UFCファイトナイト・シンガポール見どころ:オリンピックレスラー対柔術世界王者、ファン垂ぜんのグラップリング対決

UFCファイトナイト 見どころ
UFCファイトナイト・ミネアポリス:公式計量セレモニーに登場したデミアン・マイア【アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス/2019年6月28日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・ミネアポリス:公式計量セレモニーに登場したデミアン・マイア【アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス/2019年6月28日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間10月26日(土)に開催されるUFCファイトナイト・シンガポールのメインイベントでは、デミアン・マイア(ブラジル)対ベン・アスクレン(アメリカ)が行われる。

レジェンド・マイア、キャリアの集大成へ

現在41歳のマイアは、これまでの次のようなレコードを打ち立ててきたレジェンド中のレジェンドだ。

・UFCでの試合数30はドナルド・セラーニ(33試合)、ジム・ミラー(32試合)に次いで歴代3位
・UFCでの勝利数21はセラーニ(23勝)に次いで歴代2位
・UFCでの一本勝ち数10は、チャールズ・オリベイラ(13回)に次ぎ、ホイス・グレイシーと並んで歴代2位
・UFCでリアネイキドチョークによる勝利数8は史上最多
・UFCオクタゴンでの合計試合時間6時間18分12秒は、フランキー・エドガー(6時間47分33秒)に次ぎ歴代2位

かつてUFC創世記にはブラジリアン柔術(BJJ)を知っているというだけで柔術家が連勝できた頃もあったが、そんな時代が遠く過ぎ去った今でも、マイアはほぼBJJだけで勝ち星を積み重ねてきている希有(けう)な存在だ。マイアと戦う選手は、マイアが何をしてくるのかは事前に完全に分かっている。それなのにマイアは最大限の警戒網をいとも簡単にかいくぐり、あっという間にバックを取り、気がついた時にはもう、対戦相手の首に腕を巻き付けているのだ。

マイア自身も、「自分はBJJをMMAに応用した男として、人々の記憶に長く残りたいんだ」と、次のように語っている。

「たとえBJJの世界チャンピオンであろうと、MMAの中でBJJを正しく活用せず、平均的なことだけをやっていたのでは、平均的なMMAファイターにしかなることができない。ワールドクラスのBJJをワールドクラスのMMAに変換できる人はそんなに多くない。ジブはそれをここ7、8年、研究してきている」

マイアの過去5試合の戦績は2勝3敗だ。最近の2試合こそ、ライマン・グッド、アンソニー・ロッコ・マーチンをいとも簡単に下しているのだが、その前にはタイロン・ウッドリー、コルビー・コビントン、カマル・ウスマンというレスリングをバックグラウンドに持つチャンピオントリオに3連敗を喫している。

そしてマイアはこの3連敗中に、テイクダウンを合計49回試みて1度も成功していない。統計によると、1度でもテイクダウンに成功した試合ではマイアのUFCでの戦績は21勝2敗と圧倒的なのだが、テイクダウンに1度も成功しなかった試合は0勝7敗なのだ。つまりマイアの生命線はテイクダウンであり、本物のトップレスラーが相手だと苦労をすることがあるということなのだ。

そしてアスクレンはマイアが苦手なトップレスラーの1人なのである。ただアスクレンの場合、ウッドリーらのようにパワフルな打撃があるわけではないため、グラウンドを避けていたのでは自らも勝機を見いだせないというところが、勝負の綾(あや)となりそうだ。

この試合でUFCとの契約を満了するマイアは今後について、「現役は最長でも来年いっぱいまで。今後の契約をどうするのかは、次の試合がどうなるのかにかかっている。もし、いい勝ち方ができれば、あと2試合くらいは戦いたいと思うかもしれない」と語っている。

いよいよキャリアの集大成を図ろうとするマイアが、苦手なトップレスラーを相手に、ワールドクラスのBJJをワールドクラスのMMAに変換するための長年の研究成果を明らかにするのか。独自性あふれる戦いへの興味は尽きない。

アスクレン株、いぜん急騰中!

大学時代にはアマチュアレスリングで戦績153勝8敗(91フォール勝ち)、NCAAタイトルを2度獲得、NCAAオールアメリカンに4度選出、そして2008年北京五輪ではフリースタイル・レスリングでアメリカ五輪代表団入りしたエリート中のエリートレスラーであるアスクレン。

2009年にプロMMAの世界に転じると、あっという間に頭角を現し、行く先々の団体で長期にわたり王座を守り続けたアスクレンは、いつしかUFCファンにとっては「まだ見ぬ強豪」として、UFC参戦が嘱望される存在となっていった。ただしキャリア初期のアスクレンは、規格外のレスリング力でフルラウンドにわたって相手を塩漬けにするという単調な展開の試合が多く、スリルやサスペンスに欠けていたことも確かだった。アスクレンのそうしたファイトスタイルを嫌ったUFC会長のデイナ・ホワイトは当時、「睡眠薬が効かない時には、アスクレンの試合を見ると良い」、「アスクレンの試合を見るくらいなら、ハエの交尾を観察している方が楽しい」などと他団体所属選手だったアスクレンを罵倒、アスクレンのUFC入りはなかなか実現しなかったのである。

2017年11月にシンガポールで青木真也を57秒でノックアウトし、MMA戦績を18勝0敗としたところで、アスクレンはいったんMMAからの引退を決意。自らのレスリングアカデミーを開設し、新たな人生を歩み始めていた。そして2018年、元UFCフライ級絶対王者デメトリアス・ジョンソンとのトレードという前代未聞の方法で、34歳にして突然のUFC入りを果たす。

「トレードの話があった時にはすごく気持ちがかき立てられた。自分は9年間MMAで戦ってきたけれど、自分より格上の選手と戦ったことがなかったんだ。これからは格上の選手と戦い、自分の力でランキングを上がっていくことができる。そう思うとワクワクしたよ」

UFC参戦以来、全方位を敵に回すどこか陽気なトラッシュトーク、かつての天敵ホワイト会長との愛憎半ばするやりとりなどでアスクレン人気は急騰。試合の方も初戦はロビー・ローラーの嵐の猛攻をしのいでブルドッグチョークで一本勝ち、第2戦ではホルヘ・マスビダルの飛びヒザ蹴りで5秒KO負けと、これまでのアスクレンの試合とは打って変わって、スリルとサスペンスしかない試合を繰り広げている。

「自分はレスリングで何度も負けたことがある。1つの黒星など、大したことではないんだ。試合に戻って取り返せばいい。格闘技は気まぐれなものだ。自分はとにかく、まずマイア戦でいい試合をする。そうすればまたアスクレン株は再高騰することになるさ」

オリンピックレスラー対柔術世界王者という、一足早いクリスマスプレゼントのような夢のマッチアップを、土曜夜の見やすい時間にライブで楽しもう!

【文 高橋テツヤ】
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