毎月、優れたパフォーマンスを選出する上で特に難しいことの一つが、ファイトカードの中では目立たない、前座よりの試合の中から、称賛に値するものに光を当てることだ。大体的に宣伝されているわけでも、大きなものが懸かっているわけでもない試合の中にも、過去1カ月に間に行われた他の試合に引けをとらない名勝負はある。
月間レポートの特別賞ではそういったパフォーマンスを取り上げているものの、今月に銀メダルや銅メダルを授けられた試合たちには、別の月ならトップになっていてもおかしくなかったという印象がある。
たとえば、シャラ・マゴメドフはアルメン・ペトロシアンに、MMA界でもきわめて珍しいダブルスピンニングバックフィストを決めた。そんな独創的で衝撃的なパフォーマンスにもかかわらず、今月のノックアウト・オブ・ザ・マンスに選ばれたのは別の試合だ。同じことはコート・マクギーとライアン・スパンがソルトレイクシティで決めた第1ラウンド1本勝ちにも言える。いずれもすさまじく、もっと注目を浴びるにふさわしかったが、アブダビで決まったあまりにもインパクトの大きいフィニッシュが、今月のトップの座を奪った。
いずれにせよ、これはうれしい悩みと言える。つまりは、10月もオクタゴンにも傑出したアクションが満ちていたということなのだから。2024年が終わりに近づく中、話題にすべき見事なパフォーマンスはさらに増えている。
10月の傑出したパフォーマンスに選ばれたのは下記の通りだ。
ブレイクアウト・パフォーマンス:アンソニー・ヘルナンデス
これで6連勝を決め、4試合連続フィニッシュを達成した試合での活躍をブレイクアウト・パフォーマンスとするのは少し意外かもしれないが、先月にラスベガスでミシェル・ペレイラから第5ラウンドで見事にテクニカルノックアウトを奪ったヘルナンデスは、この栄誉にふさわしいと言える。
2021年2月に行われたUFC 258でホドルフォ・ヴィエラに逆転勝利を収めて以来、“フラッフィー”ことヘルナンデスは勝利を重ね続けてきたものの、先月にメインイベントのデビューを果たすまで、ミドル級の中では大きく目立つ存在ではなかった。現在の連勝に続く最初の2勝はペイパービューイベントのプレリムでのもので、その後の3連勝はメインカードでの勝利だったが、いずれも何かしらの要因でヘルナンデスのパフォーマンスが目立たなくなっていた。
先月の後半に組まれた試合で、急成長中のペレイラと対戦することになったヘルナンデスは、このチャンスを存分に活かし、競争が激化するミドル級で自分が本物の脅威であることを強烈に印象づけた。
激しい1ラウンドを経て、北カリフォルニア出身のヘルナンデスは試合の主導権をにぎり、続く 3ラウンドでは少なくとも1つのラウンドでジャッジ全員から10-8というスコアを獲得。さらに第5ラウンドの中盤には肘打ちの猛攻でペレイラを仕留め、6連勝を成し遂げた。
ヘルナンデスはUFC入りした時から大きな期待を背負いながらも、しばらくは結果を出すのに苦戦していた選手のひとり。地域の大会でブレンダン・アレンに判定勝ちしてLFA王座を獲得し、デイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズ・シーズン2ではジョーダン・ライトを破り、UFCの契約を手にした。しかし、UFCデビュー戦でつまずき、さらに2020年5月にはケビン・ホランドにも敗れ、3試合中2敗という苦しいスタートを切ることになった。
しかし、その後のヘルナンデスはまさに無敵と言えるだろう。その卓越したコンディショニングとタフさ、そして相手を圧倒する攻撃スタイルが対戦相手を追い詰め、確実にフィニッシュのチャンスを生み出している。その結果、現在ヘルナンデスはミドル級ランキングで13位につけており、次にリングに上がる際には、さらなるビッグネームとの対戦が待ち受けているかもしれない。
特別賞:カリル・ラウントリーJr.、コーディ・ハドン、ラマザン・テミロフ、キャメロン・スマザーマン
サブミッション・オブ・ザ・マンス:ロバート・ウィテカーにタップさせたハムザト・チマエフ(UFC 308)
「ロバート・ウィテカー相手にそんなことをするなんてあり得ない!」
これは、先月にアブダビでチマエフが元ミドル級王者ウィテカーを圧倒し、第1ラウンドで1本勝ちを収めた際、MMA界全体が発した驚きの声だった。そして、10月の栄誉がチマエフに贈られる理由でもある。
UFC 308での試合開始直後から、チマエフは一気に距離を詰め、ウィテカーをマットに引きずり込んだ。“ザ・リーパー”ことウィテカーをキャンバスに押さえつけ、少しずつ優位なポジションを確保していった。時間はかかったものの、ついにフェンス際でバックポジションを取ると、チマエフは強烈な打撃をウィテカーに浴びせ、あごを締め上げる絶好のチャンスをものにした。
ウィテカーは即座に、かつ必死にタップした。その様子から、何か異常が発生したことは明白だった。試合後の報告や写真により、ウィテカーがあごを負傷したことが確認され、このフィニッシュがさらに衝撃的なものとなった。
チマエフがこの賞を獲得した理由は、そのフィニッシュの技術そのものではなく、アブダビで見せた圧倒的なインパクトにある。
過去10年間でウィテカーが敗れたのは、元王者イズラエル・アデサニヤに2度、そして現王者ドリカス・デュ・プレシに1度の3回のみ。“ザ・ラスト・スタイルベンダー”ことアデサニヤには初対決で、“スティルノックス”ことデュ・プレシにはUFC 290で敗れたが、いずれも今回のチマエフのような迅速さで元王者ウィテカーを倒すことはできなかった。
開始早々から終始一方的な展開となったこの試合で、健康で好調なチマエフがミドル級で重大な脅威であることが改めて証明された。このパフォーマンスにより、2025年の王座挑戦が現実味を帯びてきたといえる。
特別賞:コート・マクギー vs. ティム・ミーンズ、ライアン・スパン vs. オヴィンス・サン・プルー、クレイトン・カーペンター vs. ルーカス・ホシャ、 パット・サバティーニ vs. ジョナサン・ピアース
ノックアウト・オブ・ザ・マンス:マックス・ホロウェイを仕留めたイリア・トプリア(UFC 308)
今年2月、トプリアはUFC 298でアレキサンダー・ボルカノフスキーを下してフェザー級タイトルを獲得し、ブレイクアウト・パフォーマンス・オブ・ザ・マンスを受賞した。そして先月、“エル・マタドール”ことトプリアは初防衛戦でマックス・ホロウェイを仕留めてタイトル防衛に成功し、ノックアウト・オブ・ザ・マンスの栄誉に輝いている。
この対戦に向けて、トプリアは自身が初めて打撃でホロウェイをフィニッシュする選手になると豪語していた。27歳のタイトル保持者はエティハド・アリーナで、その言葉を見事に実現している。最初の2ラウンドは互角の攻防が続いたが、第3ラウンド序盤にトプリアは鋭い右パンチでホロウェイにプレッシャーをかけ、フェンス際まで追い詰めて見事なフィニッシュを決めた。
トプリアのパフォーマンスが際立っていたのは、自身の計画から一切逸脱することなく、いつものスタイルを貫き通した点だ。
ある番組内(Coach Conversation/コーチとの対談シリーズ)でエリオット・マーシャルと今回の対戦を分析した際、トプリアがどのようにプレッシャーを活用して相手を自分の望むポジションに追い込み、その過程で相手の動きを読み取りながら攻撃のチャンスを待つかについて語り合った。そして、まさにその通りの展開となった。ホロウェイからの強烈なパンチを受けながらも、トプリアの戦法や集中力を崩すことなく前進し続け、データを蓄積しつつ自らの攻撃を繰り出し、ついには右の一撃で“ブレスト”ことホロウェイの体勢を崩し、フィニッシュに持ち込んだ。
今年に入ってスペイン出身のトプリアがフェザー級の伝説的な選手を——決して簡単だったわけではないが——驚くほどあっさりと打ち負かしたのはこれで2度目。無敗を誇る現フェザー級王者に、果たして限界はあるのだろうか。
その答えは、時間が経てばわかるだろう。
特別賞:ホアキン・バックリー vs. スティーブン・トンプソン、ラマザン・テミロフ vs. C.J.ベルガラ、イボ・アスラン vs. ハファエル・セフケイラ、シャラ・マゴメドフ vs. アルメン・ペトロシアン
ファイト・オブ・ザ・マンス:アレックス・ペレイラ vs. カリル・ラウントリーJr.(UFC 307)
この競技の最もエキサイティングな要素のひとつは、期待が覆される瞬間だ。とりわけ、注目度の高いタイトルマッチでそれが起きると、その衝撃はさらに増す。
ペレイラは2024年の過去2戦で圧倒的な勝利を収めてきた。UFC 300ではジャマール・ヒルを1ラウンドでノックアウトし、「ほらな?」というお馴染みのポーズを披露。続いてUFC 303でイリー・プロハースカとの再戦を果たした際には、第2ラウンド開始わずか13秒でフィニッシュを決めている。そのため、今回のラウントリーJr.との対戦も同様に速やかに終わると、多くの人が予想していた。
一方で、ラウントリーJr.は5連勝中を決めた状態でこの試合に挑んだものの、ライトヘビー級ランキングは8位であり、トップ15の相手には1人しか勝利していなかったため、彼もヒルやプロハースカと同じ運命をたどるだろうという向きも多かった。しかし、挑戦者であるラウントリーJr.はその見方を覆す覚悟で臨んでいた。
ラウントリーJr.は序盤の2ラウンドで全ジャッジからポイントを獲得し、チャンピオンを一度はダウンさせるなど、競り合いの中で有利な打撃を繰り出した。ペレイラのバランスとリズムを崩し続けたラウントリーJr.は、南米の強打者を翻弄。今年これまでの対戦相手とは異なり、ペレイラはラウントリーJr.のサウスポースタンスと強打にうまく対応できなかった。
ところが、試合が進むにつれて、“ポアタン”ことペレイラは持ち前の知性と磨き上げられたテクニックを発揮し始めた。ジャブとローキックを巧みに使いながら少しずつ優位に立ち、相手が見せた隙を容赦なく突いていく。スコア上は遅れを取っていたが、チャンピオンシップラウンドに入るころには完全に試合の流れを掌握し、ライトヘビー級の圧倒的な支配者として第4ラウンドで主導権をにぎり、見事に3度目の防衛を成し遂げた。
この試合は、勝者も敗者もそれぞれの実力を証明した稀有な一戦となった。ラウントリーJr.は、ペレイラがライトヘビー級に転向以来最も手ごわい相手となり、この階級のトップ選手として認められるべき存在であることを示した。一方、ペレイラは単なる速攻型のパワーファイターではなく、戦況に応じて柔軟に戦うことができるチャンピオンであることを証明してみせた。
特別賞:ブランドン・ロイバル vs. 平良達郎、マテウシュ・レベツキ vs. ムフトベク・オロルバイ