10月の名試合10選:後編

UFC PPV
UFCファイトナイト・ファイトアイランド5:インパ・カサンガナイ vs. ホアキン・バックリー【アラブ首長国連邦・アブダビ/2020年10月11日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC)】
UFCファイトナイト・ファイトアイランド5:インパ・カサンガナイ vs. ホアキン・バックリー【アラブ首長国連邦・アブダビ/2020年10月11日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC)】
UFCの歴史的に見て、10月は決してエキサイティングなバトルに富んだ月ではない。

その面で、7月初めのインターナショナルファイトウイークが傑出しているのはもちろんだ。近年は毎年11月にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで人々の記憶に残るリザルトやハイライトが誕生している。5月と12月にも歴史的なバトルが繰り広げられてきた。

しかし、アブダビでペイ・パー・ビューのビックイベントであるUFC 280が行われるにあたり、10月のオクタゴンで展開された名場面を振り返ってみるのもまた一興だろう。前編に続き、後編をご紹介。

ダニエル・コーミエ vs. アレクサンダー・グスタフソン(UFC 192)

時とともに、ある試合がいかにコンペティティブだったか、いかに接戦だったかの記憶は薄れていく。激闘を繰り広げた2人が各々の道を進み、戦い続け、それぞれに思い出と記憶を作っていくからだ。グスタフソンはその現象のイメージキャラクターのような存在だ。4連敗を喫した今、グスタフソンはUFC 192を含め、一歩届かなかった姿によって最も人々の記憶に残っている。

だが、ヒューストンの汗飛び散る激戦で、“ザ・モーラー”ことグスタフソンはUFCライトヘビー級王者まで本当にあと一歩だった。また、グスタフソンがこの戦いに勝利するに値することをやっていたという議論にも、十分な理があるはずだ。

コーミエ自身がこの試合はキャリアで最もタフだったと語ったこと、この一戦がこれまでで最もヒットを受け、痛めつけられた試合だと語ったことが、何かを伝えている。グスタフソンはこの夜に自分にできる限りのことを尽くし、“DC”は傑作とも言える展開となったバトルで何とかそれを退けた。

その場にいて強烈な応酬の一つ一つや、胸のすくようなすべての瞬間に上がった観衆の咆哮を聞き、25分にわたる全霊をかけたバトルで男たちが極限まで競い合う様子を見た者は、きっとこう言うはずだ。この試合はその人物が見てきた中で最高のバトルの一つであり、今すぐにでも見返すべきだと。

デメトリアス・ジョンソン vs. レイ・ボーグ(UFC 216)

デメトリアス・ジョンソンがフライ級に君臨していた当時、ジョンソンこそUFC史上最も支配的なチャンピオンだとの見方があった。

“マイティ・マウス“と呼ばれるジョンソンはベルトを(以前に倒したことのある)ヘンリー・セフードによって(スプリット判定で)奪われるまでに連続タイトル防衛記録を更新しただけではなく、多くの場合、それをさまざまなスタイルで問題なくこなしていた。

最後のタイトル防衛にしてUFCでの最後の勝利になった試合が、彼の卓越性を余すところなく示している。ジョンソンはバックウエストロックからレイ・ボーグを宙に放り、アームバーに入りつつカンバスに叩き落とすという形で、11回連続タイトル防衛を果たした。

大丈夫、誤読ではない。彼は一人の成人男性を宙に放り、マットに叩きつけながら相手の左腕をつかみ上げ、タップを引き出してサブミッション勝ちを決めたのだ。

このハイライト映像は何度見ても色あせない。アンソニー・ペティスの“ザ・ショータイム・キック”と並び、最もクリエイティブで、オリジナルで、信じられないほどのアタックだった。

ハビブ・ヌルマゴメドフ vs. コナー・マクレガー(UFC 229)

ファイト前、もしくは後の騒動も、試合そのものも、魅力に満ちている。この対決の1年前にアル・アイアキンタとの試合で空位になっていた王座についたヌルマゴメドフは、真にライト級のトップに立つのにふさわしいのかとの疑問の声を、実力で黙らせた。

最初から最後まで、ヌルマゴメドフが支配した。予想通りレスリングでマクレガーを上回ったヌルマゴメドフは、第1ラウンドの序盤にマクレガーをマットに倒し、そこにとどめる。第2ラウンドの初めにはアイリッシュマンに強烈な右を叩き込んだ後、再びレスリングで仕掛けていった。マクレガーは毎ラウンドの初めに足にプレッシャーをかけたものの、ヌルマゴメドフがグラップリングに移行するチャンスを見つけ、もしくはクリンチの状況に持ち込み、元チャンピオンの攻撃を無効にしていく。

バトルを締めくくったグラップリングシークエンスはお手本のようだった。マクレガーをカンバスへと崩したヌルマゴメドフはそのボディをコントロールし、チャレンジャーが抜け出そうとする度にその一歩先を行き、ネッククランクでタップを引き出している。

UFCの歴史の中でも最も期待を集めた試合の一つを、ヌルマゴメドフは自らの才能を世界に知らしめる舞台にした。

イズラエル・アデサニヤ vs. ロバート・ウィテカー(UFC 243)

アデサニヤのUFCデビューは2018年2月11日。ロブ・ウィルキンソンを第2ラウンドで仕留めている。

そこからの364日間でさらに4勝を重ねたアデサニヤは、UFC 236でケルヴィン・ガステラムとの5ラウンドにおよぶ暫定王座決定戦を制し、ロバート・ウィテカーとのタイトル統一戦への切符をつかんだ。その試合が行われたのが2019年10月6日、オーストラリア・ビクトリア州メルボルンのマーベル・スタジアムでのことだった。

アデサニヤが階級のトップへ上りつめる様はあまりにも見事だった。だからこそ、この試合の終わり方はアデサニヤがミドル級タイトルを高く掲げる以外になかったとすら感じられた。だが、この一戦を特別なものにしている一つの要素が、アデサニヤがいかにしてその結末にたどり着いたかだ。

第1ラウンド終了のブザーが鳴る直前、アデサニヤが繰り出した右腕によってウィテカーがカンバスに崩れ落ちた。時間が少しでも残っていれば、この試合はそこで決していただろう。それほど明らかに、ウィテカーはダメージを受けていた。

第2ラウンドではウィテカーがプレッシャーをかけ、チャンスをうかがっていく。序盤に何度かうまく攻撃を決めたウィテカーだが、結局はアデサニヤがその代償を払わせた。“ザ・リーパー”ことウィテカーの突進を退いてかわしたアデサニヤは、カウンターをたたき込んでいく。ラウンドの終盤にはアデサニヤのスピードが際立つようになっていた。

やがて、アデサニヤの左腕がウィテカーの顎を捉え、ウィテカーはカンバスへ沈む。棺に釘が打たれる前に、レフェリーのマーク・ゴダードが素早くバトルを止めた。

UFCデビューから2年足らずで、アデサニヤはミドル級の王座に君臨した。そして、それを今も手放していない。

ホアキン・バックリー vs. インパ・カサンガナイ(UFCファイトナイト・ファイトアイランド5)

過去数年の中でも最高のハイライトに数えられるのがこの試合だ。映画の振り付けさながらのキックなど誰もトライしようとはしないだろうが、それをやったのがバックリーだった。

オクタゴンの中央に並び立った2人。バックリーがサウスポースタンスで、カサンガナイはオーソドックススタンスをとっていた。バックリーがカサンガナイの肩に向かって蹴りを放つと、デイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズ出身であるカサンガナイが胸の前でその足をしっかりとつかんだ。

ところが、足を捕らわれたバックリーはそのまま、地についている右足を軸に回転すると、ジャンプしてその右足をダイレクトにカサンガナイにたたきつけ、着地したのだ。

通常速で見ても、まるでスローモーションのように見える瞬間だった。それは、インパクトから一瞬遅れてやってきたリアクションのせいだ。何が起こったかが把握できるまで、わずかな時間がかかった。このショットを受けてすぐに倒れたカサンガナイだが、カンバスに後ろ向きに崩れるまで、ほんのすこしの時間だけ、揺れながらそこに立っていた。

もちろんこの年のノックアウト・オブ・ザ・イヤーになっただけではない。この試合はノックアウト・オブ・ザ・ディケイド(10年紀)の有力候補でもあり、これを上回るのはきわめて難しいだろう。
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