UFC月間レポート:2023年9月

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ノーチェUFC:アレクサ・グラッソ vs. ワレンチナ・シェフチェンコ【アメリカ・ネバダ州ラスベガス/2023年9月16日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
ノーチェUFC:アレクサ・グラッソ vs. ワレンチナ・シェフチェンコ【アメリカ・ネバダ州ラスベガス/2023年9月16日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
ここに設けた4つのカテゴリーに分類し難い試合というものは、いつか出てくる運命だった。それが、今月だったのだ。

UFC 293でショーン・ストリックランドがイズラエル・アデサニヤを倒してミドル級のタイトルを勝ち取った試合は、こういった分類が難しい。サブミッションでもノックアウトでもなく、試合自体は最初から一方的だった。ストリックランドの努力と勝利はある程度驚くべきものではあったが、一方でストリックランドはしばらくトップ10につけていたファイターであり、UFCのタイトルにも挑戦していた。そういった意味では、従来の意味でのブレイクアウト・パフォーマンスというわけでもない。

とは言え、最後の月に――もしくは12月になったときに、1年を振り返って――何が起るかは、今は分からない。そして、ストリックランドについても。なぜなら、彼は現時点でファイター・オブ・ザ・イヤーの筆頭候補かもしれないからだ。

今年に3勝0敗を記録しているストリックランドは、圧倒的なパフォーマンスでミドル級のタイトルを手にしたが、9月のこの月間レポートにおいて、適切なカテゴリーを判断するのは難しい。

ここ数年のストリックランドのキャリアを詳しく知ると、そういったポジションにいるのも納得できる。

下記に続く9月の月間レポートにミドル級新チャンピオンのストリックランドが登場しないのは、そういうわけだ。

ブレイクアウト・パフォーマンス:ルーピー・ゴディネス(ノーチェUFC)


2021年春にUFCにやってきたときから、ルーピー・ゴディネスはこの先の活躍が期待されるファイターだった。しかし、本当にブレイクしたのは、エリース・リードと戦ったノーチェUFCでのことだ。

30歳のメキシコ系カナダ人であるゴディネスは、プレリムで行われたこの試合で、リードに対してどう猛な戦いを見せた。これまでより向上し、洗練されたボクシングやトレードマークの力強さ、傑出したグラップリングを披露したゴディネスは、試合のほぼすべての瞬間で優勢を保っている。早い段階でリードを倒したゴディネスは、ロンダ・ラウジーとミーシャ・テイトの試合を思い起こさせる厳しい角度に腕を曲げ、第1ラウンドで試合を終わらせかけた。第2ラウンドに入り、ゴディネスはテコンドースタイルのリードをカンバスに引き倒した後、リアネイキドチョークで勝負を決めている。

全体で11勝3敗、UFCで6勝3敗をマークしたゴディネスは、女子ストロー級でこれからも注意して見守るべきファイターだろう。そのことは、今回の成果や、ロボ・ジムのチームと共にしたわずか2回のトレーニングキャンプでゴディネスが遂げてきた大きな進歩に裏打ちされている。

女子フライ級王者のアレクサ・グラッソや女子バンタム級タイトル挑戦者のアイリーン・アルダナの傍らで、そして、グアダラハラの優秀なコーチたちと共にトレーニングを重ねたことで、ゴディネスのスキルは新たな高みに到達した。もはや彼女は有望ながら磨かれていない原石ではなく、明確に上昇している新星であり、この階級にいる全員にとって手強い相手になっている。

ゴディネスはUFCでの戦績が実際のパフォーマンスを反映していないファイターの1人でもある。デビュー戦では元タイトルチャレンジャーのジェシカ・ペネにスプリット判定で敗れたが、この試合はゴディネスの勝ちだったと考える者も多いだろう。2回目の敗北はショートノーティスで、さらに、階級を一つ上げて相手の普段の階級で戦ったルアナ・カロリーナ戦だった。3つ目の黒星は昨年夏にサンディエゴで、この階級の強者であるアンジェラ・ヒルと当たったときのもの。負けから学んでいくプロセスにあるファイターに、責めを負わすべきではない類の敗北だろう。

しかし、ノーチェUFCでのパフォーマンスからは、ゴディネスが多くのピースをまとめあげ、ファイターとして大きな一歩を遂げたのが見て取れた。どうやら、今後はさらに眼を見張るようなパフォーマンスが期待できそうだ。

特別賞:ファリド・バシャラート、モルガン・シャリエール、ブノワ・サン・デニ、ガブリエル・ミランダ、フェリペ・ドス・サントス、ダニエル・ゼルフーバー

サブミッション・オブ・ザ・マンス:タイ・トゥイバサに1本勝ちしたアレクサンドル・ボルコフ(UFC 293)


UFC史上3回目のツイスターによる勝利を決めたダモン・ブラックシア以外に選びようがなかった先月と同様に、ボルコフを今月のこの賞に選ぶのは実に明白な選択だった。ロシア出身のヘビー級選手であるボルコフは、シドニーのセミメインイベントでトゥイバサと対峙し、マウントからのエゼキエルチョークで勝負を決着させている。

ここ数試合でアグレッシブさを増していたボルコフは、その勢いをUFC 293でも継続。“バム・バム”ことトゥイバサとの試合が始まるや攻撃をしかけ、1ラウンドを終えた後にスコアカード上で勝利を宣言している。おもしろいことに、あるいは、先を暗示するかのように、実況解説陣は試合を通じて、ボルコフがラスベガスに移ってからグラウンドゲームに費やしてきた時間とエネルギーについて語っていた。

ボルコフのストライキングは一流であり、まずはスタンディングでの戦いを選んでいたことから、人々は彼がブラジリアン柔術の茶帯であること、そして、その長い手足から、カンバス上の争いでボルコフと渡り合うことは非常に難しいことをしばし忘れていた。いったんトゥイバサをカンバスに倒した後、ボルコフは余裕の戦いぶりを見せ、すぐにマウントを取ると、守るトゥイバサをいなしつつ、絶えず攻撃を加え続ける。

チョークに入るためのお膳立ては完璧だった。人々はそれを予想していなかったし、トレーニングで対処に取り組むこともそれほどない技だからだ。ボルコフは片方の腕をトゥイバサの頭から首の後ろに差し込み、その上からもう片方の腕とつないだ。そして、じっとタップを待った。試合後のインタビューで、ボルコフはこのホールドを見せてくれたことを、アレクセイ・オレイニクに感謝している。

洗練されたフィニッシュであり、ボルコフにとっては3戦連続でのフィニッシュによる勝利だった。強力なパフォーマンスは、ヘビー級のタイトル争いに再びからもうとするボルコフにとって、ちょうど良いタイミングでやってきたと言えるだろう。

特別賞:ファリド・バシャラート対クレイドソン・ホドリゲス、ガブリエル・ミランダ対シェーン・ヤング、ダニエル・ゼルフーバー対クリストス・ジアゴス

ノックアウト・オブ・ザ・マンス:ジョシュ・フレムドをテクニカルノックアウトしたロマン・コプィロフ(ノーチェUFC)


優れてクリーンなボディワークは、格闘技ファンにとってたまらないものだ。体のど真ん中への左ストレートで試合の行方が決したとあれば、この項目に登場する可能性がきわめて高くなる。

ボルコフと同じようにコプィロフも絶好調であり、ノーチェUFCでジョシュ・フレムドを第2ラウンドでノックアウトしたことで、連勝記録と連続フィニッシュ記録を4に伸ばしている。このフィニッシュが今月のベストに選ばれたのは、そこまでが見事に組み上げられていたこと、また、最後の一撃の力とインパクトというよりは、そこに至るまでのダメージの蓄積が大きかったことが要因になっている。

コプィロフはフレムドがオクタゴンで息をつける隙を、一瞬たりとて与えなかった。試合開始からさまざまな形で打撃を加え、狙いやテンポ、シングルなのかコンビネーションなのかを常に変化させている。最初からボディに当てにいったコプィロフは、第1ラウンドの終盤にはフレムドをめった打ちにしていた。第2ラウンドになっても勢いは弱まらず、フィニッシュが決まるのは時間の問題だった。

最後の打撃が繰り出されたのは、フレムドがフェンスまで後退したときだった。コプィロフは打撃によってフレムドをウオールに押しつけ、続けざまに攻撃する。頭部に浴びせられた大量攻撃にも屈しなかったフレムドだが、ロケットのように腹に繰り出された左手によって勝負は決まった。フレムドは腹を抱えながら、カンバスに崩れ落ちている。

32歳のコプィロフはUFCで4勝2敗となった。これもボルコフと同様に、今回の勝利はちょうど良いタイミングだった。ミドル級では王者交代があったばかりであり、新チャンピオンが戴冠した今、才能ある選手たちへのチャンスはいつもより開かれているはずだ。

特別賞:モルガン・シャリエール対マノロ・ゼッキーニ、タイソン・ペドロ対アントン・トゥルカリ、ジャスティン・タファ対オースティン・レーン

ファイト・オブ・ザ・マンス:アレクサ・グラッソ vs. ワレンチナ・シェフチェンコ(ノーチェUFC)


9月は“ファイト・オブ・ザ・マンス”の称号を2つの試合に送りたくなる月だった。UFC 293で対決したマネル・ケイプとフェリペ・ドス・サントスの試合は、ノーチェUFCのメインイベントさえなければ、間違いなくこの賞をかっさらっていたはずだからだ。この試合はファイト・オブ・ザ・イヤーの候補となるにふさわしく、ドス・サントスは自分が今後注目すべきファイターであることを証明した。

しかし、今は間違いなく、アレクサ・グラッソとワレンチナ・シェフチェンコの再戦をここに挙げるべきだろう。2人の激闘は、このスポーツの称賛すべきところを体現していた。

試合が始まる前から、何か特別なことが起ころうとしているのは明白だった。タイトル戦のリマッチであること。タイトルホルダーが初めての防衛戦で自身の力を証明しようとしていること。挑戦者は再び頂点に立つことを狙っていること。そして、この日は2人の対決で最高潮を迎えるように組み立てられていること。

いざ試合が始まると、女子フライ級タイトルマッチの再戦には、息を呑むような瞬間が満載だった。この試合が歴史に残る一戦であることは確かで、グラッソがシェフチェンコをノックダウンさせると、チャレンジャーがマウントからのギロチンをかけにいく。その後のミスにより、グラッソが再びシェフチェンコの背中をとった。

両者がオクタゴンへ向かうとき、高まる緊張感は手で触れられそうなほどだった。その緊張感は25分のバトルを通じて弱まることはなく、試合の最初から最後まで、観客たちはシートに身を乗りだして次に何が起こるのかを見守っている。

結果のいかんを問わず、この試合は長きにわたって語られる戦いだった。すぐにでも再再戦が見たい、そう思わせてくれる、典型的なバトルだったからだ。

これぞ名試合。ファイト・オブ・ザ・イヤーの超有力候補だろう。

特別賞:ナスラット・ハクパラスト対ランドン・キニョネス、マネル・ケイプ対フェリペ・ドス・サントス、ショーン・ストリックランド対イズラエル・アデサニヤ
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