UFCで17試合を戦ってきたライト級のベテランファイターとして、ロス・ピアソンはUFCのマッチメーカーであるジョー・シルバに電話をかけ、日本時間18日(月)に開催されるUFCファイトナイト・ボストンのフランシスコ・トリナウド戦を来月のロンドン大会に変更してほしいと頼めただろう。しかし、“ザ・リアル・ディール”ことピアソンはボストン行きに問題はないと言う。
イギリス・サンダーランド出身のピアソンは「地元に帰るってことがどういうことか分からないんだよね」と笑う。ピアソンがイギリスで戦った最近の2試合は必ずしもうまくいったとは言えない。「メルヴィン(ギラード)戦はアクシデントが発生してノーコンテストになったし、エヴァン・ダナム戦は完全に抑え込まれてしまって、まともに試合をさせてもらえなかった。世界中を旅して回っている方が好調だから、当分はそれでいいよ。UFCが決定した場所に喜んで行く。ホームから離れて、友達や家族がいなくても力を発揮できるタイプなんだろうね。実際のところ、新しい環境に身を置くことが好きだし、そこで試合をするのはちょっと特別な感じがする。新しいファンと新しい町に行くっていい経験だよ」
とはいえ、イギリスのマンチェスターで開催されたアーロン・ライリー戦ではかなりいい試合をしていた。
「いや、でも2009年でしょ。今は2016年のことを話しているんだから」とピアソンは昔話を笑い飛ばした。
確かにその通りである。UFCデビューから7年近くが経ち、元TUF(ジ・アルティメット・ファイター)優勝者も今や31歳。新たなステージに進む準備もできている。ピアソンは感動的な勝利から屈辱的な敗戦まであらゆる試合を経験し、良いことも悪いことも、さらには不愉快な出来事も目にしてきた。一流ファイターのような試合を見せる一方で、昨年7月のダナム戦のようにまったく違う姿もさらす。
「エヴァンとの試合には意気消沈したよ。世界中を回ってトレーニングを続けていたけど、エヴァンがオレにやったことはトレーニングでも実戦でも経験したことがなかった。感情的になってしまった。動揺して落ち込んで“なぜ、オレは反撃できない?”と考えていた」とピアソンはダナム戦を振り返った。
「でも、あの試合から学んだよ。今までにトレーニングしていなかった部分を鍛えている。オレは成長しているし、もう2度とあんな風にはならない。あの試合が新しい章の始まりになった。そのおかげで、より素晴らしいファイターになれたと思っている」
ダナム戦は約半年前のことではあるが、ピアソンが戦った最後の試合というわけではない。あの対決で受けた心の傷が癒えていないのは誰にでも分かることとはいえ、昨年9月に急きょ組まれたポール・フェルダー戦で勝利を収めたピアソンは勝者の欄に再び名を連ね、その力を取り戻した。
「かなり短期間だったから、ものすごく激しいトレーニングになった。あまり考える時間もなかったし、直感と才能だけで戦った。ポールもオレも、試合に出てリスクを冒して戦うだけだ。その夜に最高のパフォーマンスを出せた方が勝者ってわけ。彼はタフだし、才能があって強烈なパンチを持っているし前に出てくるから、誰にとっても危険なファイターだ。厳しい対戦になるのは分かっていたし、オレはそれを望んでいた。自分自身を試して、まだやれるかどうかを知りたかったんだ」
ピアソンはまだやれる。今後は試合に出るたびに勝ち星を挙げ、連勝街道に乗らなければならない。そうすればトップ10入りの可能性が高まり、タイトルも見えてくる。ブラジル人ファイターのトリナウドとの一戦がピアソンにとっては新たな始まりだ。勝てば2013年以来、初の2連勝となる。それを実現させる鍵は実にシンプルだ。
ピアソンはトリナウド戦について「あらゆる面で彼を上回っていなければならない。トリナウドに、おまえより強いロス・ピアソンが対戦相手だと知らしめなければならないんだ」と語ると、「彼にチャンスを与えてはならないし、優位に立たせず、オレが試合を支配しなければならない。トリナウドはきっとオレのレベルまで上げてくるだろうし、オレと戦うことを分かって取り組んでくるだろう」と続けた。
「彼にとってはキャリアでもっとも重要な一戦だし、経験したことがないほど大きなイベントになるはずだ。オレはそういう戦いをしてきたし、勝利を収めてきた。ビッグネームとも戦ったし、自分にとっては普段と変わらない試合だ。戦ってヤツをたたきのめす。UFC上位の試合がどんなものか教えてやるよ」
「プレッシャーがかかっている状況というのは好きだな。ヤツがいやらしい戦い方で挑んできて、汚い手を使ってオレを負かそうとするかもしれないってところも気に入っている。危険をはらんでいるっていうのはいいもんだし、アイツのおかげで気持ちが熱くなる。でも、ミスを犯したら、やられてしまうだろう」
逆に、“マサランドゥバ”の愛称を持つトリナウドが間違いを犯せばロス・ピアソンに勝利が転がり込んでくる。それが、さらに強くなることだけを夢見る男の計画だ。
「オレはまだここで戦っている。前から言ってきたことだけど、誰が相手であろうと戦う準備はできている。どんな名前のヤツでも誰でも、いつでも受けて立つ。そういう年齢になったし、世界中でワールドクラスのアスリートとトレーニングを積んできたから、精神的にも肉体的にも誰とでも対戦できる準備は整っている。必要なのは安定した戦いをして勝利を重ねていくこと。そうすれば、チャンピオンベルトはオレのものになる。戦いの準備はできている」