6月のオクタゴンではJay-Zのリリック――“最高の始まり、最高の終わり”――のようにバリエーション豊かなアクションが繰り広げられた。6月の始まりも終わりも、注目の試合が詰まったペイ・パー・ビューイベントであり、複数の階級にその大きな余波が及んでいる。
ショーン・カーター(Jay-Z)が歌詞で意図したものとは違うものの、6月の月間レポートにはピッタリなので、これを導入とさせていただこう。これからの試合に備えるべく、まずは6月のトップパフォーマンスを振り返る。
ブレイクアウト・パフォーマンス:ジョシュア・ヴァン(UFC 316 & UFC 317)
その月のPPVイベント2つに連続出場した時点で、ブレイクアウト・パフォーマンスの受賞は決定。それが新たなルールだ。
23歳のフライ級ファイターであるヴァンは、UFC 316でブルーノ・シウバを3ラウンドでストップし、卓越したボクシングスキルに加えて、ファイターとしての成長を存分に見せつけている。ミャンマー出身のヴァンは試合を通じて冷静にチャンスを見極め、着実にダメージを与え続けた。ベテラン相手の試練は一転、お披露目の舞台と化し、最終的にはフェンス際で放ったボディショットでブラジル人ファイターを沈めている。
この勝利だけでも十分に賞に値するインパクトだったが、ヒューストンで暮らすヴァンは、それでは満足しなかった。勝利の祝杯でも水しか飲まず、その場でUFC 317でのブランドン・ロイバル戦に、マネル・ケイプの代役として出場することを即決したのだ。
そして、ラスベガスで行われたその夜のノンタイトルマッチの最後に登場し、ロイバルを撃破することで、タイトル挑戦への切符は手にしたも同然の勝利を収めた。
第1ラウンドはヴァンが優勢。ロイバルの長いリーチを上から打ち抜き、すぐさまこの舞台にふさわしい存在であることを証明した。デンバーを拠点とするロイバルが第2ラウンドで巻き返すと、第3ラウンドは拮抗した展開に。だが終盤、ヴァンが鋭い右ストレートをヒットさせてロイバルをキャンバスに沈め、勝利を決定づけた。
シウバ戦での勝利はこれまでのヴァンのキャリアで最大のハイライトとなり、将来のフライ級コンテンダーとしての地位を築くことにつながった。その3週間後には、フライ級ランキングの頂点を射程圏に捉え、連勝を5に伸ばしてオクタゴンでの戦績を8勝1敗としている。
月初めの時点でも、ヴァンがこの階級のトップ戦線で戦う未来は見えていた。UFC 317が終わった今となっては、問題はその未来が存在するかではなく、どれだけ早く訪れるかに移っている。
特別賞:ユ・ジュサン、アンドレアス・ガスタフソン、マルコム・ウェルメーカー、ホセ・オチョア、コ・ソクヒョン、ナジム・サディコフ、ホセ・ミゲル・デルガド
サブミッション・オブ・ザ・マンス:ショーン・オマリーにタップアウトさせたメラブ・ドバリシビリ(UFC 316)
“ザ・マシン”ことドバリシビリがさらなる進化を遂げている。

バンタム級王座をオマリーから奪ってから9カ月、ドバリシビリはUFC 316のメインイベントで再びオマリーと対戦。2人にとって2度目のオクタゴンでの対峙となった。多くの関係者は、初戦と同様の展開、つまり、ジョージア出身の王者がこれまでの連勝街道で見せてきた戦法を繰り返すと予想していた。だが35歳のドバリシビリは、まるでM・ナイト・シャマランの映画のようなひねりの効いた結末を披露した。
ドバリシビリは2ラウンドにわたりオマリーを何度もテイクダウンし、これまで通りのスタイルで圧倒。しかし第3ラウンド、オマリーに立ち直る余裕をわずかに与えた上で、変則的なニンジャチョークを仕掛け、元王者からタップを奪った。
試合前、ドバリシビリとコーチのジョン・ウッドは、王者が常に生み出しているグラップリングのポジションにおいて、より多くのフィニッシュチャンスを狙うべく練習を重ねてきたと語っていた。待望のオマリーとの再戦が始まってからわずか15分足らずで、その成果を存分に発揮したドバリシビリが、オクタゴンで初となる1本勝ちを飾っている。
これまでの特長だった無尽蔵のスタミナと容赦ないレスリングだけでも対戦相手たちは頭を悩ませてきたが、今や試合をフィニッシュさせるスキルも身に着けた“ドバリシビリ2.0”が誕生したことで、バンタム級の挑戦者たちは、さらに対策を練り直さざるを得なくなっている。
特別賞:ケビン・ホランド vs. ビセンテ・ルーケ、ケイラ・ハリソン vs. ジュリアナ・ペーニャ、ムフトベク・オロルバイ vs. トーフィク・ムサエフ、ジャコビー・スミスvs. ニコ・プライス、テランス・マッキニー vs. ヴィチェスラフ・バルショフ、アレシャンドレ・パントージャ vs. カイ・カラ・フランス
ノックアウト・オブ・ザ・マウス:ジェカ・サラギをノックアウトしたユ・ジュサン(UFC 316)
今年上半期のUFCでは、数々の印象的なデビューパフォーマンスが見られた。しかし、その中でもトップクラスだったユ・ジュサンは、6月序盤にアトランタでジェカ・サラギを28秒でノックアウトするという活躍を見せている。
このフィニッシュは数年前に、カンバスで顔を突き合わせるが否や、相手を倒したショートの左フックを思い出させる。それは納得の展開だった。というのも、レポーター陣が韓国からやってきたニューカマーが過去にSBGアイルランドでトレーニングしていたこと、ジョン・カバナコーチが、ユの戦いにはコナー・マクレガー流の打撃アプローチが随所に垣間見えると感じていることを伝えていたからだ。
サラギが前進し、アクションを展開してユを攻撃しようとした瞬間、“ゾンビジュニア”ことユはセンターラインから半歩ほど引いて、素早く、狙いをすました左フックをあごに叩き込んだ。これがインドネシアからやってきたサラギの電源を完全に落としている。当たった瞬間に、紛れもなく最後の一撃であることが明らかだっただけではなく、ユの名前を見る者すべての頭に刻み込む一撃でもあった。
プロ9勝で無敗、勝利の半数以上でフィニッシュを決めてきた31歳の新人UFCファイターは、2025年の後半を迎えるにあたり、注目すべき選手の1人だ。今回のデビュー戦のパフォーマンスを見るに、再び戻ってきたユが何を見せてくれるか、期待は高まる。
特別賞:ホセ・オチョア vs. コーディ・ダーデン、マルコム・ウェルメーカー vs. クリス・モウティーニョ、ホセ・ミゲル・デルガド vs. ハイダー・アミル
ファイト・オブ・ザ・マンス:ジョシュア・ヴァン vs. ブランドン・ロイバル(UFC 317)
タイトル挑戦権が懸かる中、ジョシュア・ヴァンとブランドン・ロイバルが6月ラストの試合でオクタゴンに並び立ち、ファンの歓声がT-Mobileアリーナの屋根も吹き飛ばすような激戦を繰り広げた。

23歳のヴァンは試合開始直後から堂々たる戦いを見せ、トップランクのコンテンダーとの応酬で優勢に立った。素早いカウンターと多彩な攻撃を見せつつ、ロイバルが繰り出す攻撃に対応し、元タイトル挑戦者に対して無抵抗であるつもりはないことをすぐに示している。第2ラウンドではロイバルがやり返し、攻撃の手を強めて着弾率を高めると、ヴァンにプレッシャーをかけて試合を拮抗状態に戻そうとする。命中率ではロイバルが上回っていたものの、ヴァンの勢いはなおも衰えず、時に応戦しつつ、ひたすらロイバルに巻き返しの努力を続けさせた。
1対1で迎えた第3ラウンドは、大部分がボリューム対インパクトの争いになっていた。ロイバルは引き続き攻撃を当て続けるも、ヴァンはより大きなショットでそれに反撃。勝敗の行方が分からないまま終盤を迎えると、ヴァンがロイバルをグラウンドに倒し、そのままフロア上で相手を追いかけ、猛打を浴びせる。試合はそこで幕を閉じた。
スコアカードが集められ、集計が終わったとき、上に立っていたのはヴァンだった。ヴァンは6月で2勝目、今年で3勝目、わずか2年間に戦った9試合の中では8勝目に当たる白星を飾っている。
特別賞:ローズ・ナマユナス vs. ミランダ・マーベリック、カマル・ウスマン vs. ホアキン・バックリー、ナジム・サディコフ vs. ニコラス・モッタ、ペイトン・タルボット vs. フェリペ・リマ