは本当に再生したのか

UFC PPV 見どころ
サマーキックオフ記者会見【Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images】
サマーキックオフ記者会見【Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images】
2008年にUFCデビューしたジョン・ジョーンズは破格の若手だった。「ジョーンズはYouTubeでプロレスの動画を見て技の研究をしたらしい」との逸話が広がり、その逸話通りの、「リアルファイトでこんな技が本当にできるのか!」との驚きに満ちた戦い方で白星を重ねた。そして2011年3月、UFC 128でマウリシオ・“ショーグン”・フアを下し、UFCライトヘビー級ベルトを史上最年少(24歳)で獲得する。戴冠後にはクイントン・ランページ・ジャクソン、リョート・マチダ、ラシャド・エバンスという3人の元王者を簡単に退けてタイトルを防衛しており、まさに異次元の強さに、誰もがジョーンズの長期政権を確信したものだった。

この頃、UFC会長のデイナ・ホワイトは「取り巻きも増える。よからぬ輩(やから)も寄ってくる。ここから本当の試練が始まる」と語っている。



深まるコーミエとの確執

エバンスに勝ったわずか1カ月後の2012年5月、ジョーンズの運転するベントレーが電柱に激突する自損事故が発生。ジョーンズは駆けつけた警官に飲酒運転の疑いで逮捕される。車にはジョーンズの恋人ではない女性2名が同乗していた。

その後、UFC 178での対戦が内定していたダニエル・コーミエ(米国)とジョーンズが初めて顔を合わせたのは2014年8月に開かれたイベントでのこと。フェイスオフの際、ジョーンズが見下すようにコーミエに額と額をあわせたところ、怒ったコーミエがジョーンズを突き飛ばし、ジョーンズもパンチで逆襲、そこから収拾の付かない大乱闘が繰り広げられた。吹き飛ばされるUFCスタッフ、崩れ落ちるバックパネル・・・。会場のMGMグランド・ガーデン・ホテルのロビーで、人が逃げ惑い、物が飛び交う修羅場の中、ジョーンズは狂気の咆吼(ほうこう)で勝ち誇っている。

さらにその夜、両選手は『ESPN』の看板ニュース番組“Sports Center(スポーツセンター)”に出演。放送中こそ騒動に対する謝罪と反省の弁を述べていたジョーンズだったが、“ON AIR(オンエア)”の赤いランプが消えたとたん、コーミエに「貴様を本当に殺してやる。比喩ではなく、文字通りにだ」と脅迫したのだった。この時の動画は後にUFCのプロモーションビデオで繰り返し公開されることとなる。

しかしながら、ジョーンズが練習中にヒザを負傷したことから仕切り直しを強いられ、両者は2015年1月に行われたUFC 182で対戦。ジョーンズは五輪レスラーのコーミエから3回もテイクダウンを奪ってみせ、ユナニマス判定勝ちでタイトル防衛に成功した。

ただ、この試合後、2014年12月に実施されていたジョーンズの抜き打ち薬物検査の結果が発表され、コカインが検出されたことが判明する。競技期間外のコカインは本来検査対象ではないため、処分対象とはならなかったものの、ビッグマッチの前にコカインを使っていたことは驚きを持って受け止められた。

ひき逃げ事件で執行猶予、長期欠場へ

2015年4月、ジョーンズはレンタカーでアルバカーキー市内を走行中に交通事故を起こす。原因はジョーンズの信号無視。車3台を巻き込む衝突事故で、うち1台は妊婦が運転していた。妊婦は腕を骨折(胎児は無事)する重傷だった。ジョーンズは救助活動を行うことなく事故現場から逃走しており、目撃者によると、逃走後にいったん現場に戻ったジョーンズは自分の車の中を物色、「大きな札束」をわしづかみにすると、それをズボンに突っ込んで再び逃走したという。

「飲酒していたから、一刻も早く現場を立ち去りたかった。相手方が妊婦だと知って、お子さんが亡くなりでもしたらもうおしまいだ、牢屋(ろうや)に入れられると思った。俺にも娘が4人いる。自分でも自分のことをモンスターだと思った」

そう明かしたジョーンズには18カ月の執行猶予判決と72回の社会奉仕活動への参加命令が下される。この件を受けてUFCはジョーンズのタイトルを剝奪、ランキングからも除外し、無期限の出場停止処分を科した。

2016年3月にはアルバカーキー市内で自動車を運転していたジョーンズが信号待ちでエンジンを吹かしていたところ、警察官から職務質問を受ける。ジョーンズは危険走行をしていたわけではないと主張したが、警官とのやりとりに冷静さを失い、警官に対して「インチキ野郎」などと暴言を吐いてしまう。執行猶予期間内の違反行為としてジョーンズは拘置所で3日間を過ごした。

2016年4月、出場停止処分を解かれたジョーンズはUFC 197でオヴィンス・サン・プルーと対戦して判定勝ち、暫定ライトヘビー級王座を獲得。3カ月後の2016年7月に予定されていたUFC 200で、正王者コーミエとの統一戦に臨むことが既定路線となった。

しかし、UFC 200開催3日前に、ジョーンズの薬物検査でエストロゲン・ブロッカーが検出され、失格していたことが判明し、試合はキャンセルされた。その後の調査で、ジョーンズが使用した勃起不全治療薬に、表示成分以外の禁止薬物が含まれていたことが明らかになっている。この件を受けてUFCでは再びジョーンズのタイトルを剝奪、1年間の出場停止に処した。

「この試合に勝って自分の人生を取り戻す」

今年5月に行われたサマーキックオフ記者会見で、コーミエは「ジョンは本当に試合に出てくるのだろうか。それともまた、ステロイドやコカインを打って、試合を台無しにするつもりなのだろうか」と、リアリティあふれる毒舌を吐いている。これに対してジョーンズは、「前回はコカインをやった翌週にお前を倒したんだ。あの時は2週連続でご機嫌だった。1週目はコカイン、2週目はお前だ」と、この期に及んでいまだに反省しているとは思えない切り返しをしている。

日本時間7月30日(日)に開催されるUFC 214での対戦を前に、コーミエは「パーティー、ドラッグ、酒。自分自身であるために、あいつには必要なものだったんだろう。彼は悪魔に魅入られている。悪魔に乗っ取られていることを自分で認めない限り、克服などできない。あいつは自分がけん伝しているような人間になることができるかもしれない。ただそのためには、今回、俺に負ける必要がある」とコメント。

一方でジョーンズは次のように言葉を残している。

「コーミエは“自分は良い人でお前は悪いヤツ”という物語に固執している。自分にはもっと辱めが必要だと考えている。もう自分の生き方を邪魔されるのにはウンザリだ。この試合には勝つ。そして自分の人生を取り戻す」

試合後にジョーンズがどんな人生を取り戻すことになるのか。ドラマはまだまだ終わりそうにない。

【文 高橋テツヤ】
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