TUF 28フィナーレ見どころ:真価を問われるウスマン、ドス・アンジョスの壁を越えられるか

TUF 見どころ
UFC 225:ハファエル・ドス・アンジョス vs. コルビー・コビントン【アメリカ・イリノイ州シカゴ/2018年6月9日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 225:ハファエル・ドス・アンジョス vs. コルビー・コビントン【アメリカ・イリノイ州シカゴ/2018年6月9日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間12月1日(土)に開催されるTUF(ジ・アルティメット・ファイター)シーズン28フィナーレのメインイベントでは、ウェルター級の次のコンテンダーを占うキーファイト、ランキング第3位のハファエル・ドス・アンジョス(ブラジル)と同5位のカマル・ウスマン(ナイジェリア)の一戦が行われる。

大器晩成ドス・アンジョス、2階級制覇への道

8歳の頃から柔術に夢中だったドス・アンジョス。どうにか入手したVHSテープで見た『VALE TUDO JAPAN』でのヒクソン・グレイシーの活躍にすっかり興奮したハファエル少年は、そのまま友達と家の中でヴァーリー・トゥード(ノールールファイト)をやりだしてしまい、激怒した母親にビデオテープを捨てられてしまったこともあったという。

UFCデビューは2008年11月、UFC 91でのジェレミー・スティーブンス戦(ノックアウト負け)。以降10年間にわたってUFCでコンスタントに戦い続け、今回がUFC25戦目となる大器晩成型の重鎮だ。

2015年には最激戦区ライト級で、王者アンソニー・ペティスを完璧なゲームプランで退けてベルトを獲得すると、初防衛戦で迎え撃った当時8連勝中のドナルド・セラーニを1分余りでノックアウト葬、ドス・アンジョス時代が当面続くのではないかと思わせる強さを発揮した。

UFC史上でも数人しか達成していない2階級制覇を目指して2017年にウェルター級に転向すると、ロビー・ローラー、ニール・マグニーといった強豪を下して一気にランキング急上昇。前回のUFC 225(2018年6月)では早くもコルビー・コビントンとのウェルター級暫定王者決定戦に挑んだものの、序盤に左耳がとれそうになるというアクシデントで集中力を奪われたこともあり、判定負けを喫してしまった。

敗戦後のドス・アンジョスはソーシャルメディアを通じて次のようなメッセージを発信し、再起を誓っている。

「2014年にはハビブ・ヌルマゴメドフに敗れてしまったけど、そこから懸命に努力して、わずか11カ月後にはライト級のチャンピオンになることができた。今回も同じことだ。ウェルター級で3勝しただけで、暫定王者決定戦のチャンスを得たんだ。この階級での自分の旅路はまだ始まったばかり。たった1度の失敗で夢を諦めるわけにはいかない。何がいけなかったのかをしっかり分析し、自分を高めて、またトップへの道を歩んでいきたい」

今こそ覚醒の時、ウスマン

対するTUFシーズン21優勝者である“ナイジェリアン・ナイトメア”ことウスマンは、2015年にUFC入りして以来、エミール・ミーク、セルジオ・モラエスなどを圧倒してきた。前回はレジェンド寝業師のデミアン・マイアを下してUFC8連勝(0敗)を記録。今回、大物ドス・アンジョスの首を取れば、いよいよタイトル戦線に顔を連ねることになる試金石の一戦となる。

これまで一貫して上位選手との対戦をアピールし続けてきたウスマンにとって、ようやく訪れたビッグチャンスだ。

「多くの選手が表向きには、いつ何時、誰とでも戦うと口にしている。でも、実際の試合の話になると、沈黙するヤツらが多すぎる」とウスマンは指摘している。「そのせいで、特に割を食っているのがオレだ。上位選手はオレが相手では勝ち目がないとわかっているから、試合を回避するんだ」

「昔のMMAは、一番強いMMAファイターを決めるものだった。でも、一番強いMMAファイターなら、どんなテイクダウンも防がないといけない。テイクダウンを防げない選手は、一番強いMMAファイターではない。オレは心の底から、自分こそが一番強いMMAファイターだと思っている。オレはどんなテイクダウンも防げるし、逆に相手が誰であってもテイクダウンを取れる。スタンドで戦ってもかまわない。一晩中でも殴り合ってやる。こんなことを口にできるヤツが他にいるか」

自分の実力に自信がありすぎるあまり、かつてウスマンはつい失言をしてしまったことがある。ミークを塩漬けにし、退屈な試合を判定で下した後のインタビューで得意げに、「30%の力で勝ってしまったよ!」と述べたのである。本人によるとその真意は、足の負傷でコンディションが30%程度の仕上がりだった、ということだったのだが、これがUFC会長のデイナ・ホワイトには、全力で戦っていないと受け取られてしまったのだ。

「ああ、確かにウスマンはやりたいことをやりきっていたと見てもいいだろう。しかし、客席からブーイングを浴びた男が、まるで派手なノックアウトをやってのけたような口ぶりなのはいただけない。ビッグマッチに出せば、60%くらいの力は出してくれるとでもいうのかね。アホらしい」

これ以来、何げなくジュースを飲んでいるだけで「果汁30%入りですか」などとつっこまれるようになったというウスマン。しかし、3割の力でも安全に圧勝できそうな、底の見えない力強さのオーラをまとった選手であることも確かである。10割の力で強敵ドス・アンジョスを制すれば、地味強ファイターとの評価を乗り越え、タイトル挑戦権も、会社やファンからの支持も手にすることとなるだろう。

復活を目指すキャラウェイの苦闘

TUF 28フィナーレには、人気者ブライアン・キャラウェイ(アメリカ)も出場し、過去6戦で5勝と勢いに乗るペドロ・ムニョス(ブラジル)と対戦する。キャラウェイはここ数年、肩の負傷、ヒザの手術、胃の病気、長年の恋人ミーシャ・テイトとの別れ、慕っていたコーチのロバート・フォリスの突然の自殺に加え、ベトナム戦争退役軍人である父親が心の病で入院し、一時は生死をさまよう状態になるなど、問題続出で試合に集中できる環境がなかなか整わなかった。「何とか雲が晴れてきている。気持ち的にはしっかりしている」と現状を語るキャラウェイが、ここからキャリア再興を図ることができるのか、注目だ。

さらに、『ヘビーヒッターズ』と題されたTUF 28の決勝戦も行われる。今回のシーズンは現ミドル級王者ロバート・ウィテカーとケルビン・ガステラムがコーチを務めており、両者の対決は来年2月のUFC 234で予定されている。ヘビーヒッターというタイトルの通り、男子最重量級であるヘビー級と、女子最重量級である女子フェザー級で、栄えあるUFC入りと1,000万円超の契約金を目指した戦いが繰り広げられることになる。UFCの明日を占う次世代ファイターのフレッシュな対決にも刮目(かつもく)しよう。

【文 高橋テツヤ】
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