UFC月間レポート:2024年2月

UFC 試合レポート
UFC 298:アレキサンダー・ボルカノフスキー vs. イリア・トプリア【アメリカ・カリフォルニア州アナハイム /2024年2月18日(Photo by Sean M. Haffey/Getty Images)】
UFC 298:アレキサンダー・ボルカノフスキー vs. イリア・トプリア【アメリカ・カリフォルニア州アナハイム /2024年2月18日(Photo by Sean M. Haffey/Getty Images)】
2月といえば冷え込む季節だが、それとは裏腹にオクタゴンは熱かった。2月には4週連続でイベントが実施されており、その流れは日本時間4月14日(日)にラスベガスで開催されるUFC 300まで途切れることはない。

厳しい寒さの中で印象的なニューカマーが現れ、ブレイクを果たす者が登場してきた。新たに生まれたチャンピオンを筆頭に、そういったファイターたちをここで称えよう。

ブレイクアウト・パフォーマンス:イリア・トプリア(UFC 298)

トプリアがUFC 298でアレキサンダー・ボルカノフスキーと戦い、タイトルを勝ち取ったパフォーマンスを、2月のブレイクアウト・パフォーマンスに挙げることについて、異論がある人もいるかもしれない。なぜなら、新チャンピオンの経歴にはわずかな汚点もなく、もとより王座を手に入れる可能性は十分にある脅威としてこの試合を迎えていたからだ。だが、いかにボルカノフスキーからベルトを奪ったか、そして、そのことがどんな影響をおよぼしたかという点から、トプリアはここで挙げられるにふさわしい対象となっている。

1カ月前にドリカス・デュ・プレシがショーン・ストリックランドを退けてミドル級王者に就いた際、彼らが繰り広げた5ラウンドの接戦について、決して正しくはないもののしばしば言われる“ベルトを勝ち取るには真の意味でチャンピオンを倒さなければならない”との考え方に基づき、多くの議論が巻き起こっていた。そんな中、トプリアは自信を持ってアナハイムに足を踏み入れ、どちらが上なのかを疑問の余地がないほどはっきりと示してみせた。

2人が対決するまで、フェザー級でボルカノフスキーを倒すことができた者はいなかった。だが、トプリアはそれを2ラウンドでやってのけ、右フックでボルカノフスキーをフェンス際に沈めている。このあと紹介する名バトルがなければ、ノックアウト・オブ・ザ・マンスに選ばれていてもおかしくない一撃だった。

とてつもない才能を持つ無敗の27歳が、自分の言葉通りに、階級でトップの位置に上りつめた。トプリアは今や、今後のUFCにおける礎になる可能性を秘めた存在になっている。

試合前にはスペインのスポーツ界のスターたちがトプリアの武運を祈り、勝利が決まった後にはトプリアがスペイン最大のスポーツ紙である『MARCA(マルカ)』の1面を飾った。レアル・マドリードの試合前にはエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウにも登場している。この競技の人気がスペインで広がり、トプリアがオクタゴンで力を発揮し続ける限り、新王者への注目度は高まり続けるだろう。

(1人を除いて)チャンピオンが長くとどまる傾向のある階級において、王者交代が起こった。これからの年月でトプリアがそれに匹敵するレガシーを築けるかは、興味深いところだ。

特別賞:アンソニー・ヘルナンデス、ダニエル・ゼルフーバー、マヌエル・トーレス

サブミッション・オブ・ザ・マンス:ヤイール・ロドリゲスに1本勝ちしたブライアン・オルテガ(UFCファイトナイト・メキシコシティ)
テクニックと実践の部分で、メキシコシティの週末にオルテガが第3ラウンドでロドリゲスに決めたアームトライアングルは、この上なく素晴らしかった。しかし、すべてがどう始まったかを踏まえれば、オルテガが最後まで戦いの場に残リ続けたという事実そのものが、このファイターをサブミッション・オブ・ザ・マンスの栄誉へと導いた部分もある。

複数の手術を経て18カ月ぶりに戻ってきたオルテガは、自らを紹介するアナウンスを聞きながら、足首を回していた。さらにストレッチを続けてジャンプで脱力しようとしたオルテガだが、着地したときに右足首が曲がっており、それはあたかも不吉な予兆であるかのようだった。実際、オルテガに追い風が吹いていないことは、戦いが始まってすぐに分かっている。ロドリゲスがオルテガをカンバスに崩し、クリーンショットを皮切りに集中砲火を浴びせいく。セミメインイベントは、早々と終わろうとしているかのうように見えた。

だが、オルテガはそれをしのぐ。フィニッシュを防いだオルテガは、ラウンドが終わる前に態勢を立て直し、第2ラウンドには完全に流れをつかんで、トップポジションから支配しようとするロドリゲスの意思をくじいている。第3ラウンドに入ると、2度のタイトルチャレンジャーであるオルテガは完全に集中し、オクタゴンをひたすら前進して自らのミッションを完遂した。

オルテガは素早くロドリゲスをカンバスに倒し、トップポジションを取る。その後はじっくりとチョークの形を整え、元暫定王者のロドリゲスの腕と肩の後ろに体を隠した状態で、ホールドを強めていった。ロドリゲスがタップアウトし、オルテガが勝利街道に戻っている。

オルテガを実に面白いファイターにしている要素は何なのか、そして、なぜオルテガがフェザー級において危険な存在なのかが、このパフォーマンスに象徴されていた。オルテガはグラウンドでの優れたフィニッシュ能力を発揮したのみならず、苦境から立て直す力と気概を示し、一方的に追い込まれた第1ラウンドからひたすらはい上がって反撃に転じ、第3ラウンドに入って1分足らずでフィニッシュを決めている。

特別賞:モリー・マッキャン vs. ディアナ・ベルビタ、ホドルフォ・ヴィエラ vs. アルメン・ペトロシアン、アンソニー・ヘルナンデス vs. ロマン・コピロフ

ノックアウト・オブ・ザ・マンス:ムスリム・サリコフをテクニカルノックアウトしたランディ・ブラウン(UFCファイトナイト・ラスベガス85)
トプリアがボルカノフスキーを相手に決めたノックアウトは、凶暴だった。クリーンな右フックがあごをえぐり、ボルカノフスキーから光を奪っている。だが、2月のノックアウト・オブ・ザ・マンスに選ばれたのは、ハイライトが公開されるや否や、人々が一斉にネット上で共有し始めたフィニッシュだった。

第1ラウンドの半ば、ブラウンはサリコフに、2回のロングジャブに右ストレートが続く、見事なワンツーを決める。それぞれのパンチの後にわずかに左に回り込み、最後に放った右はまっすぐにベテランウェルター級ファイターのあごを捉えた。これを受け、サリコフはカンバス上に崩れ落ちている。

クレイジーでワイルドなノックアウトは、あらゆる人をとりこにする。しかし、このクリーンでキレが良いノックアウトには、何かそれ以上の魅力があった。

相手より長いリーチをフルに生かし、ブラウンはスペースをうまくとって、サリコフを自分のパンチとキックが届くギリギリのところに抑えていた。やがてチャンスがやってきたとき、ブラウンはきわめて基本に忠実なコンビネーションを鮮烈なフィニッシュへと昇華させる。UFCキャリアで最高と言ってもいいこのパフォーマンスによって、ブラウンは2連勝を挙げた。

特別賞:カルロス・プラチス vs. トレヴィン・ジャイルズ、ダン・イゲ vs. アンドレ・フィリ、ジャン・ミンヤン vs. ブレンドソン・ヒベイロ、イリア・トプリア vs. アレキサンダー・ボルカノフスキー

ファイト・オブ・ザ・マンス:ロバート・ウィテカー vs. パウロ・コスタ(UFC 298)
アナハイムを舞台としたUFC 298でついにオクタゴンに並び立つまでにも、何度か対戦が組まれたことのあるウィテカーとコスタ。なぜこの対戦がUFCで最も熱望された試合の一つなのかという問いに対する答えを、2人はバトルが始まってすぐに示している。

激しいぶつかり合いや、クラシックな乱闘の方が好みだという人々もいるだろう。しかし、スタイルとダイナミクスの衝突に戦いの一つの面白さがあり、この試合はまさにそういったタイプのバトルだった。ウィテカーは持ち味であるテクニカルなストライキングを展開し、押しては引きを繰り返しながら、コスタより速いペースで打撃を繰り出している。一方のコスタはパワーショットによって相手に明確なインパクトを与えていたものの、数では劣っている形だ。

両者ともコーナーからの立ち上がりは鋭く、相手にプレッシャーをかけていく。ウィテカーが距離を取り、優れたコンディショニングによってコンビネーションと中断を繰り返しながら、クリーンショットを放っていった。対するコスタは単一の攻撃しか出せないものの、当たったときには強力なヒットとなり、その衝撃は15分間を通して緊張感を生み出している。

今月のたった1つの特別賞に挙げられた試合で見られたような、大きな変化はなかった試合だ。しかし、この階級における2人の屈強なファイターによる接戦であり、最後まで見届けるだけの、そして、2月のファイト・オブ・ザ・マンスに選ばれるだけの価値のある熱戦だった。

特別賞:ドリカス・デュ・プレシ vs. ショーン・ストリックランド
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