宝くじに当たったらどうするか。普通は、働こうとは思わない。もし、そういう人がいるなら、おそらく、ウソをついている。 スティペ・ミオシッチは日本時間5月15日(日)にブラジル・クリチバで開催されたUFC 198で、MMA版の宝くじを引き当てた。彼が選んだ番号はこうだ。 2:47 - ファブリシオ・ヴェウドゥムをノックアウトして、UFCヘビー級タイトルを獲得するのに要した時間 1 - 要したラウンド数 15 - ヒットさせた有効打数 45 - 有効打の着弾率 52 - クリーブランドに新たなメジャースポーツの王者が誕生するのにかかった年数
試合を終えて世界チャンピオンになったミオシッチは、早くオハイオ州のわが家に帰りたかった。しかし、実際に帰宅したとして、最初にかける2本の電話はオークウッド・ビレッジとバレー・ビュー、それぞれの消防署長あてに違いない。ミオシッチは今でもそこで消防士兼救急医療士として働いているのだ。 退職を申し出るために電話をするのではない。ミオシッチは、いつから職場に復帰すればいいかを尋ねるために受話器を取るのだ。彼は昼間の仕事を辞めるつもりはない。 「この仕事が好きなんだ」 ミオシッチは今年初頭、そう語っていた。「すごく楽しいよ」 こんなことは驚くに当たらない。33歳のミオシッチは掛け持ちのベテランなのだ。UFC以前のミオシッチは運動選手として、高いレベルでカレッジレスリングと野球、アマチュアボクシングに出場していた。もちろん、新チャンピオンの生活は当時とは一変している。 それでも、ジムの外の仕事も続けたいという希望だけは例外である。 「オレは2つの消防署ともパートタイムだから、1カ月前にスケジュールを立てるんだ。どちらも素晴らしい職場だよ」と彼はUFC 195でアンドレイ・アルロフスキーを下す前に語っていた。「練習の時間もたっぷり取っている。週末にはたくさんの練習をしているし、夜にもよく練習する。署長が2人とも寛容だから、ちゃんと時間が取れるんだ。うまくいっているよ」 でも、なぜあえて別の仕事を続けるのだろうか。 彼にはそれができるから、ということもある。加えて、オクタゴン外でも仕事を持っていた選手の前例もあるからだ。おそらく最も有名な例は元UFCミドル級チャンピオンのリッチ・フランクリンだろう。高校の数学教師という仕事のおかげで、金網に入って戦っているのはネアンデルタール人ではなく、たまたま戦うことを仕事にした、知的で訓練を積んだアスリートであることを示し、世間に今なおはびこっているMMAに関する誤解を解く第一人者となっていた。 長年にわたりウェルター級の強豪として戦ったクリス・ライトルもミオシッチ同様、現役期間を通して、大好きな消防士の仕事を続けた選手だ。若手ファイター時代はともかくも、それはお金の問題ではなかった。特定の人にとっては、格闘技だけが唯一最大の目的とはならないことがあるのだ。 シェーン・カーウィンのケースを考えてみよう。あのUFC 116での名勝負、第1ラウンドのカーウィンの大虐殺劇に、レフリーのジョシュ・ローゼンタールがブロック・レスナーのサバイバルを許さなければ、カーウィンは正社員の仕事をしながらUFCヘビー級正王者になった最初の選手になっていたかもしれなかった。実際にそうはならなかったわけだが、それでもカーウィンのストーリーの説得力は変わらない。カレッジフットボールの名選手だったカーウィンは、NFL入りを希望していたものの、それがかなわないと分かると再び大学に戻り、すでに取得していた環境技術の学位に加えて機械工学の学位を取得。それから彼は新たにMMAに取り組むようになりつつ、同時にエンジニアとして正社員の仕事にも就く。 2008年のUFCデビュー前にカーウィンは「タイムマネジメントが重要だ。きついスパーリングの翌日に仕事に行くのはつらいこともあるよ」と語っていた。「でも仕事は楽しいし、職場のみんなもオレのやっていることを応援してくれて、オレの勤務時間や有給にとても寛大だ。とてもいい職場環境に恵まれている」 カーウィンは2013年に引退するまでにUFCで6戦して4勝、ガブリエル・ゴンザーガとフランク・ミアを相手にノックアウト勝ちを収めており、特に後者の試合ではUFCヘビー級暫定王座を獲得している。ジ・アルティメット・ファイター(TUF)シーズン16ではコーチ役も務めた。これらすべてを、正社員の仕事をしながらこなしたのだ。 だから、こうしたことは不可能ではないのである。そして、UFCキャリアで9勝2敗、6つのノックアウト勝ちを飾りながら、ずっと仕事を続けているミオシッチは、兼業ファイターの最新例となった。よく言われている通り、壊れていないなら直すな、なのである。もちろん、UFCのヘビー級チャンピオンともなれば、メディア対応やイベント出演など、さまざまに分厚い責任が新たに追加される。しかし、ミオシッチは若い頃から勤勉に働くことこそ重要なのだと教え込まれてきているのだという。 「これは母親に植え付けられた考え方だと思う」とミオシッチは語っている。「母親はとても働き者で、本当に限界まで働いて、とにかく休むことをしなかった。オレは母から学んだ。尊敬すべき母からは、何ごとも一所懸命にやりなさいと教わっているんだ」 そう、あらゆることを一所懸命にやるのだ。