
そのニュースを聞いたマーク・ハントの口調には本当に驚いたという響きがあった。
日本時間3月20日(日)にブリスベン・エンターテインメント・センターで開催されるUFCファイトナイト・ブリスベンのメインイベントでフランク・ミアと戦う”スーパー・サモアン”ことハントの賭け率がついに本命(勝利を予想されている側)になったのである。
「本当にオレが本命なの? それは素晴らしい。こんなことは初めてじゃないか(笑)」
ここにきてやっと世界は、UFCヘビー級ランキング9位につけるハントの過小評価をやめたのかもしれない。
ハントが長い間アンダードッグ(劣勢が予想されている側)と考えられてきたことには、一見もっともらしい理由がある。なにせ身体が引き締まっているわけでもなく、MMA戦績は11勝10敗1分けとパッとしない。戦績が奮わない理由の1つには、ハントがこのスポーツに真剣に取り組んでいなかったおなじみの時代があったこともある。
ただ、そうしたことはハントの評価として公平とは言えない。あのガッチリした体格を見ただけで、ハントのパンチがパワフルであることは想像が付くだろうが、元K-1ワールド・グランプリのキックボクシングチャンピオンだけあって、その打撃は見かけによらずスピードがあって精度も高い。ロイ・ネルソン戦、ステファン・ストルーブ戦での凶悪なワンパンチ・ノックアウトを含めて、UFC戦績6勝のハントは正真正銘のトップファイターなのである。
前回のアントニオ・”ビッグフット”・シウバ戦は激しい応酬の末に引き分けに終わったUFC史上最も有名な試合の再戦だった。しかし、再戦ではそこまでの時間をかける必要はなかった。テンプル(こめかみ)へのパンチでダウンさせた後、パウンドで追撃し、ハントがシウバを第1ラウンドの3分41秒でフィニッシュしたのだ。昨年5月のスティペ・ミオシッチ戦での一方的な敗北から、ハントが復活を遂げたことは明らかだった。
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しかし、41歳のハントはアンダードッグの役回りの方が好きなのだと語っている。
「本命評価はつまらない。オレは過小評価されているのが好きなんだ。誰も予期しないような勝ちを盗み取ることができるからね」
ニュージーランド生まれのオーストラリア人であるハントは、UFCヘビー級ランキング10位のミアのスキルに敬意を払っている。ラスベガス出身のミアは、これまでUFCヘビー級ベルトを2度獲得しており、これは、2014年11月にファブリシオ・ヴェウドゥムに第2ラウンドTKO負けを喫して暫定王座を失ったハントには成し得ていない偉業だ。
「フランクは世界最高の選手の1人だ。ランキングは10位だし、これまでに2回も世界王者になっている。オレはUFCチャンピオンになったことがないが、彼は2回なっているんだ。トップ中のトップだよ。彼がカナダでノゲイラの腕を折るところも見ていたし、彼の強い試合をこれまでいくつか見てきた」
ミアと対戦する選手が不安に思うことがあるとすれば、それはミアが関節技を決めると、本当に決定的なフィニッシュまで持って行ってしまうことだ。しかし、ハントはミアのこうしたアプローチを理解できるという。
「それこそあるべき姿だよ。関節を取ったのなら、完全にねじ切ってしまわないといけない。オレでも同じことをする。やる以外に選択肢はないんだ」
少なくとも理論上は、素直に楽しめるような試合になるように思える。ハントはミアをノックアウトしようとするし、ミアはハントを寝かせて一本を取ろうとするだろう。ただし“スーパー・サモアン”はミアの狙いを淡々と切って捨てている。
「彼にはオレをテイクダウンできないし、関節技もかけられないと思うよ」
では、仮にミアがハントをグラウンドに持ち込むという最悪のシナリオとなった場合、ハントは何を思うのだろう?
「くそっ! だよ」とハントは笑う。「たぶん、そう思うだろう。でも、そもそもどうやって寝かされたんだ、という話なんだ。その最初のポジションに行かせないで予防をすることが何よりも肝心だからね。ただし、もしグラウンドになったとしても、オレは関節技のディフェンスもたくさん知っている」
柔術紫帯のハントではあるが、実は黒帯のスキルがあると信じている。
「そう、オレは本来、柔術黒帯であるべきなんだ。もう12年から13年もやっていて、今は紫帯なんだけど、別に帯の色を追いかけているわけじゃないからさ。最初の試合からずっとトップレベルの相手と戦ってきて、関節技のディフェンスはたくさん練習した。帯の色は別にいいんだ。関節技のディフェンスを学ぶ必要があっただけなんだから」
ハントといえば、もともと試合前に対戦相手をトラッシュトークでこき下ろすタイプの選手ではないが、今回2人のベテランの間には、お互いに対する敬意が特に強い。実際、ハントとミアはオーストラリアのラジオ番組で”ほめ殺し”を展開、互いをほめ合うことを競い合ったのだった。
「普通のことだよ」とハントは述べている。「ただの仕事だ。何も悪いことはない。これがオレらのやり方なんだ。品があって結構なことじゃないか」
ここがハントの“らしさ”なのだ。格闘技経験20年を越え、試合に向けての偽物の因縁など、もはや必要ないのである。対戦相手が代わっても、彼の仕事は変わらない。ハントはUFCオクタゴンの中でも外でも、あくまで冷静で実務的だ。そんなハントの姿勢は、ノックアウトパンチをお見舞いした後、さりげなく歩き去る、あのお得意のシーンに完ぺきに凝縮されている。
「オレは感情を持ち込まないようにしている。頭をクリアにしておこうとしているだけなんだ。感情的になると疲れてしまう。試合では感情的になりたくない。感情的になっていると、深みにはまるように危険が迫ってくる。だから、頭をクリアにするように努めているんだ」

ハントにとっては何よりも、試合は家族を養うための術である。
2015年に出版された自伝『Born to Fight(ボーン・トゥ・ファイト)』では、貧困と暴力の中で育ったハントの幼少時代のゾッとするような詳細が描かれた。最近家族でサモア旅行を楽しんだというハントは自分が経験できなかった生活を子どもたちに与えている。
「家族や子どもと楽しく過ごし、思い出を作るのはいいね。オレにとって大事なのは結局、家族と子どもの面倒を見ること、それしかない」
ハントは、まずミアを下し、次にはヘビー級トップ5の選手と試合をして、ベルト再挑戦に向けて前進していきたいと考えている。
「タイトルマッチに近づいていくこと。常に目的はそれなんだ」
ハントは今回の試合の結果予想を具体的に語っていない。この競技を長くやってきて、試合で確実なことなど何もないことを知り尽くしているからだ。
「どういう試合になるのかは分からない。ただベストをつくして、第1ラウンドで終わらせたい。物事はなるようになっているのさ」