UFC 229見どころ:コナー・マクレガー復帰戦! 遺恨清算か、新たな戦いの始まりか!

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UFC 229:ニューヨーク記者会見
UFC 229:ニューヨーク記者会見
コナー・マクレガー(アイルランド)は今年4月、20人ほどの取り巻きを引き連れてニューヨークに飛んだ。その数日前、ハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)が、マクレガーのチームメイトであるアーテム・ロボフとの間に一悶着(もんちゃく)を起こしていた。腕力が使われることはなかったが、ホテルのロビーで激しい言葉のやりとりがあったとされる。

UFCのメディアイベント会場のバックステージに忍び込むことに成功したマクレガー一行は、その2日後のUFC 223のメインイベントに出場することになっていたヌルマゴメドフに報復すべく、実力行使に出た。会場からホテルに戻る選手用のバスにヌルマゴメドフが乗車したことを確認したマクレガーは、奇声を発しながらバスに向かって鉄製の台車を投げつけたのだ。



その一部始終は映像に記録されている。何が起きるかが分かっていても、見るたびに驚いてしまうような映像だ。バスの中では割れたガラスが飛び散っている。2人のファイターに破片が当たり、流血している。そんな中、ヌルマゴメドフは「それで全部か?」とでもいうように、ストイックな表情で静かに座っている。

UFC会長のデイナ・ホワイトはこの事件の直後にビデオでコメントを発表、身体を震わせながら、マクレガーの狼藉(ろうぜき)を「UFC史上最も胸が悪くなる出来事」だと吐き捨てたのだった。

スーパースターの台頭と凋落(ちょうらく)

マクレガーはUFC 194(2015年12月)で当時、絶対王者と言われていたレジェンドのジョゼ・アルドをノックアウトし、UFCタイトルマッチ史上最短のわずか13秒でUFCフェザー級チャンピオンに輝いた。UFC 205(2016年11月)では今度はエディ・アルバレスをノックアウト、UFCライト級ベルトも獲得してUFC初の2階級同時制覇を達成している。さらに2017年8月には戦いの舞台をボクシングに移して、5階級世界王者フロイド・メイウェザーとのドリームマッチを実現させた。この試合でのマクレガーのファイトマネーは1億ドル(約114億円)を超えたとも報じられている。マクレガーはUFC最大のスーパースターから、世界の格闘技界のスーパースターへと、生き急ぐかのように駆け上がったのだ。

しかし、この試合以降、マクレガーについてはよくないニュースや噂(うわさ)が報じられるようになっていく。業界事情に詳しい米MMAメディアの記者は、当時のマクレガーの状況を次のように語っていた。

「これまでわれわれ記者も、コナーのことを天才だと持ち上げ、殿上人としてのマクレガー“ミスティック・マック”のイメージ作りに一役を買い過ぎてしまっていたのかもしれない。メイウェザー戦が大成功に終わった今、コナーはスポーツ界で最もありふれた終えんを迎えようとしている。どうやら彼は自制心を失い、ファンの前からフェードアウトしようとしているように見える」

「若くしてこれほどまでの名声と大金を手に入れ、多くの人にとっての食いぶちになってしまうと、コナーに向かって“あなたには問題がある”とビシッと言える人はもういないのかもしれない」

「ジョン・ジョーンズの場合、実は一般に知られているよりもうんとひどい状況だったのだが、コナーはその5倍はひどい。悪人だと決めつけるわけではないが、道を踏み外している。どれほど道を踏み外しているのか、みなさんは想像も付かないことと思う。このままの状態が続くなら、彼には破滅的な結末が待っている」

UFC会長のホワイトまでもが、一時は次のようにコメントしていたのだ。

「コナーはもう試合をしないかもしれない。ヤツはもう何億ドルも持っている。これ以上試合で顔を殴られたいと思うはずもない。カネで変わってしまう人はたくさんいるんだ。コナーは若くてリッチで、アイルランドでは神のような存在だ。これは健全な環境とはいえない。とにかく、コナーが戻ってくるかどうか分からないので、私はコナーはもう戻ってこないものだと思って仕事を進めていこうと思っている」

電撃復帰! ハングリーさは戻っているのか

バス襲撃事件で起訴されていたマクレガーであったが、結局、軽犯罪にあたる治安紊乱(びんらん)行為だけで有罪となり、5日間の社会奉仕活動および被害者への賠償金支払いが命じられて事件は終了した。懲役も執行猶予も罰金も科せられず、前科も付かなかった。そしてその判決から1週間後、現地時間8月3日に行われたUFC25周年記念記者会見で、マクレガー対ヌルマゴメドフが、日本時間10月6日(日)開催予定のUFC 229のメインイベントで実現することがサプライズ発表されたのだった。

流血の惨劇はもう起きてしまったのだ。もはや後戻りはできない。これは格闘技史上、最大の決闘だ。バス襲撃現場の衝撃映像、手錠をかけられるマクレガーの姿、軍団抗争、スター性、期待の高さ、プロモーション。現実と感情が交錯し、さまざまな思いが押し寄せる。ヌルマゴメドフは26連勝中、過去に1ラウンドも落としたことがないであろう圧倒的な強さで、ロシア人とムスリム(イスラム教信者)ファンの期待を一身に背負う巨人だ。またこの試合は、典型的なストライカー(マクレガー)対グラップラー(ヌルマゴメドフ)のスタイル対決でもある。スタンド戦になるのか、グラウンド戦になるのか、誰しも興味津々だ。

そして、あまりの電撃復帰ということもあって、ローラーコースターのように波乱万丈だったマクレガーの実に99週ぶりのオクタゴン復帰にも、不安と期待が入り交じる。試合勘は鈍っていないのか、モチベーションは高まっているのか、ハングリーさは戻っているのか、冷静で明瞭な頭脳を保っていられるのか。マクレガー本人は、次のように語るばかりである。

「みなさんに謹んで申し上げる。クソ食らえ。オレは自分のためにやっている。オクタゴンで戦いたくてウズウズしている自分がいる、というだけのことなんだ」

【文 高橋テツヤ】
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