UFCファイトナイト・シドニーが日本時間11月19日（日）に開催される。当初予定では、地元シドニー在住の人気者、マーク・ハントがメインイベントに登場する予定だったところ、ハントが地元メディアのインタビューで、慢性外傷性脳症を疑わせる症状が出始めていることを明かしたことを受けて、UFCではハントの欠場させることを決定した。ハントは今後、精密検査を受診し、その結果に問題がなければ試合に復帰することになる。
代役としてメインイベントに登場するのはベテランのファブリシオ・ヴェウドゥム（ブラジル）だ。ヴェウドゥムはもともとUFC 216（2017年10月）で、ヘビー級赤丸急上昇のデリック・ルイスと対戦予定だったが、ルイスが腰の負傷で試合直前に欠場、代わってアンダーカードから抜擢（ばってき）されたウォルト・ハリスと戦った。しかし、ヴェウドゥムは、この相手では物足りないとばかりに、第1ラウンドわずか65秒、アームバーで完勝。ノーダメージ勝利の勢いを駆って、ベテランが2カ月連続の試合にスクランブル発進する。
40歳ヴェウドゥム「あと4、5年は戦う」
ヴェウドゥムはまぎれもなく、GOAT（Greatest of All Time、史上最強選手）クラスのヘビー級ファイターの1人である。2015年にハントを退けてUFCヘビー級暫定タイトルを獲得、同年、当時の正王者ケイン・ヴェラスケスを下してUFCヘビー級タイトルを統一したことは記憶に新しい。この他、Strikeforce時代には当時27連勝中だったエミリャーエンコ・ヒョードルにまさかの大金星、PRIDEでアリスター・オーフレイムを打ち負かしたこともある。アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、トラビス・ブラウン、ロイ・ネルソン、アントニオ・シウバら、そうそうたるトップファイターも、ヴェウドゥムの餌食になっている。
ヴェウドゥムはまた、MMAファイターとして世界を股（また）にかけて試合に出場（米国10試合、ブラジル5試合、イギリス5試合、日本6試合）、ラテンアメリカではUFC中継の解説を通じて、MMAのアンバサダーとしても活躍した国際派だ。さらにサブミッション・グラップリングのトーナメントで合計19個のメダルを獲得した世界有数のブラジリアン柔術家でもある。
そんなヴェウドゥムももう40歳になった。自分のキャリアの今とこれからについて、次のように語っている。
「年齢は関係ない。気持ちが大事なんだ。身体も悪くない。ケガはあるが、それは誰しもそうだろうし、幸い骨折などの大ケガはないんだ。だからあと4、5年は戦えると思っている。引退のようなネガティブな話はしたくない。引退しておいて1年や2年で復帰してくるような人にもなりたくない。当面は年に3試合か4試合戦いたいと思っている。目標はベルトだけど、自分にとってはできるだけ多く戦うことも大切なんだ」
「毎日練習している。自分に言わせれば、いい練習さえできていれば、試合はただの普通の1日にすぎない。それでも、オクタゴンに上がって歓声を耳にすれば、ますますモチベーションが高まる。たまにはブーイングも食らうが、それもモチベーションにつながる。力をもらえるんだ」
棚ぼたのチャンスに腕を伏すティブラ
シドニーのメインイベントでヴェウドゥムと対峙（たいじ）するのは、31歳のマルチン・ティブラ（ポーランド）だ。前回はUFCファイトナイト・シンガポール（2017年6月）でアンドレイ・アルロフスキーを塩漬けにして判定勝ちし、現在3連勝中。最近、アルバカーキーのジャクソン・ウィンクルジョン・アカデミーに入門し、さらなる進化を遂げている。
試合の6週間前に対戦相手変更の連絡を受けたというティブラは、モチベーションがいっそう高まったと語る。
「ランキング2位の選手と戦えるなんて、本当にすごいことだ。ファブリシオは世界でもトップのヘビー級ファイターに違いない。何せ、全盛期のヒョードル、無敵時代のヴェラスケスにも勝っているんだからね。何か特別なものをもっている選手だ。自分はこういうトップファイターと戦うためにUFCに来たんだよ」
フレッシュな選手の台頭が待たれるヘビー級戦線で、格上ヴェウドゥムを倒すことの意味を、ティブラはよく理解している。
「僕はふだんは試合後のことは話さないようにしている。あくまで目の前の仕事に集中したいからだ。でも、ファブリシオはほんの数カ月前までチャンピオンだった人。そんな人に勝てば、当然タイトル挑戦の資格が生じるだろう」
オージー女傑の果たし合い
セミメインイベントではブリスベン出身のベック・ローリングスと、シドニー出身のジェシカ・ローズ・クラークによるオージー女子対決が、新設の女子フライ級（125パウンド／約56.7 kg）戦として行われる。女子ストロー級でペイジ・ヴァンザントらに連敗中のローリングスだが、今回からはより適正な階級のフライ級で連敗阻止に向けて体重の乗ったパンチを繰り出す。ニックネームはロンダ・ラウジーと同じ“ラウディ（荒くれ者）”だ。髪をカラフルに染め、身体にはタトゥーがぎっしり、おしゃべりも達者なエンターテナーであるローリングスは、2児の母親でもある。
他方のクラークはシドニー出身の29歳でMMA戦績は7勝4敗を誇る。自らのファイトスタイルを“典型的なオージー流喧嘩（けんか）屋”だと評するクラークは、もともと出場予定だったジョアン・コルダーウッドの代役として、女子格闘技団体Invicta FCから急きょ参戦してUFCデビューを飾る。共に負けられない地元での戦いであり、さらにこの試合で勝てば、現在米国で放映中のジ・アルティメット・ファイター（TUF）シーズン26で決定される初代女子フライ級女王への挑戦に大きく近づくことにもなる。
この他、ベラル・ムハマッド（米国）、粕谷優介と廣田瑞人に連勝している日本人キラーのアレックス・ボルカノフスキー（オーストラリア）、セクシーショットが『ハーレクイン・ロマンス』シリーズの表紙に使われたことがあるという2枚目、エリアス・セオドル（カナダ）など、個性派も名を連ねるUFCファイトナイト・シドニーをどうぞお楽しみに。
【文 高橋テツヤ】
UFCファイトナイト・シドニー見どころ：円熟ファブリシオ・ヴェウドゥム、2カ月連続の出陣
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