セージ・ノースカットは負け慣れていない。あらゆる分野で負けていないのだ。空手で驚異的な活躍を見せ、数多くのタイトルを獲得したノースカットが2012年にアメリカの格闘技雑誌『Black Belt(ブラックベルト)』のホール・オブ・フェイムで紹介された。 当時16歳。
ノースカットがこれまでに手に入れたトロフィーを手放し始めると大騒ぎになった。この行動こそ、ノースカットがどんな若者であるかを示した出来事だ。 「最近、小さい子供たちや僕のことをずっと支えてきてくれた人たちにトロフィーをプレゼントするようになったんだ。特に子供たち。あこがれの選手がいて、その人みたいになりたいとか、誰かに勝ちたいと思ってがんばっている子供たちにとっては、トロフィーをもらえるって大きな影響になると思うんだ」 現在19歳のノースカットにとって、日本時間31日(日)にオクタゴンで対戦するブライアン・バーバリーナ戦はUFC3試合目である。UFCを含む総合格闘技の試合で無敗を誇り、試合を重ねるたびにノースカットに対する熱狂の度合いは激しくなってきた。もっとも、この絶賛の嵐に彼が影響を受けていないと言うのは控えめすぎる表現かもしれない。 「楽しくてたまらないんだ。UFCデビュー戦を見てもらえれば分かるように、全く緊張していなかったしね。試合前に実際にオクタゴンの周りを歩いてみた。続々とやってくる観客を見渡して、“これは最高に楽しい騒ぎになる。ショーに出るのが待ちきれない”って思ったよ。そして、その通りにやった」とデビュー戦を振り返ったノースカット。 これまでの2戦でノースカットはフランシスコ・トレヴィーノとコーディ・フィスターに圧勝している。ところが、試合内容よりも彼自身の態度について注目が集まることも多い。テキサスA&M大学の学生でもあるノースカットは礼儀正しく、紳士的でまるで違う時代からやってきた若者のように見える。すがすがしいほどだ。しかも、ノースカットが調子に乗って変わることはない。 「常に謙虚でいたい。僕にとってはそれがとても重要なことなんだ。他の人が後に続きたいと思ったり、尊敬してくれたりするイメージを持つっていうのは、僕にとって大きな意味がある。だから、良い振る舞いができるようにベストを尽くして、あらゆる面で謙虚でいるようにしている」 ただし、この言葉に勘違いしてはいけない。そうはいってもノースカットはファイターであり、キャリアも長い。ノースカットの活躍に舞い上がる今の空気を変え、連勝を止めて少しでもスポットライトを自分のものにしようと狙うライバルは相当の数に上るが、ノースカットが背中を狙われたのは最近のことではない。子供の頃からずっとだ。さらに、新たに挑戦しているこのUFCという舞台についても、その意味をきちんと理解している。簡単に言ってしまえば、ライバルが自分を狙っていようがいるまいが気にしていないのである。 「全然気にしていない。このスポーツは総合格闘技だからね。つまり、全員がファイターだ。僕は試合で、できるだけ早く対戦相手を仕留めるつもり。自分のいる舞台は一対一で戦うスポーツだってことをちゃんと理解している」 ニューアークでの対戦相手は負傷したアンドリュー・ホルブルックに変わって急きょ出場が決定したバーバリーナだ。試合はウェルター級マッチとして行われ、ノースカットの本来の階級であるライト級戦ではない。バーバリーナはノースカットにとってタフな相手となるかもしれない。また、この試合は米テレビ局『FOX(フォックス)』で中継されるため、あらゆるメディアの注目がノースカットに集中する。並みの10代の青年であれば圧倒されてしまう状況だが、周知の通り、ノースカットは普通のティーンエイジャーではない。 「すべてを楽しむつもり。どんなメディアが相手でも、試合がある週でも計量の数日前でもね。一部の人が分かっていないなって思うのは、メディアがいなかったり、メディアとのやり取りを楽しめなかったら、今みたいなUFCにはなっていないってこと」 しかし、このほほ笑みにだまされてはいけない。 「試合会場に行っても、僕は笑って楽しむつもりだ。でも、いったん試合が始まれば僕と対戦相手だけの世界になる。ベルが鳴ったら、対戦相手に完ぺきに集中する。変に聞こえるかもしれないけど、少なくとも今までの試合ではすべてがスローモーションみたいに見えた。まるで映画の“マトリックス”だったよ」