日本時間8月18日(日)に開催されるUFC 241のメインイベントでは、王者ダニエル・コーミエ(アメリカ)が挑戦者スティペ・ミオシッチ(アメリカ)を迎え撃つUFCヘビー級タイトルマッチが行われる。
初戦はコーミエのKO勝ち
UFC 226(2018年7月)で行われた両者の初戦は、魔法のようなKO劇で幕を閉じた。一貫してプレッシャーをかけ、近距離でのダーティボクシングに徹したコーミエが、第1ラウンドの4分32秒、重い右のショートフック1発で、ミオシッチをマットに沈めたのだった。コーミエは試合後に、「スティペにはクリンチから離れる時にガードが落ちるクセがある」と魔法の種明かしをしている。
ミオシッチは「おかしな角度から殴られた」とパンチが効いたことは認めつつ、なおもコーミエのことを「10回戦えば9回は勝てる相手」と評した。これに対してコーミエは「何かにしがみついて安心したいんだろうが、高いレベルのMMAファイターとしては感心しない態度だ」と批判している。
「最初の試合で起きたことを偶然であるかのように軽視するのは大きな間違いだ。そんなことだからミスが起きるのではないか。俺は彼との間にそんなに大きな差があるとは思わないし、自分が10回中9回勝てるとも思わない。そんなつもりでくるなら、彼は再び大きなショックを味わうことになるだろう」
ミオシッチが負けを認めたくない気持ち、そしてリマッチの先に厳しい現実が待っている場合があることも、コーミエは知り抜いている。
「彼の気持ちは分かる。自分もジョン・ジョーンズとのリマッチの時には、前回のミスを帳消しにしようと、猛特訓を積んだんだ。だからスティペとのリマッチもきっとタフな試合になる。スティペは攻撃的にくるだろう。とはいえ、スティペがボクサーでありレスラーであることには変わりがない」
「俺は今回の試合を、前回と同じようにしようとは思わない。魔法を再現することはできないんだ。ただ、スティペにはまだ他のクセもある。戦い方、勝ち方はいろいろあるんだよ」
引退返上コーミエ、ますます絶好調
コーミエはかねて、3月20日に40歳の誕生日を迎えたら現役を引退すると宣言していた。その日はとうに過ぎたのだが、昨年12月に腰を痛めて手術療養をしていたため、引退計画はいったん棚上げされている。腰はくしゃみをした際に痛めたというから、世界王者でもそんなことがあるのかと親しみすら感じるが、ケガも癒えて現在のコンディションはかつてなく好調、40歳にしてスピードアップしている可能性もあるのだという。
「グレードアップした自分をお見せすることができると思う。去年は試合前でもまっすぐに立てないこともあったけれど、今はスタスタ歩いているからね!」
ミオシッチ戦を控えた現在のコーミエは、引退の期日や残り試合数などについて明言せず、「まずは目の前の試合に集中だ。ここからは1試合、1試合に取り組んでいく」と語っている。
「とはいえ、いつの日にか退くことになることは間違いない。俺は他人から言われるのではなく、自分の意思でその日を決めたい」
「もはや証明したいことは何もないんだ。でも、何かを証明したくてこれまで戦ってきたわけじゃない。戦いが好きだから戦ってきた。だから、まだやりたいと思っている限りは、戦い続けたい。練習をしたくないと思うようになったら、もうやめる。自分が今、そんな立場にいることをとてもありがたいと思っているんだ」
コーミエにとって不吉なトリビアを紹介しておこう。今回の開催地アナハイムでヘビー級ベルトを防衛したチャンピオンは過去に1人もいない(UFC 59のアンドレイ・アルロフスキー、UFC 121のブロック・レスナー、UFC on FOX 1のケイン・ベラスケス)。さらに、MMA戦績22勝1敗のコーミエが喫した唯一の黒星、UFC 214でのジョン・ジョーンズ戦も、ここアナハイムで行われているのだ。
ミオシッチ、娘にささげる強さの証明
前回の試合から実に396日、ミオシッチはコーミエとのリマッチのチャンスをひたすら待ち続けた。
チャンスが訪れることはないのではないかとも思われた。コーミエに負けた後、オクタゴンにはブロック・レスナーが登場、コーミエを突き飛ばし、タイトル挑戦をマイクで強烈にアピールした。この大立ち振る舞いの背景に溶け込むように見つめていたミオシッチは、どこかすでに忘れ去られた存在のようにも見えた。
その後もヘビー級戦線はミオシッチを置き去りにして動き続けた。コーミエは2018年11月にデリック・ルイスを相手にベルト初防衛を果たした。3月にうわさされていたコーミエのファイナルマッチの対戦相手の第1候補はレスナー、第2候補はジョーンズだった。そしてフランシス・ガヌーが3連勝で次期挑戦者に急上昇してきた。
それでもミオシッチは消防士として働き、トレーニングは欠かさず、そして昨年7月に誕生した娘さんと過ごしつつ、チャンスを待ち続けた。
「機嫌のいい子でね。よく笑うし、好奇心旺盛で、進んで何でも試そうとするんだ。階段を上るとか、そういう冒険に乗り出すから、俺は後ろについてずっと見ていないといけなかった。それが今ではもう歩いているんだからね。かわいくてしようがないよ」
コーミエ戦を待つ間、1試合挟んで存在感をアピールすることは考えなかったのだろうか。
「いや、オレはリマッチを待つ。オレにはその資格がある。ベルトは取り戻す。何の心配もない。とどめを刺されていない以上、後は強くなるだけなんだ。敗戦のおかげでオレはますますハングリーになった。ベルトは取り戻したいと思うが、問題はそこではない。大事なことは、オレの方が強いということだ」
「前回はミスにつけ込まれたから、そこを修正していた。それ以外にも、前回とは違う戦い方を見せるための練習を積んでいる。具体的には言えないが、ゲームプランはできている」
「転んだら、起き上がって進みなさいとオレは娘に教えている。親としては見本を示さないといけないんだよ」
UFC 241ではまた、2016年8月のコナー・マクレガー戦以来、ネイト・ディアスが3年ぶりの戦線復帰を果たす。これまで主戦場としていたライト級を離れ、ウェルター級で名勝負製造機アンソニー・ペティスを迎え撃つ。近頃ディアス不足をお嘆きの貴兄貴姉に、ついに恵みの雨が降る!
【文 高橋テツヤ】
UFC 241見どころ:ミオシッチの雪辱か、再びコーミエのマジックさく裂か
UFC PPV 見どころ