2024年の最後の四半期に入った今は、スプレッドシートを好み、リストを作成するのが大好きな者たちが、12月に表彰されるファイターの候補をすべて洗い出そうとし始めるタイミングだ。
今年はじめからの9カ月、オクタゴンの内部では素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられてきた。いくつかの賞レースについてはほぼ決まったような状況だとはいえ、どの賞についても確定したわけではない。そして、1カ月がたつたびに、また称えられるべき試合が増えていく。
それは、9月も同じことだ。
9月に実施された3つのイベントには、下記で紹介する見事なパフォーマンスを含め、あらゆる要素が取りそろえられていた。
ブレイクアウト・パフォーマンス: ブライアン・バトル
“ザ・ブッチャー”ことブライアン・バトルはパリでケビン・ジュセを圧倒し、連勝記録を4に伸ばした。それだけではなく、まるで80年代のプロレスのヒール役を彷彿とさせる演出によって、その存在感を大きくアピールしている。
バトルはTUF(ジ・アルティメット・ファイター)のシーズン29で、チーム・ボルカノフスキーの最後のメンバーとして選ばれ、ミドル級を制覇。これを機に将来有望なダイヤモンドの原石として注目を集めたノースカロライナ州出身のバトルは、その後、ウェルター級に転向し、4勝1敗とノーコンテスト1回を記録。すべての勝利をフィニッシュで決め、着実に進化を遂げてきた。
ジュセ戦は、これまでバトルが培ってきた要素がすべて結実した完璧な試合だった。序盤は慎重に様子を伺いながら、徐々にペースを上げていき、試合が進むにつれてジュセを確実に追い込み、その耐久力を削り取っていった。バトルは相手のパワーとフィジカルを見極めるために、あえて第1ラウンドを最後まで戦ったかのようだった。そして、相手の動きを完全に読んだバトルは、一気に攻撃のギアを上げ、フランス出身のジュセを崩しにかかった。
この試合が、オクタゴンでの素晴らしいパフォーマンスを超えて、完璧なブレイクアウト・パフォーマンスとして評価された理由は、試合前の一週間から当日までのバトルの振る舞いにある。
金のチェーンを身にまとい、ブリーチしたブロンドヘアで登場した30歳のバトルは、試合前から自ら進んでヒール役を演じ、パリでフランス人ファイターと戦うアメリカ人という状況の中、ブーイングやアウェーの雰囲気を逆手に取った。入場曲にはジェイ・Zとカニエ・ウェストの楽曲を選び、その曲は映画『Blades of Glory(邦題:俺たちフィギュアスケーター)』で主演のウィル・フェレルが、「挑発的で、そして人を興奮させる」と話す印象的なシーンに触れる歌詞から始まる。バトルは試合に勝利するとすぐさまチェーンを首にかけ、WWF時代のリック・ルードのようなパフォーマンスで観客をさらに挑発した。

すべてが完璧だった。
この日は、数々の豪快なフィニッシュやインパクトのあるパフォーマンスが繰り広げられたが、その中でも特に注目を集めたのがバトルだった。その結果、ブレイクアウト・パフォーマンスの栄誉を勝ち取ることとなった。
特別賞:クリス・パディーヤ、スティーブ・ガルシア、ケトレン・ソウザ、ノルマ・ドゥモン
サブミッション・オブ・ザ・マンス:ケトレン・ソウザ vs ジャスミン・ハウレギ(UFC 306)
ノーチェUFCで行われたソウザとハウレギの対戦では、第1ラウンドの中盤に両者が互いにローブローを犯したため、レフェリーのジェイソン・ハーゾグが試合を一時中断。ハーゾグは2人をオクタゴン中央に呼び寄せ、意図しないファウルによるさらなる中断がないよう、注意を促した。
再開からわずか24秒後に試合は決着したことで、レフェリーの注意喚起は杞憂に終わり、ソウザはUFC2連勝を達成している。
再開直後、両者は積極的に攻撃を仕掛け、互いにパンチを放った瞬間、ソウザの左フックがハウレギの顎にクリーンヒット。膝をついたハウレギが立ち上がろうとすると、ソウザは首に狙いを定め、リアネイキッドチョークを締めながら背後に回り、そのまま完璧なチョークでフィニッシュに持ち込んだ。
ハウレギは数秒で意識を失った。
このフィニッシュは、チョークがかかった瞬間に勝敗が決まったとわかるものだった。ソウザはハウレギに反応する隙を与えず、首を完全に締め上げていた。ハウレギは頭からソウザの手を引き剥がそうとする正しい手順を試みるも、ソウザは巧みにゲーブルグリップに切り替え、力強く締め続け、メキシコ出身の新星をキャンバスに沈めた。

過去5戦で3つの異なる階級(アトム級、フライ級、ストロー級)で戦っているソウザは、今後も注目すべきファイターだ。ソウザは4勝1敗の戦績を残しながらインビクタFCのアトム級王座を獲得。UFCデビュー戦では上の階級に挑戦し、カリーニ・シウバに敗れたものの、その後2連勝を果たし、現在は女子ストロー級に定着している。
女子ストロー級には多くの才能あふれるファイターがひしめいているが、ソウザがハウレギを倒した際に見せた強烈なフィニッシュ力や、トランジションの中で瞬時にチョークを仕掛けるスピードと判断力を兼ね備えた選手はそう多くない。
すべてにおいて、素晴らしい出来栄えだった。
特別賞:ネイサン・フレッチャー vs ジギマンタス・ラマスカ、アイザック・ダルガリアン vs ブレンドン・マロット、コーディ・ダーデン vs マット・シュネル、ソウザ vs ハウレギ、クリス・ダンカン vs ボラジ・オキ、アイリーン・ペレス vs ダリヤ・ジェレズニャコバ
ノックアウト・オブ・ザ・マンス:ファレス・ジアム vs マット・フレボラ(UFCパリ)
このフィニッシュがノックアウト・オブ・ザ・マンスに選ばれた理由は、フィニッシュまでの展開が誰の目にも明白だったにもかかわらず、最後の一撃が予想を超えるほど強烈だったからだ。
パリで行われたメインカードのオープニングマッチで、試合の主導権を握っていたジアムは、フレボラをフェンス際に追い詰め、バックウエストロックのポジションから膝の位置を巧みに調整。右腕でフレボラの頭を抑え込むと、振り上げた右膝をフレボラの顎に直撃させ、一瞬で試合を決めるノックアウトを見せた。
これほど明確にセットアップされた膝蹴りが見られたのは、アンソニー・スミスがシカゴで開催されたUFC 225で、元ライトヘビー級王者ラシャド・エバンスをフェンス際で同じようにフィニッシュした時以来だ。どちらの場合も、優勢に立っているファイターが何を狙っているのかがリアルタイムではっきりと見て取れ、膝蹴りが放たれた瞬間、試合が決定的な終わりを迎えた。

27歳のジアムはプロモーションデビュー戦での敗北後、密かに4連勝を積み重ね、過去7戦で6勝1敗という好成績を収めており、今のライト級でさらに注目されるべき存在だろう。ジアムは自分の身長とリーチを活かす術を身につけ、試合ごとにそのスキルに対する自信が増しているのが明らかだ。
放送中にも指摘されたように、ジアムはこの試合でこれまで以上に集中し、気合いを入れてオクタゴンに上った。ミハウ・フィグラク、ジャイ・ハーバート、クラウディオ・プエレスに連勝したことで自信をつけてから、母国でキャリア最大の舞台に臨んだことが大きかったのだろう。
パリでのこの試合で名を挙げようと挑んだジアムは、その目標を見事に達成した。“スマイル・キラー”ことジアムは、この勝利でライト級において決して侮ってはならない存在となった。
特別賞:スティーブ・ガルシア vs カイル・ネルソン、イグナシオ・バーモンデス vs マヌエル・トーレス、モルガン・シャリエール vs ガブリエル・ミランダ
ファイト・オブ・ザ・マンス:エステバン・リボビクス vs. ダニエル・ゼルフーバー(UFC 306)
まるでジェットコースターのような戦いだった。最初の坂を上るまではゆっくりと進み、その間にテンションが高まっていく。その場にいたすべての人々が胸騒ぎを覚える中、最初のピークを越えたコースターは急降下と急上昇を経て思いもかけないツイスト、ターンを通過。動きが静まる瞬間もわずかにはあったが、すぐにアクションが再開されていた。

発表された当初から、このカードはノーチェUFCのファイト・オブ・ザ・ナイト候補だと期待されていた。なぜなら、スタイル的な観点から、この2人が最高のダンスパートナーであるのが明らかだったからだ。リボビクスはアグレッシブなパワーパンチャーで、“控えめ”という発想にはまったく興味なし。一方のゼルフーバーは、テクニックの部分で学習することに対してよりオープンで、長いリーチを活用し、遠いところから攻撃を浴びせて対戦相手の力を少しずつ削り取っていくスタイルだ。
両者が見せ場を作りつつ試合は進み、互角の状態で最終ラウンドを迎える。最初にビッグショットを当てたのはゼルフーバーで、鋭いエルボーでリボビクスをよろめかせたものの、リボビクスがより強烈な打撃を当て、相手に後退を強いた。しかし、リボビクスがゼルフーバーを仕留めたわけではなく、どちらかというと終盤はゼルフーバーが優勢。そのまま試合終了のホーンがなり、スフィアでこの試合を見届けた観衆は、両ファイターにふさわしい喝采を送った。
スプリット判定で接戦を制したのはリボビクス。しかし、真の意味での敗者は不在の一戦であり、両者が株を上げている。2人はこれからも、今回のような激戦に身を投じていくだろう。
特別賞:ジョシュア・ヴァン vs. エドガー・チャイレス