10月の名試合10選:前編

UFC PPV
UFC 179:ジョゼ・アルド vs. チャド・メンデス【ブラジル・リオデジャネイロ/2014年10月25日(Photo by Buda Mendes/Getty Images)】
UFC 179:ジョゼ・アルド vs. チャド・メンデス【ブラジル・リオデジャネイロ/2014年10月25日(Photo by Buda Mendes/Getty Images)】
UFCの歴史的に見て、10月は決してエキサイティングなバトルに富んだ月ではない。

その面で、7月初めのインターナショナルファイトウイークが傑出しているのはもちろんだ。近年は毎年11月にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで人々の記憶に残るリザルトやハイライトが誕生している。5月と12月にも歴史的なバトルが繰り広げられてきた。

しかし、アブダビでペイ・パー・ビューのビックイベントであるUFC 280が行われるにあたり、10月のオクタゴンで展開された名場面を振り返ってみるのもまた一興だろう。まずは前編をお届けする。

アンデウソン・シウバ vs. リッチ・フランクリン(UFC 64)

その頃、ミドル級におけるシウバの台頭が何を意味するかを知るすべはなかった。しかし、当時からそのパフォーマンスが与える印象は大きかった。

この試合の前までフランクリンがいかに優れていたか、いかに印象的な勝利を飾り、ミドル級タイトル防衛に成功していたかを、人々は忘れてしまっている。“エース”は22勝1敗、ノーコンテスト1回をマークし、初めてのタイトル防衛戦ではネイト・クォーリーを相手に見どころあるバトルを繰り広げ、2回目の防衛ではデビッド・ロワゾーを退けた。

そのフランクリンは8連勝を決めていた。一方のシウバはUFCデビュー戦でクリス・リーベンを打ちのめしてから4カ月も経っていないタイミングだった。それにもかかわらず、再びオクタゴンに舞い戻ったシウバはミドル級王者を相手に、同じことをしてのけたのだ。

このバトルはあと少しで3分というところで決着がついた。“ザ・スパイダー”ことシウバはクリンチから膝の一撃を浴びせ、フランクリンを倒してUFCタイトルを手にしている。そこから6年以上、ベルトを他人に渡さなかったシウバは、タイトル防衛10回、16連勝という記録を築くことになる。

カーロス・コンディット vs. ダン・ハーディ(UFC 120)

アナリストやコーチ、ファイターたちがなぜ格闘技のことを“インチの勝負”と言うのかを不思議に思ったことがあるのなら、ロンドンを舞台とするこのウェルター級マッチをぜひ振り返ってほしい。

元WEC王者のコンディットは階級の頂点を目指していた。ハーディにとってはジョルジュ・サン・ピエールとのチャンピオンシップ戦以来のアクションだ。もちろん、イギリス出身のハーディはこの試合でホームのアドバンテージを活かそうとしていた。

第1ラウンドのほとんどの時間で様子見になり、お互いが少ないショットを繰り出しつつ機を狙う状態。やがて2人のコンテンダーはポケットに歩を進めて足を地につけ、同時に左フックを展開する・・・わずかに速くターゲットを見つけたのが、コンディットの方だった。

“ザ・ナチュラル・ボーン・キラー”ことコンディットのショットが当たり、ハーディがカンバスに倒れるとき、コンディットの方も“ザ・アウトロー”の打撃を受けて後方に少しぐらついているのが分かる。ハーディの攻撃の方がほんの少し遅く、ほんの少し弱かった。

この勝利によってコンディットは3連勝を記録し、はしごを上り続けた。最終的に、そのはしごはニック・ディアスを相手とする暫定王座決定戦での勝利につながり、UFC 154でのジョルジュ・サン・ピエールとの王座統一戦へと至っている。

フランキー・エドガー vs. グレイ・メイナード(UFC 136)

UFC 125でライト級王座を懸けて戦った2人の試合は、もしかしたらUFC史上最もカオティックなタイトルマッチだったかもしれない。第1ラウンドでは強烈な攻撃によってエドガーがフィニッシュを決められたかのように見えていたものの、第2ラウンドで王者エドガーが圧巻の立て直しに成功し、この一戦は引き分けに終わる。こうして、リマッチが必要になったのだ。

1月1日の対戦ほどワイルドではなかったにしろ、10月のヒューストンでの激突もまた強烈だった。

最初に火力を見せつけたのはこのときもメイナードで、エドガーをカンバスに倒し、“ジ・アンサー”からタイトルをもぎとったかに見えた。だが、最初の対決と同じように、エドガーがほぼ人知を超えた力で“ザ・バリー“の全力を受け止め、やり返している。

第4ラウンド残り1分少々という段階でスクランブルが続く中、エドガーがメイナードの顎にアッパーカットを入れる。これによろめいたメイナードを、チャンピオンは決して立たせなかった。メイナードの背中を追いかけたエドガーはクリーンなショットを連続でたたき込み、右腕でメイナードを陥落させる。床に崩れたチャレンジャーに乗りかかったエドガーが左腕で連打を始めたところで、レフェリーがストップをかけた。

2人のライバル関係は決して白熱したものではなく、UFCでも最大クラスのバトルで見られてきたような目立ったトラッシュトークもなかった。しかし、エドガーとメイナードが見せた2011年の2試合は、2人のライバル同士がオクタゴンで繰り広げてきた中でも最高のバトルに数えられるだろう。

ギルバート・メレンデス vs. ディエゴ・サンチェス(UFC 166)

第1ラウンドの半ばにメレンデスがサンチェスをしこたま痛めつけたものの、ジ・アルティメット・ファイター(TUF)の優勝者である不屈のファイターは決して前進をやめなかった。サンチェスが元Strikeforce王者のメレンデスにボディキックを入れた後、2人はマウスピースを噛みしめてホーンが鳴るまで打ち合いを続けている。

第2ラウンドは殴打の応酬に費やされ、メレンデスの方が打撃では上回っていたものの、サンチェスも決して譲らず、浴びせられるすべての攻撃に応対する。眉の位置に切れた傷から、血がサンチェスの横顔を伝っていた。総じて一歩押されている様子だったサンチェスはこの攻防の大部分で攻撃を当てられ、自らの攻撃を当てるために相手のパンチを食らっている状態だった。

それでも屈することのないサンチェスは攻撃を続け、逆転の可能性を切り開くべく、メレンデスに死にものぐるいの泥臭い乱打をしかけていく。

第3ラウンドの後半で、2人は長くラテンファイターの特質だと思われてきた不屈さ、情熱、怒りを存分に示した。サンチェスがメレンデスを崩し、フィニッシュを狙った後、ラスト10秒で打ち合う2人は格闘ゲームに熱中してボタンを連打する子どものようだった。

最後には判定でメレンデスが勝利を収めている。鼻っ柱の強いベテランコンビが、ヒューストンでとんでもないショーを繰り広げた一夜だった。

ジョゼ・アルド vs. チャド・メンデス(UFC 179)

アルドとメンデスが最初に拳を合わせたときには、王者アルドが第1ラウンド終了のホーンの直前に膝蹴りをたたき込み、リオの観客席に飛び込んで勝利を祝った。

フェザー級の傑出した選手である2人は、それから2年以上にわたって階級のトップに君臨した。アルドはフランキー・エドガー、ジョン・チャンソン、リカルド・ラマスを相手に王座を守り、メンデスはコーディ・マッケンジー、ヤオツィン・メザ、ダレン・エルキンス、クレイ・グイダ、ニック・レンツを倒して、UFC 179でのアルドどの再戦に至っている。

最初の邂逅が1ラウンドに満たなかったにもかかわらず、2回目の対戦は長時間におよび、メンデスはアルドがフェザー級チャンピオンとして直面してきた中で最も厳しい戦いを強いた。しかしながら、それでもわずかにおよばなかった。この戦いは敢闘試合賞(ファイト・オブ・ザ・ナイト)に選ばれただけではなく、多くの媒体によってファイト・オブ・ザ・イヤーに選出されている。それももっともなことだった。

UFCの殿堂に、アルドの居場所はすでに確保されている。しかし、WECでの成功や“ザ・キング・オブ・リオ”との2戦目を通じて紡がれてきたメンデスの傑出したキャリアもまた、称賛に値する。メンデスはその頃の5年の期間で、地球上で最も優れたフェザー級ファイターの一人だった。ただ不運にも、その前には史上最も優秀な選手の一人が立ちはだかっていたのだ。
Facebook X LINE

オクタゴンガール
オフィシャルショップ
FANTASY