UFC月間レポート:2023年5月

UFC PPV UFCファイトナイト
UFC 288:モフサル・エフロエフ vs. ディエゴ・ロペス【アメリカ・ニュージャージー州ニューアーク/2023年5月6日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 288:モフサル・エフロエフ vs. ディエゴ・ロペス【アメリカ・ニュージャージー州ニューアーク/2023年5月6日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC月間レポートは1カ月の間にオクタゴンの中で起こったアクションから、最高のパフォーマンスを選んで光を当てるものだ。傑出したフィニッシュやバトル、ブレイクしたコンペティター、才能ある新人たちは、いずれ上半期の、そして2023年のベストパフォーマンスに選ばれるかもしれない。

受賞候補は次第に見え始めているものの、その一方で1年の後半にならなければ決まらないと思われるカテゴリーもある。とは言え、5月に実施された3つのイベントからは、サブミッションとノックアウトの部分で有力候補が登場している。また、この月にデビューしたファイターが、ニューカマーの中でトップにつける勢いを見せた。

5月のベストパフォーマンスは次の通り。

ブレイクアウト・パフォーマンス:イクラム・アリスケロフ



イクラム・アリスケロフはデイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズで印象に残るパフォーマンスを見せ、それほど時間をかけることなくマリオ・ソウザをカンバスに押しつけると、そのままキムラを決めて、復帰戦に臨んでいたソウザからタップを引き出した。そんなアリスケロフだからこそ、UFC 287でのフィル・ハウズとのマッチアップは、その実力を測る一戦として理想的に見えた。こちらもコンテンダーシリーズ出身のハウズは、オクタゴンで成功を収めている一方、無敵というわけではなかったファイターだ。

まずはハウズがシャープでアグレッシブな姿勢を見せ、サウスポーのスタンスで前へ出ると、ニューカマーに攻撃をしかけていった。試合開始から90秒の間、アリスケロフはほとんど反撃ができない状態だ。しかし、第1ラウンドが終盤に入ったところでアリスケロフが繰り出した1-2によって、ハウズが後退。そのデータをメモリーに格納したアリスケロフは、フィニッシュを決めるために再びそれにアクセスすることになる。

反撃に出たハウズはさらに前進を続けていくが、その戦いはテクニカルなものからカオティックなものに変わっていた。調子をつかんだアリスケロフはハイキックで相手をまごつかせ、右膝を効かせていく。ハウズにダメージが入ったと感じたアリスケロフは一斉攻撃に転じ、ボディへの膝に続いてまた1-2をたたき込んだ。そのいずれもがハウズの顎(あご)をとらえ、アリスケロフは第1ラウンドで試合を終わらせている。

新たにUFCに参戦する才能たちが、それぞれの階級でどれほどの位置につけるかをすぐに予測するのは難しいことがある。なぜなら、オクタゴンにたどり着く前にどんな場で戦っていたのかや、どんな相手と戦っていたのかによって左右される部分が大きいからだ。質の高い試合をこなし、ハウズと対戦してノックアウトしたことを踏まえれば、このニューカマーは間違いなくミドル級で動向を見守るべき選手と言えるだろう。

アリスケロフの奮闘はUFCのマッチメーカーたちにはっきりとした印象を残した。すでに、元タイトル挑戦者であるパウロ・コスタとの試合が夏に組まれている。ハウズをノックアウトしたことで、オクタゴンで戦うにふさわしい実力があることを示したアリスケロフ。コスタとの試合でまた勝利することがあれば、UFCに参戦してわずか2戦でチャンピオンシップにからんでいくことになるだろう。もちろん、12月に選ばれるニューカマー・オブ・ザ・イヤーの有力候補になることも、間違いない。

サブミッション・オブ・ザ・マンス:デビン・クラークに1本勝ちしたケネディ・エンジーチュクー(UFC 287)



5月にオクタゴンで行われた35試合のうち、19試合の勝敗がフィニッシュで決した。しかし、1本勝ちだったものはその中の4試合しかない。サンプルが少なかったとは言え、今月のベストサブミッションを選択するのは実にシンプルな作業だった。

“ザ・クイーン・シティ”ことシャーロットでサブミッションによって勝利をつかんだタイナラ・リスボア、アレックス・モロノ、ジャイルトン・アルメイダには敬意を表しつつ、ケネディ・エンジーチュクーがニューアークでデビン・クラークを仕留めたニンジャチョークを王座から引きずり下ろすのは、非常に難しい仕事だと言わざるを得ない。これをニンジャチョークと呼ぶか、変形ギロチンと呼ぶか、また別の呼び方をするかはともあれ、Fortis MMAを代表するファイターであるエンジーチュクーによるホールドには非の打ち所がなく、エンジーチュクーがチョークに入った時点で、もう試合は終わりだと誰もが知っていた。

第1ラウンドは激しかった。序盤から相手を痛めつけたクラークがクリーンな右からのパンチによるフラッシュに続いてエンジーチュクーをフェンスに押しつける。“アフリカン・サベージ”ことエンジーチュクーは冷静に対処し、機を見て攻勢に転じると、フェンス際で相手に苦戦を強いる形で第1ラウンドを終えた。第2ラウンド開始時も勢いの衰えないエンジーチュクーは、距離をつめてクリンチの形をとり、膝と肘で攻撃を加えていく。

壁から逃れようと奮闘したクラークは頭を下げ、相手の片足を取ろうと狙っていく。エンジーチュクーはこの疲労混じりの試みを逆手にとり、クラークが反応する機をつくることなく自分のバランスを保ってチョークを仕掛けた。その数秒後、クラークはカンバスへ崩れることになる。エンジーチュクーはオクタゴンで3連勝を誇示した。

少し時間がかかり、何度かの逆境を経験しながらも、30歳のライトヘビー級ファイターは見事に成長し、この階級で注目すべき危険なダークホースになっている。

ノックアウト・オブ・ザ・マンス:マイケル・ジョンソンをノックアウトしたディエゴ・フェレイラ(UFCファイトナイト・ラスベガス73)



これ以外に選びようがあっただろうか?

このスポーツでは“たった一撃で”とか、“パーフェクトショット”などといったことがもてはやされる。このフィニッシュは、その完ぺきなお手本だ。

第1ラウンドではマイケル・ジョンソンが3人のジャッジのうち、2人の判定で優勢になっており、試合の大部分で良いリズムをキープしていた。第1ラウンドでジョンソンがいくつかのショットを入れ、ディエゴ・フェレイラもそれに応じる。第2ラウンドに入ってからはフェレイラの最初のテイクダウンの試みを阻止し、復帰したベテランが勝利するための道を一つ封じたように見えた。

だが、結果から言えばフェレイラにグラップリングは必要なかった。

中央で構えなおした後、2人のライト級ファイターたちは弧を描きながら互いを追い、手数を増やしつつ機を狙っていた。リードハンドを使っていた両者だが、フェレイラが前に出て右オーバーハンドを放つ。まるでレーザー照準に導かれたかのようなその攻撃がジョンソンの顎に直撃し、その瞬間にジョンソンの動きを止めた。

連敗は止まった。ファイトボーナスが与えられた。上半期のベストノックアウト候補の座も確保した。

たった一撃。

パーフェクトなショットだった。

ファイト・オブ・ザ・マンス:モフサル・エフロエフ vs. ディエゴ・ロペス(UFC 287)



これもまた、“疑問の余地のない”選択だった。5月の初めに行われたモフサル・エフロエフとディエゴ・ロペスによるフェザー級マッチは、今のところ、2023年最高の試合の一つに入っている。

ロペスはジョナサン・ピアースの代役に手を上げて、試合の1週間前にフェザー級トップ15とのマッチアップに組み込まれた。デイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズのファンであればシーズン5に登場したロペスのことを知っているだろうし、アレクサ・グラッソのコーナーにいた彼に気づいた人もいるだろう。しかし、ショートノーティスでオクタゴンに上り、エフロエフに相当な試練を与えることになるとは、誰も思っていなかったはずだ。

そう、間違っていたのはわれわれだ。

ブラジル出身のロペスはエフロエフに勝負を持ちかけ、無敗のロシア人はすべてのターンで奮闘を強いられた。エフロエフが真にコントロールを握り、ロペスを引き離そうとしているように見えるたび、ギリギリで代役に立ったロペスが鋭い打撃やスクランブル能力、一連のサブミッションや身のこなしでやり返していく。ロペスをわずかに上回り、4分の1歩ほど前にとどまったエフロエフだが、終始激しいバトルを強いられた。

結果として、このバトルはエフロエフが苦労して勝利をつかんだ試合の一つになった。しかし、真の勝者は、15分にわたって自分がオクタゴンでトップクラスのバトルに挑む資格があることを証明したロペスだったのかもしれない。今はエフロエフがこの階級の上へと駆け上っていくのを見守るのを楽しみにしている多くの人々と同じくらい、ロペスが再びオクタゴンに登場するのを心待ちにしている人々がいるだろう。
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