5月のオクタゴンはまるでパーティミックスバージョンといった様相だった。さまざまな人の好みにヒットする要素が、そこには含まれていたのだ。
激しく熱いチャンピオンシップ戦? もちろんあった。あっという間のフィニッシュや、切り抜きになるような見事なエンディングは? それも、もちろん。重要な立ち位置からキャリア向上を狙うプロスペクトはいただろうか? ちょっと掘り下げれば、そういったものすべてが見つかる、そんな月だった。新たなコンペティターや、すでにその座を確たるものとしているトップ選手たちが優れたバトルを披露し、3つのイベントが組まれた月に、あらゆる人々を楽しませていた。
その中でも傑出していた面々を、5月の月間レポートで取り上げよう。
ブレイクアウト・パフォーマンス:スティーブ・エルセグ
スティーブ・エルセグが月間のブレイクアウト・パフォーマンスに選ばれたのは、これで今年2度目となる。
前回この栄誉に輝いた3月、オーストラリア出身のエルセグはマット・シュネルを第2ラウンドでノックアウトしたことで、フライ級のトップコンテンダー候補に浮上し、今後も注目すべき選手であることを証明した。その後、リオデジャネイロでのタイトルマッチに選ばれ、エルセグの知名度は急上昇。そして、“アストロボーイ”ことエルセグに、わずか3カ月という短い期間で再びブレイクするチャンスが訪れた。
「彼は周りが思っているよりもずっと優秀だ。この試合が楽しみで仕方ない。たとえ負けても、“この選手は強い。しばらくこのレベルで戦い続けるだろう”と言われるようなパフォーマンスを見せてくれるはずだ。なにせ彼はまだ27歳と若い」
これは、UFC 301でアレクサンドル・パントーハとの王座決定戦に挑んだエルセグについて、ある番組内(Coach Conversation/コーチとの対談シリーズの最新話)で語られていたことだ。挑戦者という立場のエルセグがわれわれの期待を上回るのに、それほど時間はかからなかった。
パントーハの最初の猛攻に耐えたことで、エルセグはこの試合に対して本気であり、簡単には引き下がらないことを示した。エルセグが打撃で第2ラウンドを制したところで、王者にとって本格的な戦いが始まった。最終的にエルセグは敗れたものの、第5ラウンドの戦術的なミスさえなければ、無名の選手がフライ級の新チャンピオンになっていたかもしれない。
ペイパービューの放送直後に公開されたコラム“The Bigger Picture(ザ・ビガー・ピクチャー/大局観)”にあったように、その判断と最終判決への影響は、エルセグにとって苦い経験になっただろう。しかし、それは彼をより強くし、フライ級の他の選手にとっての脅威になるはずだ。
この試合はエルセグにとってUFCでの4回目の試合であり、キャリアを通しても14戦目だった。そして、何と言っても彼はまだ27歳という若さだ。敵地でチャンピオンに全力で立ち向かったばかりとは言え、これからさらに成長し、技術を磨き、ゲームを洗練させる余地は十分にある。明らかに違うタイプのファイターである一方、エルセグの戦いぶりは、ジョルジュ・サン・ピエールがウェルター級のタイトルをかけて初めてマット・ヒューズと対戦した時を彷彿とさせる。サン・ピエールもこの試合に負けたものの、いつかはチャンピオンになる選手だということは誰もが感じていた。
サン・ピエールはその2年後に、第2ラウンドでヒューズをテクニカルノックアウトで下して、ベルトを獲得している。
今から2年後にエルセグがフライ級王座に就いていても、おかしくないだろう。
特別賞:ミシェル・ペレイラ、カイオ・ボハーリョ、ジョアンダーソン・ブリート、マウリシオ・ルフィ、アレッサンドロ・コスタ、チェイス・フーパー、エステバン・リボビクス、ウマル・シー
サブミッション・オブ・ザ・マンス:ルアナ・ピニェイロに1本勝ちしたアンジェラ・ヒル(UFCファイトナイト・ラスベガス92)
時に見る者をただ笑顔にする試合がある。これもそういった試合の一つだった。
アスリートにジムでの過ごし方を聞けば、彼らは常に、自分の武器を完成させ、強さを高め、欠けているものを補うために、いかに尽力しているかを語る。一方で、そういった努力がはっきりと目に見える形で表れることは、そう多くない。
ピニェイロとのバトルは、ヒルにとってキャリア30戦目、UFCオクタゴンでは25戦目の試合だった。この試合を迎えるにあたり、ヒルはキャリア通算16勝をマークしながらも、1本勝ちは挙げていない状態。生粋のストライカーであるヒルは、何年もかけてグラップリングと柔術に励み、1年前に元ブラジリアン柔術世界王者であるマッケンジー・ダーンと対戦した際には、ダーンに1本勝ちする意思すらほのめかしていた。
そして、ヒルの努力が実る場面を、ついに世界中のファンが目撃することになる。ヒルはピニェイロに鮮やかなギロチンチョークを決め、キャリア初のサブミッション勝利を挙げている。
それはピニェイロが慌ててテイクダウンしようと試み、体を置き去りにしたまま腕のみを伸ばした瞬間だった。ヒルはがら空きになったピニェイロの首をすぐさま捕らえ、チョークに入りつつ飛びつく。2人でカンバスに倒れるやいなや、ヒルはピニェイロをひっくり返してマウントの体勢をとり、タップを引き出した。
ギロチンに飛び込むな、とはよくジョークでも言われることだが、その方が明らかに優れた選択肢であるケースも存在する。そして、今回がその一例だった。チョークの形は整い、ピニェイロは罠にはまり、ヒルにとっては、立ったままハイアングルのバリエーションを試みるよりも、カンバスに持ち込んで背中から返すことが、フィニッシュのための最良のアプローチだったのだ。
39歳のヒルは長い間、実際のスキルレベルが記録に反映されていないタイプのファイターであり、実際にオクタゴンで並び立った相手に与える脅威が、周囲には伝わりにくかった。しかし、今回のピニェイロ戦で、“オーバーキル”を異名に持つ彼女がいかに危険かということ、そして、キャリアのこの段階に至っても、新たな武器を開発するかに、いかに余念がないかが示されている。
特別賞:アンソニー・スミス vs. ビトー・ペトリーノ、ミシェル・ペレイラ vs. イーホルイ・ポティエリア、チェイス・フーパー vs. ヴィチェスラフ・ボルシェフ
ノックアウト・オブ・ザ・マンス:テランス・マッキニーをノックアウトしたエステバン・リボビクス(UFC セントルイス)
気を失ったままフェンスに寄りかかり、意識が戻った時にはなぜそのような体勢になったのかを全く覚えていない。対戦相手がそのような状態になったら、それは自分が今月最高のノックアウトを決めたという明らかな証拠と言えよう。
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リボビクスとマッキニーの対戦はわずか34秒で終わったものの、その内容はエキサイティングの一言に尽きる。
試合が始まると同時にマッキニーは素早くワンツーを放ち、リボビクスもジャブと右の蹴りで応戦。最終的にアルゼンチン出身のリボビクスが偉業を成し遂げるまで、彼らは互いに一歩も譲らずノックアウトを狙い続けた。終始前に出て攻め続けたリボビクスは、時おりジャブを喰らいながらもひるむことなく、マッキニーをフェンスに追い込むとコンビネーションを繰り出し、ここ数年で最も印象的な形で試合をフィニッシュさせた。
レオン・エドワーズは踏み出した方の足からハイキックを炸裂させてカマル・ウスマンをカンバスに沈め、ウェルター級のタイトルを獲得しており、ジャスティン・ゲイジーもUFCがソルトレイクシティに戻った昨夏に、ダスティン・ポワリエに同じ技を決めている。そして、“ゲートウェイ・シティ”の愛称で知られるセントルイスでは、リボビクスが右手でフェイントをかけながらあごに右ハイキックを決めて、マッキニーをフェンス際に座り込ませた。
今シーズンも半分が終わろうとしている中、すでにたくさんの名場面を見てきた。それでも、この試合は来年に表彰される2024年のノックアウト・オブ・ザ・イヤーのトップ3に食い込んでくるのではないかと思われる。
デイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズ出身の選手による、まさに圧巻のフィニッシュだった。
特別賞:カイオ・ボハーリョ vs. ポール・クレイグ、ジョアンダーソン・ブリート vs. ジャック・ショア、マウリシオ・ルフィ vs. ジェイミー・ムラーキー、デリック・ルイス vs. ホドリゴ・ナシメント、カーロス・アルバーグ vs. アロンゾ・メニフィールド、ケイオス・ウィリアムズ vs. カールストン・ハリス、トム・ノーラン vs. ビクター・マルティネス
ファイト・オブ・ザ・マンス:アレクサンドル・パントーハ vs. スティーブ・エルセグ(UFC 301)
メインイベントやタイトルマッチは5ラウンド制で行われるため、月間や年度の表彰においては有利となり、とりわけタイトルマッチは、その重要性の高さからさらに評価が高まる傾向にある。それが現実だ。
とは言え、パントーハとエルセグが激突したとしたら、それがたとえベルトがかかっていない、トップバッターの3ラウンドマッチだったとしても、実際に5月はじめにリオデジャネイロで行われた試合とまったく同じように、この2人はクラシックな名勝負を繰り広げるだろう。
この試合に対する期待を高めたのは、2人の対戦をめぐるあらゆる物語的要素や疑問だったことは否定できないが、やはり最も重要視されるのは、オクタゴンの中で何が起こるかであり、最初からこの2人が特別なパフォーマンスを提供してくれることは明らかだった。
パントーハは開始早々から挑戦者であるエルセグを攻撃の応酬で圧倒しようとしたが、エルセグはチャンピオンシップのレベルでも戦える能力を見せつけた。エルセグが落ち着いた様子で第2ラウンドを制して試合は振り出しに戻り、フライ級王者の決着は第3ラウンドにまでもつれ込む。3人の審判のうち2人が第2ラウンド終了時点で引き分けと判断していた中、第3ラウンド序盤では新しいチャンピオンが誕生するかと思われた。ところが、エルセグが戦術的なミスを犯し、地元ブラジル出身のパントーンが形勢逆転してタイトルを防衛した。
この試合は最初から最後まで手に汗にぎる展開となり、競り合いが続くエキサイティングなものだった。どんな激しい乱闘や1本勝ちよりも印象深い激戦であり、数年以内に再戦が実現するだろう。
タイトルがかかっているかどうかに関わらず、それは必見の試合となるはずだ。
特別賞:ムイクティベク・オロルバイ vs. エルブス・ブレナー、トレイ・ウォーターズ vs. ビリー・ゴフ