UFC月間レポート:2024年3月

UFC PPV UFCファイトナイト 対戦カード
UFC 299:ジャック・デラ・マダレナ vs. ギルバート・バーンズ【アメリカ・フロリダ州マイアミ/2024年3月9日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 299:ジャック・デラ・マダレナ vs. ギルバート・バーンズ【アメリカ・フロリダ州マイアミ/2024年3月9日(Photo by Chris Unger/Zuffa LLC via Getty Images)】
こう言ってしまうのは少し早すぎるかもしれないが、後から振り返ってみた時、あれが一つのマイルストーンだったというような、少し特別なことが3月には起こった。

まず、ノックアウト・オブ・ザ・イヤーの賞レースは、現時点では2番手争いになったと言えるかもしれない。これを超えるのは困難だと思わせるようなノックアウトを3月に決めたのは、オーストラリアからやってきた謙虚で、受けるべき称賛をまだ身に受けていなかった、傑出したファイターだった。彼が起こした一つの動きは、そのまま波紋を広げ、やがてプロフェッショナルとしてのキャリアを様変わりさせる可能性を秘めている。それだけにとどまらず、数多くのハイレベルなパフォーマンスや記憶に残るフィニッシュが見られ、5週間を通じて好ファイトが見られている。

今年が折り返し地点に到達したとき、もしくは、1年の終わりに至ったとき、この年で最もエキサイティングだった月に“ベスト・マンス・オブ・ザ・イヤー”が授けられるわけではない。しかし、仮にそんな賞があるとしたら、3月はまさにその最有力候補に入るだろう。

3月にオクタゴンで起こった中で、ベストの数えられる試合や選手を振り返ろう。

ブレイクアウト・パフォーマンス:スティーブ・エルセグ(UFCファイトナイト・ラスベガス87)

スティーブ・エルセグはUFCで素晴らしいルーキーイヤーを送った。特に、初登場が6月になってからで、しかもそれがショートノーティスで受けたバンクーバーで、トップ15に入っているファイターであるダビッド・ドボジャークを退けた試合だったことを踏まえれば、なおのことそう言えるだろう。エルセグは11月に行われたUFC 295でも同じような活躍を続け、アレッサンドロ・コスタを倒して、戦績を11勝1敗とすると同時に、連勝を2桁に載せている。しかし、そんなエルセグが広く注目されるようになったのは、2024年3月になってからのことだった。

3月の初めにUFC APEXで実施されたイベントの、メインカードの最初に行われる試合で、トップ10内のファイターであるマット・シュネルと対峙したエルセグは、第2ラウンド開始からほんの数秒で、ポケットからの応酬を繰り広げる中、ルイジアナからやってきたベテランの顎に左フックを叩き込んだのだ。

この一撃を受けてシュネルはすぐに崩れており、エルセグがそれ以上の手出しをする必要はもはやなかった。戦いが終わったことは、明白だった。

この試合はパフォーマンスだけではなく、タイミングの面でも“アストロボーイ”にとってこれ以上なく優れていた。試合後ほどなくして、5月にリオデジャネイロで実施されるUFC 301で、エルセグがフライ級タイトルを懸けてメインイベントでアレクサンドル・パントーハと戦うことが発表されている。

このスポーツを丹念に追っているファンたちは、エルセグが昨年にUFCにやってきた時点からエキサイトしている。ロースターに加わってからの最初の7カ月で、その興奮は正しかったことが証明されていたものの、シュネルとの戦は、誰もがエルセグに目を向けるきっかけになった。今やフライ級にいる誰もが、オーストラリア・パースからやってきたこのファイターが、非常に危険な存在であることを知っている。

UFCにやってきてから1周年の頃には、エルセグはフライ級王者になっているかもしれない。

特別賞:ヴィニシウス・オリベイラ、クリスチャン・リロイ・ダンカン、ルドビト・クライン、ペイトン・タルボット、ユーセフ・ザラル、ホアキン・バックリー、カイル・ネルソン

サブミッション・オブ・ザ・マンス:ルイス・パフエロに1本勝ちしたフェルナンド・パディーヤ(UFCファイトナイト・ラスベガス89)

フェルナンド・パディーヤの体格とリーチは、フェザー級において常に魅力的な要素だった。それがいかんなく発揮されたのが、この試合だ。

試合開始早々から、パディーヤはこれらの武器を活用。ボディへのキックやローキック、射程の長いジャブでルイス・パフエロとの距離を保つ。ペルーからやってきたニューカマーのパフエロが、中に飛び込んで攻撃を決めるのは難しい状況だった。仮にインサイドに入れたとしても、パディーヤがその距離でも効率の良い攻撃を繰り出してくるのだ。パディーヤは左ストレートでパフエロをフェンス際に追い詰めていった。

パフエロが体勢を立て直して反撃に出ようとしたとき、パディーヤの長い腕が再びものを言う。

打撃を浴びせながらもカンバス上でのフィニッシュには至らなかった後、パディーヤは相手が立つのに合わせて腕をパフエロの首にかけ、すぐさま深くてタイトなダースチョークに入り、デビューしたてのファイターをタップせざるを得ない状況に追い込んだ。

まだ27歳のパディーヤは、フェザー級における動向を追いかけるべきファイターであり、その体格は多くの相手に苦戦を強いるだろう。コンテンダーになるべき素材はそろっている。後はこれから2、3年の間に、本人がどれだけ励むか、そして、どんな試合をしていくか次第だ。

特別賞:ミシェル・ペレイラ vs. ミハル・オレクシェイチュク、マルチン・ティブラ vs. タイ・トゥイバサ、メイシー・チアソン vs. パニー・キアンザド、マイク・デイビス vs. ナタン・レビー、ジャケリン・アモリム vs. コーリー・マッケンナ、ユーセフ・ザラルvs. ビリー・クアランティーロ、 ジュリアン・エローサ vs. リカルド・ラモス

ノックアウト・オブ・ザ・マンス:ベルナルド・ソパイをノックアウトしたヴィニシウス・オリベイラ(UFCファイトナイト・ラスベガス87)

それが当たった瞬間、ヴィニシウス・オリベイラがノックアウト・オブ・ザ・イヤーのレースにおける現時点での筆頭候補になったのは明らかだった。オリベイラをその座から引きずり下ろすには異世界的な何かが必要だろう。

第3ラウンドが始まったときには、デイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズ出身のオリベイラが完全に勢いに乗っていた。オリベイラはそれで満足することなく攻撃を繰り出し続け、勝利を宣言しようとする。ラウンドが進み、エネルギーがすり減り続ける中、ソパイは重たいローキックと左の猛打を受けて、フェンスの方へよろめきつつ下がっていく。その瞬間、それが起こった。

突進したオリベイラがひらりと舞い上がり、これ以上ないくらいクイーンなフライングスイッチニーをたたき込んだのだ。

顎に膝を食らったソパイは、山なりに崩れ落ちた。

UFCデビュー戦からMMAの観客たちに自分の存在を刻み込むという、常識外れな1戦だった。

特別賞:スティーブ・エルセグ vs. マット・シュネル、ダスティン・ポワリエ vs. ブノワ・サン・デニ、ジャック・デラ・マダレナ vs. ギルバート・バーンズ、エドメン・シャバージアン vs. A.J.ドブソン

ファイト・オブ・ザ・マンス:ジャック・デラ・マダレナ vs. ギルバート・バーンズ(UFC 299)

この一連のシリーズにおいて、ファイト・オブ・ザ・マンスを選ぶに当たり、その対象が新人や中堅の選手によるお決まりの乱闘よりも、テクニカルな攻防が見られ、高いレベルの駆け引きが繰り広げられる試合に偏ってしまうことは認めざるを得ない。

誰にでも好みがある。今回も遠慮なく、デラ・マダレナと“ドゥリーニョ”ことバーンズの試合を選ぶことにした。

この試合のあらゆる部分が最高だった。ウェルター級ランキング上位のファイター同士による足の攻防戦から、グラウンドファイトになるたびに繰り広げられたエンターテインメント性の高いスクランブルまで。フルラウンドまでいけば、押しも押されもせぬファイト・オブ・ザ・マンス候補になっていただろう。しかし、試合がどんな結末を迎えたかに加え、後から分かったことながらも、オーストラリア出身のデラ・マダレナが勝利するためにはフィニッシュが必要だったこと、試合中のある時点で腕を骨折していたことを思えば、この試合を選ばずにはいられなかった。

この試合に詰め込まれたすべてが、当初この対戦が発表された時にファンの期待が高まった理由と言えよう。デラ・マダレナはロースター入り2年目にして目覚ましい活躍を見せ、ここで元タイトル挑戦者と対戦するという試練に挑んだ一方、バーンズは新星を撃破することで再起のきっかけをつかむチャンスを迎えていた。

13分以上にわたるエリート選手による拮抗したぶつかり合いは見応え満点の激闘となり、両者とも持ち味を発揮し、一瞬たりとも目が離せない攻防が繰り広げられた。

そして、試合終了まで残り90秒ほどとなったところで、一気に決着をつけようとするバーンズに対してデラ・マダレナが完璧なタイミングでヒザ蹴りを放ち、テイクダウンからの3つのシークエンスでフィニッシュを決めた。

この試合は最初から最後まで激闘となり、快進撃を続けるデラ・マダレナは、そのパフォーマンスによってウェルター級戦線における真のコンテンダーとしての地位を確固たるものにした。

特別賞:ヴィニシウス・オリベイラ vs. ベルナルド・ソパイ、ピョートル・ヤン vs. ソン・ヤドン
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