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ジョーイ・ベルトラン “メキシコの処刑人”の歌

『KOでやられるかもしれないし、逆に俺がサブミッションで勝つかもしれない。勝敗は分からないが、もしこの興行にお金をかけるとしたら、絶対に判定にもつれ込まない方に賭けるね』-ジョーイ・ベルトラン

勝つにしても負けるにしても、ジョーイ・ベルトランはつまらない試合はしない。仮に試合の最後に彼の手が上がるとしても、彼の顔にはたぶん『この試合は失敗だった』という不満足な表情が見て取れる場合もあるだろう。それは決して楽な生き方ではないが、しかしこの“メキシコの処刑人”が弱音を吐くことは決してない。事実、彼は他の選手と違い、次の試合を受ける事を了承してから15分以内には、誰も想像できないくらい激しい練習を始めるのだ。

「それはまず精神的な準備をし、痛みを覚悟することから始まる」とベルトランは語った。「戦争の準備をする。そしてその中にいるとき、自分の居場所がどこで、そして何をすべきかがわかる。さらに自分の顔に血が流れる瞬間や、パンチの応酬になっている瞬間などに、自分のいるべき場所はオクタゴンの中なのだということがわかる。その時、自分が完璧な平穏の中にいると感じる」

これこそファンなら誰でもジョーイ・ベルトランの試合を見逃したくない理由だろう。彼の戦績は3勝3敗であり、また最近の4戦のうち3敗しているのは事実だ。しかし、ゴングがなった瞬間、そんな戦績なんて気にならなくなる。少なくとも見ているファン、ヘビー級の選手たち、そして彼と戦い勝った者たちは、彼の見解が理解できるはずだ。しかしそれだけではこの男は満足しないだろう。

「仲間たちから尊敬されていることは本当にありがたい」と語ったベルトラン。「認められているという自信を与えてくれる。でもゴールは勝つことだ。それに今回の試合では、正しい選択をしていると思っているし、正しい変化だったとも思っている。そして試合をし、またさらに新しいステップが踏めることに本当に興奮している」

それは同時につらいトレーニングキャンプや、家から遠く離れた遠征などを意味している。彼はこのすべての代償を受け入れる事ができるが、しかし彼の妻、ヘレンにとっては非常につらい事ばかりだということも理解している。

「彼女はもっとつらいと思う。それは俺がTVや試合会場で友達の試合を見ているのと似ているだろう。その感情を10倍にし、そしてただの友達ではなく深く愛している人の試合、たとえば彼女の試合を見ている事を想像する。勝った時にすら、そんな彼女の気持ちを想像すると胸が痛いよ。そして大男から自分の顔の右にパンチをもらったとき、彼女だけでなく自分の身近なすべての人にとって、そんな姿を見ているのがどんなに辛いのかということに気が付く」

しかし、身体的に下り坂に入る30代を迎えても、ベルトランは自身の愛するこのスポーツを辞める事はしなかった。正確に言えば、このスポーツが与えてくれる感情を手放したくなかったのだ。

「この2月で5周年になる。」ベルトランは自分のプロMMAデビュー戦を振り返って話す。「サンノゼでのそのデビュー戦の晩の感情はいつも思い出す。そしてそれと比較できるような感情は未だに感じたことがない。つらい時期もあったし、他の事をしてみようとしたときもあるけれど、あの感情に比類するものはない。毎回思い返すよ」

ストライクフォースでのデビュー戦では、ヨアン・バンクス相手に判定負けを喫した。そして主にカリフォルニアでの試合を主戦場に通算9勝2敗を記録している。そのなかで2009年10月にはキング・オブ・ザ・ケージのヘビー級タイトルをかけてトニー・ロペスとも戦っている。彼曰く、この試合は彼が自分自身ファイターになったのだ、と自覚する試合であったという。

「5Rを通して自分自身についてたくさん気づいたことがある。今でも鮮明に覚えているのは4Rのとき、すごい接戦になって最後トニーが俺のバックをとって終わった。俺はセコンドの指示もきけなくなって、その瞬間『俺は負けるかもしれない』と思った。でもその瞬間、『立ち上がれ! 立ち上がれ!』とすぐに思った。そして、この痛みに、疲れに、そして折れた心に負けてしまうよりももっとすばらしいものを手にできるんだ、って思った。そして、俺の妻はこう言うことを嫌うんだけど、その事に気付いた時、自分はこのスポーツを辞める前に死ぬだろうな、って思った」

その試合は判定負けを喫したが、3か月後のUFCでヒューストン・アレクサンダーに2RKO勝ちを収め、それから1カ月にも満たない間にホーレス・グレイシーとUFCで戦うことが発表された。2Rでその試合を決め、こうして彼のオクタゴンでのキャリアはスタートした。

彼は同じカリフォルニア出身のジョンソンを倒す事がUFCへの切符になると考えていた。しかし、今や反対に、ストライクフォースとWECのベテランであるジョンソンその人が、UFCで名を上げるためにベルトランに挑んで来る形となったのだ。

「俺はまだ小さなところで試合をしていた時から、常にレイバー・ジョンソンを見てきた。彼の事を常に『よし。こいつを倒すことができたらきっと大きな試合に呼んでもらえるようになる』と思っていた。そのためにずっとチャレンジしてきたし、彼はその目標だった」

今、彼はその夢をかなえ、そしてファイトカードは彼のもっともエキサイトし熱望するものとなった。

「白か黒の世界なんだ」彼は笑って答えた。「KOでやられるかもしれないし、逆に俺がサブミッションで勝つかもしれない。勝敗は分からないが、もしこの興行にお金をかけるとしたら、絶対に判定にもつれ込まない方に賭けるね。もし彼のアッパーカットが俺をとらえるなら、何が起こるかわかるだろ? でも、俺は全力を尽くすよ」

そして、最初のラウンドになるかもしれないし最後のラウンドになるかもしれないが、そのどこかでジョーイ・ベルトランはレイバー・ジョンソンがどのようなファイターなのかを見極めるだろう。

ベルトランは最後にこう語った。「どの試合でも俺のゴールは対戦相手を、自分自身の魂の底まで見つめさせ、そして本当にファイターになりたいのか、本当にオクタゴンの中にいたいのかを考えさせることだ。そして、もし彼がそれに『イエス』と答えるなら、それは相手にとってもいいことだ。そしてそんな時間を15分間共有したあとだからこそ、男として真に分かり合える気がするんだ」