ヒューストンのベストファイト10:後編

UFC
UFC 262:ジャカレ・ソウザ vs. アンドレ・ムニス【アメリカ・テキサス州ヒューストン/2021年5月15日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC))】
UFC 262:ジャカレ・ソウザ vs. アンドレ・ムニス【アメリカ・テキサス州ヒューストン/2021年5月15日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC))】
これまでにNBAのヒューストン・ロケッツのホームで8回のUFCイベントが行われてきた。昨年の夏にはUFCとトヨタ・センターが8月のUFC 265に始まる複数回のイベントのパートナーシップを発表している。

UFCは再びヒューストンに戻り、今年2回目のペイ・パー・ビュー・イベントであるUFC 271を開催する。メインカードはイズラエル・アデサニヤとロバート・ウィテカーのリマッチだ。その試合が近づいてきた今こそ、これまでに“ハッスル・タウン”ことヒューストンのオクタゴンで繰り広げられてきた熱戦を振り返るときかもしれない。

ヒューストンのベストファイト10、後編をご紹介。

ジェシカ・アンドラージ vs. アンジェラ・ヒル(UFCファイトナイト・ヒューストン)

アドラージとヒルのバトルはこれまでにヒューストンで開催された唯一のペイ・バー・ビューではないイベントの、メインカードの第1試合として行われた。2017年2月、試合会場から8マイル離れたNRGスタジアムでニューイングランド・ペイトリオッツが第51回スーパーボウルでアトランタ・ファルコンズを下す前夜のことだった。

Invicta FCで4連勝を決めたヒルは、この試合でオクタゴンに復帰。ヒルはその4戦の中で女子ストロー級のタイトルを獲得し、かつ防衛している。

結果としてはアンドラージがこの試合をユナニマスデシジョンで制したが、30対2というスコアでは表しきれないコンペティティブな一戦だった。そして、この試合は二つのことを証明している。一つ、女子バンタム級でデビューしたアンドラージには女子ストロー級でも存在感を示すのが可能なこと。そしてもう一つは、ヒルがUFCの最初の2回の出場よりも飛躍的に成長し、世界最高のファイターたちを相手に戦う準備を整えたことだ。

トレヴィン・ジャイルズvs. ジェームス・クラウス(UFC 247)

この試合を取り巻く環境を覚えている者なら誰でも、なぜこの一戦がベスト10に挙げられるかを理解できる、“知る人ぞ知る”タイプのカードがトレヴィン・ジャイルズvs. ジェームス・クラウスだ。ご存じない方のために、説明させてほしい。

クラウスはユーセフ・ザラルのコーナーを務めるためにヒューストンへと向かった。イベントの幕開けとなる試合が、ザラルのUFCデビュー戦だったのだ。計量の日、ジャイルズとプレリムで対戦する予定だったアントニオ・アロヨが医療上の問題によって辞退。ミドル級のリミットに近づけるために街を歩き回ったウェルター級ファイターのクラウスが、アロヨの代役に手を挙げた。計量で183.5lbs(83.23kg/ミドル級のマックスは185lbs)だったクラウスは、翌夕のジャイルズの対戦相手を引き受けている。

オクタゴンに上った2人はエキサイティングで激しいバトルを展開。ジャイルズが議論を呼んだスプリット判定勝利を手にしたこの試合は、敢闘試合賞(ファイト・オブ・ザ・ナイト)に選ばれた。今でも一部の人が苛立つのも無理はない判定だった。

クラウスは8カ月後に再び勝利を挙げて以降は、戦いの場に戻っていない。コーチング業に専念することを選んだクラウスは、最も優秀なコーチの一人となっている。この業界でも最も尊敬された一人の揺るぎない歩みであり、事態を知る者の心にはいつまでも残り続ける一戦だった。

ジョン・ジョーンズ vs. ドミニク・レイエス(UFC 247)

一見、これはジョーンズがUFC 247のメインイベントでユナニマス判定勝利を飾り、タイトル防衛に成功しただけに見えるかもしれない。彼にとっては4連勝となる12カ月で3度目の勝利で、スコアは3対0と王者に有利な展開を描いているものの、決して“ボーンズ”の圧勝という試合ではなかった。

無敗の挑戦者レイエスは最初からキレを見せてレンジ内にとどまり、上から下まで多才な攻撃を繰り出して、序盤のうちはトリッキーで危険なスポットを回避していた。見た目で分かるようなダメージこそ与えていなかったが、2人のうちでアクティブだったのはレイエスの方であり、第3ラウンドまでの有効打はジョーンズを上回っていた。彼は王者に前進を許すと、その途中と後退の際に攻撃を仕掛け、ジョーンズが反撃する前に安全圏へと離脱した。

第4ラウンドになると、レイエスの勢いが衰え始め、ジョーンズがペースを上げた。最後の2ラウンドのスコアカードで誰の目にも明らかな決定的差をつけたのはジョーンズだったが、終了のホーンが鳴った時には、ブルース・バッファーが防衛成功を宣言するのか、新王者の誕生を言い渡すのか、誰も確信は持てなかった。

ジョーンズはタイトルを守ったが、判定結果については今も議論が起こっている。

『MMADecisions.com』に試合のスコアを投稿した21のメディアメンバーとサイトのうち、48対47でレイエス勝利と採点したところが14あった。残る7つは同じスコアでジョーンズ勝利と採点している。試合の晩にヒューストンにいた3人のジャッジ――クリス・リー、マルコス・ロサレス、ジョー・ソリス――は全員が第1ラウンドについてはレイエス、第4、第5ラウンドはジョーンズの勝利ということで意見が一致しており、第2ラウンドについてはロサレスとソリスがジョーンズ支持、第3ラウンドはリーとソリスが同じく王者を支持した。

ライトヘビー級タイトルの防衛で、ジョーンズがこれほど危機的状況に陥ったのは初めてだった。そして現時点で、彼がオクタゴンの中で戦ったのはこれが最後となっている。

アンドレ・ムニス vs. ジャカレ・ソウザ(UFC 262)

まだ1年もたっておらず、記憶が新しいというバイアスはかかっているかもしれない。あるいは、ムニスがここを含めて多くのサイトでサブミッション・オブ・ザ・イヤーを獲得した試合だからだろうか。

理由がどうであれ、このフィニッシュはどうしてもリストに加える必要があった。そこには柔術の素晴らしさが表れており、グラップリングに優れたブラジル人のミドル級ファイター同士の間でバトンが手渡された瞬間だった。

2019年のデイナ・ホワイト・コンテンダーシリーズ(DWCS)の出演者だったムニスはUFC最初の2試合で勝利し、6連勝を飾って、ソウザとの対戦という大きなステップアップを果たした。ソウザはというと、すでにUFCでの以前の力は失っていたものの、“ジャカレ”の名前は健在であり、185ポンド級で前進を目指す者にとっては危険極まりない相手だった。

放送の中で、ジョー・ローガンは2人のうちでムニスの方が優れたグラップラーだという試合前の評価に戸惑いを見せ、ソウザの長く印象的な履歴を引き合いに出していた。実際、先にクリンチを仕掛け、最初のテイクダウンを取ったのはベテランのソウザだった。しかし、ムニスはうまく守ってすぐに立ち上がると、タイミングを見計らってテイクダウンをやり返し、ソウザに背をつかせた。

ソウザもそこから立ち上がったが、ムニスは背後からのウエストロックを離さない。しかし、数秒後にベテランはそこから逃れ、再びポジションはセンターに。第1ラウンドが残り90秒となる中でムニスは再び上下にレベルを変えて攻め、ソウザは素早く立ち上がったものの、ムニスは腰に食らいついたままフェンス際まで行くと、ソウザの背中に飛び乗った。

ソウザも背中越しに彼を振り落とそうと頭を下げて対抗したが、DWCSの卒業生は不安定な体勢からアームバーに持ち込み、すぐにタップを得た。2人が引き離された後、ソウザの腕が折れていたことが分かった。

ムニスはMMAでソウザからダウンを取った3人目のファイターとなっただけでなく、彼に一本勝ちを決めた最初の1人となった。同時に、彼は自分がミドル級で自分が目を離してはいけないファイターだということを広く知らしめた。

チャールズ・オリベイラ対マイケル・チャンドラー(UFC 262)

5分と19秒で終わった試合だが、流れは双方を行き来し、これで決まったと思わせる瞬間も何度かあった。

空位となったライト級タイトルを争うために組まれたマッチに、オリベイラは8連勝して臨んだ。一方のチャンドラーはプロモーションデビューのUFC 257でダン・フッカーに第1ラウンドでノックアウト勝ちを決めてから4カ月。動き出すのに時間はかからなかった。

先制攻撃を仕掛けたオリベイラがヘビーなローキックでチャンドラーのリードレッグを払ってキャンバスに一瞬手を付かせた。最初の1分が過ぎる前に、チャンドラーはボディを攻め始め、オリベイラに左フックを決める。これを受けてオリベイラは狙いを変えてテイクダウンを取りにいったが、コンパクトな中にパワーを秘めたチャンドラーはケージの真ん中でギロチンチョークをかけて締め上げた。

どうにか頭を引き抜いた“ドゥ・ブロンクス”はそのままチャンドラーのバックを取り、チョークを狙いつつフックで攻撃。その状態でチャンドラーは立ち上がると、オリベイラを背負ったまま飛び上がり、倒れるようにして彼をキャンバスに打ち付けたが、腰に巻き付いたボディトライアングルは外れない。オリベイラは重いエルボーを決めてチャンドラーをおとなしくさせようとするが、ミズーリ大学でレスラーとして活躍したチャンドラーは勢いよく体をねじって体勢を入れ替え、オリベイラのガードから抜け出した。

これは全て第1ラウンドの前半に起きたことだ。

ここからチャンドラーが盛り返して背中をついた状態のオリベイラにハードショットを数回決め、彼が立ち上がった数秒後にはファイト・アイランドでフッカーを沈めたのと似た左パンチを放った。こめかみを狙った右パンチでオリベイラはレッグを取りにいったが、チャンドラーは動き回りながらショットを連発して攻勢をかけ、思い通りにさせなかった。彼は自らオリベイラのガードにのしかかり、トップポジションから連打を浴びせる。エルボーでカットを与えて、いつもは打つ側の32歳に打たれ役を演じさせた。

5分間が終わった段階で、完全に優位に立っていたのはチャンドラーだった。ところが、第2ラウンドが始まって20秒とたたないうちに試合は終わり、オリベイラが新UFCライト級王者となった。

自信を持ってセンターから進み出たオリベイラに対し、チャンドラーは対抗して拳を振り回した。レンジ内でパンチを打ち合ううちにオリベイラの左が命中し、チャンドラーはキャンバスに手をついた。身を翻し、フェンス際ですぐに立ち上がったチャンドラーだったが、オリベイラはスペースを与えず、すぐに顔面に鋭い右パンチを命中させ、ふらつくチャンドラーが開けたスペースに逃れようとするところにもう一発左をお見舞いした。

もはや無抵抗となったところへ左の連打が入り、レフェリーのダン・ミラグリオッタが試合を止めるために介入。オリベイラは9連勝を決め、ヒューストンのトヨタ・センターで行われた過去の試合の中でも決して忘れることのできない勝利がここに誕生した。
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