ミドル級タイトルマッチベスト10:前編

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UFC 126:アンデウソン・シウバ vs. ビトー・ベウフォート【アメリカ・ネバダ州ラスベガス、2011年2月5日(Photo by Jed Jacobsohn/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 126:アンデウソン・シウバ vs. ビトー・ベウフォート【アメリカ・ネバダ州ラスベガス、2011年2月5日(Photo by Jed Jacobsohn/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間2月13日(日)、ヒューストンのトヨタ・センターで実施されるUFC 271のメインイベントで、イズラエル・アデサニヤが元王者のロバート・ウィテカーを相手にミドル級タイトル防衛戦に臨む。

昨年の初めに2階級チャンピオンになる試みが果たされずに終わったアデサニヤ。3度目のタイトル防衛を成功させるべく、ロバート・ウィテカーを倒して以来君臨してきたミドル級のフィールドに戻ったアデサニヤは、“ジ・イタリアン・ドリーム”マービン・ヴェットーリを退けている。その間にもミドル級元王者のウィテカーはトップコンテンダーとしての位置を強化しており、4月にケルヴィン・ガステラムに勝利して3連勝をマークした。

2人による期待高まる一戦が近づきつつある今、UFCの歴史に残るミドル級タイトルマッチの名試合を振り返ってみるのもおもしろいだろう。

ミドル級タイトルマッチベスト10、まずは前編をご紹介。

リッチ・フランクリン vs. ネイト・クオーリー(UFC 56)

誰でもいい、この一戦について聞いてみよう。それを目にした者――あるいは、ハイライトで見たことがある者――であれば誰もが、この試合がどう決着したかをすぐに思い出すはずだ。

フランクリンはこの5カ月前、UFC 53でエヴァン・タナーを第4ラウンドで仕留めてミドル級タイトルを獲得。一方、ジ・アルティメット・ファイター(TUF)の最初のシーズンに参加したパイオニア的なキャストメンバーだったクオーリーは、UFCデビューからの4戦中、最初の3試合を第1ラウンドで終わらせ、4連勝という波に乗っていた。

オクタゴンに上がったときに攻撃側にまわったのはチャンピオンだった。よりアクティブで、動きはなめらかであり、仕掛けるのはほとんどチャンピオンからだ。第1ラウンドの序盤はフランクリンが優勢。開始から約90秒でフランクリンが挑戦者に痛烈な一撃を加え、フェンスに向かって後退させると、早々に相手を舞台から引きずり下ろしにかかる。しかし、ここはクオーリーが嵐を乗り切った。

フランクリンはさらに攻撃を続け、数秒後にまた挑戦者の体勢を崩した。この時、レフェリーのジョン・マッカーシーが試合を止める寸前までいっている。クオーリーには成すすべもなく、フランクリンが思うままに攻撃できる体制だったため、王者からレフェリーにアクションを止めるか尋ねたのだ。マッカーシーが続行を告げると、“エース”はその通りにした。ただ守るしかないチャレンジャーに打撃を与えつづけたフランクリンに対し、クオーリーは何とか立ち上がって手を繰り出すも、これは簡単に交わされる。

クオーリーがアウトサイドから仕掛けたのを受け、フランクリンは前進して左ストレートを叩き込む。この一撃で動きを止めたクオーリーの体は硬直したままキャンバスに崩れ落ちた。

初のタイトル防衛に成功した試合として、実に見ごたえのある一戦だった。

リッチ・フランクリン vs. アンデウソン・シウバ(UFC 64)

2006年3月にデビッド・ロワゾーを相手に2度目のタイトル防衛を果たした(これもまた見事な一戦だった)フランクリンが、トップコンテンダーであるアンデウソン・シウバと拳を合わせた。シウバがUFCデビュー戦でクリス・リーベンを49秒で沈めてから、4カ月も経っていない時のことだ。確かに、アメリカのチャンピオンにとってブラジル出身のシウバは手ごわい相手だと見られていた。とは言え、2006年10月14日に2人が対峙したとき、誰がその後の展開を予想できただろうか?

バトルが始まった直後、2人はパンチやキックを出し合うものの、いずれも大きなダメージにはなり得ない。両者が間合いを図り、お互いの感触を探っている状態だった。

第1ラウンド開始から1分半ほどでシウバがタイクリンチの形からボディに膝を入れ、フランクリンがカウンターを打とうとするも、ホールドを維持して王者をフェンスへと引きずっていく。シウバはなおもクリンチを緩めず、フランクリンをケージの逆側へと追いつめてボディに膝をたたき込み、顎にも一撃を入れた。

フランクリンは傷つき、シウバの容赦ない攻撃は続く。もう一度タイクリンチの状態にすると、膝を連発。フランクリンの鼻からは血が流れ落ちた。最後には“ザ・スパイダー”の強烈な膝の一撃がフランクリンの頭部を襲い、タイトルマッチは幕を閉じている。

UFCに登場してから5カ月足らず。シウバはミドル級のタイトルを手にした。そして長い間、それを手放すことはなかった。

アンデウソン・シウバ vs. チェール・ソネン(UFC 117)

王座に就いて4年、シウバは支配者となり、ミドル級タイトル防衛を6度果たすばかりか、ライトヘビー級に出張してジェームス・アーヴィンや元王者フォレスト・グリフィンに驚きの勝利を収めていた。

一方のソネンは元タイトル挑戦者のネイサン・マーコートをユナニマスデシジョンで下し、トップコンテンダーとしての地位を確かなものにしたものの、ほとんどの人々からはありふれた存在だと認識されていた。だが、ソネンは発言によって注目を集め始めた。

プロレスの文化が浸透しているソネンは、シウバやチームメイト、シウバの母国ブラジルに対して挑戦的な発言をするように。すべてはチャンピオンによる一方的な試合になると見られていた試合に対する関心を高めるためだった。マイクパフォーマンスでファンを魅了するソネンは、繰り返しシウバを退位させると宣言している。

それが現実のものになるとは、誰も思っていなかった。だからこそ、ソネンが第1ラウンドを得意のレスリングによって優勢で終えたときには、誰もが驚いた。

そして、第2ラウンドでもソネンは同じことをやってみせた。スコアカードは2-0になり、さらに第3ラウンドが終わった時点では挑戦者が3つのラウンドのすべてで上回っている状態に。これでシウバはフィニッシュを決めない限りタイトルを失う状況に追い込まれた。第4ラウンドが終わったところで、それはほとんど既成事実のようになっていた。ソネンはレスリングの技術によって試合開始から4ラウンドをコントロールし、大番狂わせを完結させるのにあと5分というところまで来ている。

最終ラウンドの中盤、ソネンは再びトップポジションを取ってチャンピオンのガードの内側からパンチを浴びせていく。勝利まであと2分半となったところでは、シウバが右手首をつかんでいることを気にしていない様子だった。残り2分、さらにパンチを畳みかけるソネンに対し、シウバはガードを解くと、素早く三角締めへ移行。握っていたソネンの右手首を使って隙間を作り、左足をチャレンジャーの首の裏に回した。

シウバはホールドを強め、ソネンの左腕を引き延ばしてソネンにタップさせる。奇跡的な逆転劇は、かくして実現された。

ソネンは戦いを続行することで自分はタップしていないと示唆しようとしたものの、現実問題としてタップしていたのは明らかだった。敗れたソネンは最初こそ謙虚な姿勢を示していたものの、やがてチャンピオンとの再戦に向けて動きだし、2年後に再びシウバとの対戦機会を手にしている。ただし、その時も今も、2人の対戦の結果は変わっていない。

アンデウソン・シウバ vs. ビトー・ベウフォート(UFC 126)

この戦いによってシウバは母国ブラジルとMMA界全体の大スターとなった。

すでに史上最高という名声を得ている彼に、こういう言い方は不思議に思えるかもしれない。だが、長くUFCミドル級の王者として君臨し、ソネンを相手に起死回生の勝利を挙げてもなお、シウバのことを気まぐれな謎の人物と考える者は多かった。一方のベウフォートは、母国で大人気のスターだった。UFC初期に傑出したところを見せた元王者で、結婚相手は元有名モデルでスポーツキャスター。UFC 103でオクタゴンに復帰すると、元王者のリッチ・フランクリンを撃破して勝利した。

同じブラジル生まれの2人の間には緊張感が漂い、それは公式計量のフェイスオフでも続いた。シウバはダンスグループのジャバウォーキーズが着けているような白い仮面を取り出してかぶると、ベウフォートに顔を押しつけた。

試合開始直後はお互いに警戒しながら距離を取って回転を続け、どちらも早すぎるトリガーを引いたり、相手に攻撃のチャンスを与えたりすることを嫌っていた。

一発もパンチが出ないまま最初の1分が経過。29秒後、外からの低いレッグキックで最初の一撃を当てたのはベウフォートだった。直後にシウバも踏み込むようなしぐさを見せたが、ただのフェイントに終わり、ぐるぐると回りながら最初の2分間はベウフォートの射程外でうろうろするばかりだった。突進する場面もあったが、攻撃は加えず、ベウフォートがまたローキックで反撃する。観戦していたファンは落ち着きを失い初め、次第に挑戦者に声援を送り始めた。

残り2分となったあたりでシウバはややアクティブにはなったものの、彼はタイトルマッチで3分間にわたってほとんど攻撃する様子を見せず、何のダメージも与えていなかった。残り2分を切り、ようやく戦いの火ぶたが切られた。そして、それは起こった。

オクタゴンの中央に立ち、互いのパンチが届くか届かないかの距離にいたシウバがフロントキックでベウフォートの顎をとらえ、彼はめまいを起こした様子であおむけに倒れた。王者はその上にのしかかり、2発のパンチを追加してフィニッシュ。熱意に欠けるやりとりが、1発のキックで“今、何が・・・?”という驚きに変わった。

フォトグラファーのジェームス・ローは、シウバの足がベウフォートの顎に命中する瞬間をカメラに収めており、この画像は今もスポーツ史に残る名場面として残っている。

アンデウソン・シウバ vs. クリス・ワイドマン 1(UFC 162)

2013年の夏、タイトル防衛に10回成功したシウバはUFCで16勝0敗を誇っていた。前年の秋に彼はブラジルでステファン・ボナーを倒し、ライトヘビー級で3勝目、5戦連続のフィニッシュを決めた。

もはや誰にも止められそうになかった。

一方、無敗の新星として急きょUFC参戦を果たしたワイドマンは、最初の16カ月で5勝を挙げて戦績を9勝0敗に伸ばし、ミドル級のナンバーワンコンテンダーとしての地位を確立してシウバへの挑戦権を得た。

彼は王者の謎めいた無敵のオーラにもひるまず、ゲームプランを守り、自分の戦いをして、世界に衝撃を与えてみせると言い続けた。最初のラウンドが終わり、ワイドマンが本気なのは明らかだった。どこか無関心な様子のシウバを相手に、攻撃で上回ったのは彼だった。シウバは身ぶりで相手を挑発することに終始し、2人がぶつかり合うと観客は沸いた。

第2ラウンドの序盤、ワイドマンの左手がシウバをかすめ、王者はおどけたしぐさで、さも驚いたようなふりをしてみせた。ワイドマンは構わず攻撃を続け、やがて左パンチが命中、シウバはキャンバスに崩れ落ちた。倒れたところへパウンドを続けて試合はフィニッシュ。ワイドマンはUFCの歴史で最長の在位期間を維持していたシウバを王座から引きずり下ろし、世界に衝撃を与えるという約束をきっちり守ってみせた。

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