UFCファイトナイト・タンパ見どころ:戦うママ、ウォーターソンがタイトル挑戦に王手

UFCファイトナイト 見どころ
UFC 229:公式計量セレモニーに登場したミシェル・ウォーターソン【アメリカ・ネバダ州ラスベガス/2018年10月5日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 229:公式計量セレモニーに登場したミシェル・ウォーターソン【アメリカ・ネバダ州ラスベガス/2018年10月5日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間10月13日(日)に開催されるUFCファイトナイト・タンパのメインイベントではヨアンナ・イェンドジェイチェク(ポーランド)対ミシェル・ウォーターソン(アメリカ)のUFC女子ストロー級戦が行われる。

「ヨアンナからはもはやオーラや強さを感じない」

先月、ジャン・ウェイリーがジェシカ・アンドラージを撃破し、UFC初の中国人チャンピオンが誕生したことで話題を呼んでいるUFC女子ストロー級。現在、ランキングではイェンドジェイチェクが5位、ウォーターソンは7位となっているが、1位のアンドラージがチャンピオンに負けたばかりであること、2位のナマユナスの復帰時期が未定であることを考えると、この試合の勝者が次期挑戦者としてウェイリーと戦うこととなるシナリオも十分に考えられる状況だ。

アメリカン・フリースタイル空手黒帯、ブラジリアン柔術ではグレッグ・ジャクソンから紫帯を授与されている“カラテホッティー”ことウォーターソンは、コートニー・ケイシー、フェリス・ヘリグ、カロリーナ・コバルケビッチを下して3連勝中と絶好調だ。最近の好調ぶりの理由としてウォーターソンは、気持ちの持ち方が変わったことを挙げている。

「マーシャルアーティストとしての自分の習性なのか、父や軍人の厳格な家庭に育ったからなのか、私には全てのことが整理されていないと気が済まないところがある。あらゆることがしかるべき場所にあって、自分で把握できるようにしておかないといけない」

だからこれまでは、技術の習得などで不十分と思われることがあると、自信を持って試合に臨めず、自分らしい戦いができなかったこともあったのだという。しかし、スポーツ心理学のカウンセラーのアドバイスを受けて気付きがあった。それは、マイケル・ジョーダンも、モハメド・アリも、ジョン・ジョーンズも、全盛期であってもまだまだ改善の余地があったということだった。

「最も偉大な選手でも、まだ勉強することがある。つまり、マーシャルアーティストとしてはまだ完璧ではないとしても、自信を持っていいんだ、と思えるようになった」

やや負けが込む元絶対王者のイェンドジェイチェクについては、「ヨアンナからはもはやオーラや強さを感じない。同じ血が流れる人間同士だとしか思わない。私の目標である、UFC初の“ママチャンプ(母親にして王者)”になるための邪魔者であるにすぎない」と一刀両断だ。

娘のアラヤちゃんが見守る前で、ファイティングママがやり抜く姿を身をもって示す。

充電完了! 絶対王者の再起戦

UFC 231(2018年12月)に王者ワレンチナ・シェブチェンコの持つUFC女子フライ級タイトルに挑戦するも退けられ、過去4戦で3敗と星を崩してしまったイェンドジェイチェクは、前戦後、5カ月にわたって休暇を取り、世界7カ国を旅していた。

かつて暮らしたことのあるタイでは初めて観光を楽しみ、ポーランドのテレビの仕事で母親と一緒にメキシコ(カンクン)を訪れ、オランダでは元K-1チャンピオンのアーネスト・ホーストの薫陶も受けた。

「これまで16年間、ずっと試合の連続だった。今回初めてゆっくりした時間を過ごして、心身ともリフレッシュできたし、新しい技術や新しい戦い方を覚えることもできた。試合の連続で、次の対戦相手のことばかり考えていると、新しいことを学ぶ時間が取れない」

「これからはストロー級に戻ろうと思う。みなさんは前回の試合の結果で私のことを評価するのだろうけれど、近年の私は量的にも質的にもとてもいい練習ができている。強い姿で戻ってくるつもりだ」

UFC女子ストロー級最多勝記録である9勝を挙げているイェンドジェイチェク。ストロー級王座防衛回数5度は、もちろんこの階級での最長防衛記録だ。地力のあるレジェンドファイターが、もはや第2の故郷である所属先アメリカントップチームがあるフロリダ州でキャリア再生を期する。

クロン「オレはUFCで一騒動を起こす」

セミメインイベントにはカブ・スワンソン(アメリカ)とクロン・グレイシー(ブラジル)が拳を合わせる興味深いフェザー級戦が組まれている。

前回、2019年2月に行われたアレックス・カセレス戦でUFCデビューを見事な一本勝ちを飾ったクロン。オクタゴンに上がった5人目のグレイシー一族にして、ホイス・グレイシーが1994年にUFC 4で勝って以来の白星を一族にもたらした。

ブラジリアン柔術創始者エリオ・グレイシーの孫、400戦無敗伝説のヒクソン・グレイシーの子であるクロンは、名門一族の名を背負ったことで、子供の頃から良くも悪くも、周囲の注目を浴びて育ってきた。

「グレイシー一族は自分を含む第3世代の時代になっている。世代が進むにつれて、格闘技ではなく、別の職業を選ぶ者も多くなってきた。でも子供の頃から、オレは誇りを持って一族を代表してきたし、実際に一族の中でも格闘能力については秀でていたと思っている」

「もうプレッシャーには慣れているよ。何しろ9歳の頃から、柔術の大会に出ると、『あの子がヒクソンの息子らしいよ』と指をさされていたんだ。それでいて、オレの名前はいつまでたっても覚えてもらえない。ずっと『ヒクソンの息子』のままだった。だから父の陰から抜け出したいと思うこともあった」

兄のホクソンが2000年に事故で亡くなった後、グレイシー一族正統の家系はクロンの両肩にますますのしかかった。それでもなお、格闘技の道を歩み続けたのはなぜだろうか。

「今のところは、他のことをしてみても、身も心も満たされないんだ。高いレベルでの試合がない時には、自分の良さがいかされていないと感じる。オレはもはや格闘技をするように身体ができあがってしまったんだと思う。頭ではやりたくないなと思う時でも、結局は試合を目指して活動をしてしまっている」

前戦では入場曲に警報音、バックステージに盟友ネイト・ディアスを従えたクロンが「オレはUFCで一騒動を起こすために来た。問題を起こしてやろうと考えている」と言うように、危険過ぎる柔術の奥義が徐々に明らかになりそうだ。

対戦相手は現在4連敗中とお尻に火が付いたフェザー級の重鎮スワンソン。ファイトナイトボーナス7度獲得(フェザー級レコード)の名勝負製造機が、MMA戦績5戦のクロンにベテランの怖さを教え込むことになるか。注目だ。

【文 高橋テツヤ】
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