ミドル級タイトルマッチベスト10:後編

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UFC 243:ロバート・ウィテカー vs. イズラエル・アデサニヤ【オーストラリア・メルボルン/2019年10月6日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFC 243:ロバート・ウィテカー vs. イズラエル・アデサニヤ【オーストラリア・メルボルン/2019年10月6日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間2月13日(日)、ヒューストンのトヨタ・センターで実施されるUFC 271のメインイベントで、イズラエル・アデサニヤが元王者のロバート・ウィテカーを相手にミドル級タイトル防衛戦に臨む。

昨年の初めに2階級チャンピオンになる試みが果たされずに終わったアデサニヤ。3度目のタイトル防衛を成功させるべく、ロバート・ウィテカーを倒して以来君臨してきたミドル級のフィールドに戻ったアデサニヤは、“ジ・イタリアン・ドリーム”マービン・ヴェットーリを退けている。その間にもミドル級元王者のウィテカーはトップコンテンダーとしての位置を強化しており、4月にケルヴィン・ガステラムに勝利して3連勝をマークした。

2人による期待高まる一戦が近づきつつある今、UFCの歴史に残るミドル級タイトルマッチの名試合を振り返ってみるのもおもしろいだろう。

ミドル級タイトルマッチベスト10、後編に挙がるのはこの5試合だ。

クリス・ワイドマン vs. ルーク・ロックホールド(UFC 194)

UFC 168でのリマッチでワイドマンがシウバから2勝目を挙げてから1カ月、ロックホールドはコスタ・フィリッポウを第1ラウンドで倒して勝利街道に戻っており、コンペティティブで才能にあふれるミドル級の好漢たちがいずれ対決の日を迎えることは予感されていた。

そしてついに、2人はUFC 194で相まみえた。ワイドマンは13勝0敗、直近ではベウフォートの挑戦を退けているという状況。ロックホールドは4連続フィニッシュを決めた波に乗っていた。2人は共に遊び心を持って試合の準備を進め、まるで親友同士のように、ジョークを交わしながら自分の方がアスリートとして優れていると主張した。

グラップリング能力とクリンチを生かして順調なスタートを切ったのはワイドマンの方だった。しかし、第1ラウンドの終盤にロックホールドが状況をひっくり返し、チャンピオンと組み合う力があること、そしてスペースを取れば効果的な戦いができることを示している。第2ラウンドは開始直後からチャレンジャーがワイドマンにダメージを入れ、キックの距離でバトルを制御。王者は勝利をつかむべく、第3ラウンドの前半までに態勢を立て直した。

だが、そのラウンドの終わりにワイドマンがどういうわけか回し蹴りを放つ。いつものワイドマンなら、まずやらない行動だった。それが失敗に終わると、ロックホールドがその機を逃さず、ワイドマンをキャンバスに引き倒してその背に乗る。迅速にマウントを取ったロックホールドは60秒にわたってチャンピオンに全力で拳をたたきつけ、フィニッシュにはならなかったものの、王者をボロボロに痛めつけている。

第4ラウンドでワイドマンはオクタゴンに戻ってきたが、ロックホールドはそのワイドマンに早々に圧力をかけ、再び王者を攻撃しつつ、フェンス際でテイクダウン。チャレンジャーから食らった最初の打撃によってまたも流血したワイドマンは、もう立て直すことができなかった。マウントを取ったロックホールドがパウンドを浴びせてフィニッシュを決め、UFCミドル級のトップに上りつめている。

ルーク・ロックホールド vs. マイケル・ビスピン(UFC 199)

ロックホールドとワイドマンは2016年にロサンゼルスで再び対決する予定だった。しかし、試合の2週間前にワイドマンが辞退を強いられた。UFCがその代役に立てたのは、同じ年にシウバに対して記憶に残る勝利を収めたベテランのマイケル・ビスピンだ。

このデュオは以前にも顔を合わせており、その時にはロックホールドがイギリスの屈強なファイターをサブミットで退けている。当初のファイトカードに組まれていた2人が常にお互いをリスペクトし、友好的なライバル関係を結んでいたのに対し、カード変更によって戦うことになった2人は互いを嫌っていた。チャンピオンは挑戦者のチャンスを否定し、歴史は繰り返すと予言。対するビスピンはいつも通りのことをした。ことあるごとにロックホールドに向かって吠えたて、タイトルホルダーのゲームをかく乱しようとしたのだ。

うっすらと笑みを浮かべながらコーナーから進み出たのはロックホールドの方だった。無意味で必要のないイベントに、理由も分からないまま出されている人間が浮かべるような表情だ。ビスピンには自分と共にケージに入る筋合いはないと感じていたロックホールドは、まさにその通りの戦いをした。鋭いパンチとキックを繰り出す一方、相手の反撃の試みは、すべて意に介していないかのようだった。

第1ラウンドの前半まではチャンピオンがその場をコントロールしていた。だが、試合の流れはチャレンジャーにあった。やがてロックホールドが出さざるを得なくなったベストのパフォーマンスを受け、可能なときにはこれに反応している。圧と激しさを高めたように見えたロックホールドが、ふと両腕を下げて不用意に打ち合いから逃れた。ビスピンはその瞬間にロックホールドを捉え、左からの一撃で王者をマットに倒す。立ち上がったロックホールドを再びキャンバスに叩きつけたビスピンがさらに3発を浴びせたとき、新たな王者が誕生した。

チャンピオンシップに挑戦する機会がありながらも、最後のハードルを乗り越えることができずに数年を過ごしたビスピンが、考えられないようなやり方でついにそれを乗り越えた。ショートノーティスで。ロックホールドをノックアウトして。5分もかからずに。

ロバート・ウィテカー vs. ヨエル・ロメロ(UFC 213)

オクタゴンの中での最高のチャンピオンシップ戦と言えば? ウィテカーが自分のパフォーマンスとして挙げるなら、この試合だろう。

ロメロは他とは異なるタイプのアスリートだ。とんでもない筋肉と爆発的なパワー。レスリングフリースタイルのオリンピック銀メダリストであり、リョート・マチダやクリス・ワイドマンを倒して8勝0敗というパーフェクトレコードでUFCにやってきた。

ウィテカーは7連勝を決めており、過去6戦についてはウェルター級からミドル級に上がってきてからの試合だった。185ポンドの階級に移ることで、テクニカルなストライカーはスピートと戦術的なアプローチをさらに活用できるようになっている。こういった強みによって、ウィテカーはデレク・ブランソンおよびジャカレ・ソウザとの試合で、連続してフィニッシュを決めた。

ビスピンが11月のジョルジュ・サンピエールとの試合を待つ間、ウィテカーとロメロはUFC 213に組まれたミドル級暫定王座決定戦で対決。0-2で幕を開けた試合だが、ウィテカーがUFC史上最高の逆転劇の一つをまとめあげ、勝利を飾っている。

膝を負傷していたにもかかわらず、ウィテカーは第3ラウンドの最初からロメロに仕掛け、ミドルへのロングキックやシャープなボクシングで攻めていく。その動きは見事であり、ロメロが何度かレスリングに持ち込もうとしたときにうまくスプロールしている。ラウンドの最後にコーナーに戻ってきたとき、ロメロには疲労が見えていた。

第4ラウンドはグラップリングの応酬でウィテカーがロメロを受け流す状況から始まり、開始から90秒でコントロールを握っていたのはロメロだったが、本格的なダメージは入っていなかった。ラウンドの後半になるとウィテカーがうまくプッシュし、守りも堅く、ストライキングのやりとりでも優勢に。戦況は対等な状態に戻ったところで、勝負の行方は最終ラウンドに持ち込まれた。

よりアクティブで効果的な形で第5ラウンドをスタートしたロメロは、前半でウィテカーを痛めつけるものの、再びそれに合わせたウィテカーが攻勢になり、ロメロが前に出るたびに短くシャープなブローで狙い撃ちすると、最後はトップポジションから肘を食らわせている。

最初の2ラウンドは全面的にロメロ優勢だった。しかし、その後の展開の中でウィテカーが一歩先んじており、48対47でユナニマス判定勝ちを収めている。

イズラエル・アデサニヤ vs. ケルヴィン・ガステラム(UFC 236)

ロメロとの暫定王者決定戦を制ししてから6カ月足らず、スプリットデシジョンによる接戦になったUFC 255のリマッチをも制したウィテカーは、押しも押されもせぬチャンピオンになっていた。しかしながら、再度のタイトル防衛に成功する前に負傷によって戦線を離脱せざるを得ず、UFCは再び暫定王座決定戦を行うことになる。

ウィテカーが負傷する前に王座をかけて戦う予定だったガステラムの対戦相手になったのは、無敗の新星アデサニヤ。ナイジェリア出身でニュージーランドからやってきたアデサニヤは、後にウィテカーと“チャンピオン対チャンピオン”の激突を演じるファイターだ。

25分にわたってアデサニヤとガステラムは互いの全力で戦った。一切容赦のない戦いだった。どちらかが試合をコントロールすると、もう一方が取り返す。両者が闘志とタフネスを示し、これまでに見せたことのなかった力を解き放っている。

こう着状態で迎えたラスト5分、ガステラムが素早いスタートを切り、アデサニヤにコンビネーションで襲いかかる。しかし、これに反応したアデサニヤはガステラムにレスリングでの戦いを促し、三角締めを極める直前までいった。残り3分からアデサニヤが優勢を強め、クリーンなコンビネーションでガステラムを刺すと、同じことを2回繰り返している。

ガステラムが後退することを拒む中、数々のカウンターを繰り出すアデサニヤの攻撃はあまりにも正確であり、右からの見事な一撃によって残り1分強と残り30秒の段階でそれぞれノックダウンを奪う。最後のホーンが鳴るまで何とか耐え抜いたガステラムだったが、確実にダメージを受けており、疑いの余地のない判定が下った。

UFCデビューから14カ月で挑んだ暫定王座決定戦。アデサニヤは最終ラウンドのスコアカードを10-8として白星を挙げ、ウィテカーとの決戦を迎えることになった。

イズラエル・アデサニヤ vs. ロバート・ウィテカー(UFC 243)

ガステラムを下して17勝0敗となり、暫定王座に就いてから6カ月ほどが経ってから、アデサニヤは新たなバトルを制してミドル級チャンピオンの座を揺るぎないものとした。オクタゴン初登場から2年に満たない時点でのことだった。

ガステラムとの戦いは総力戦だったが、アデサニヤはウィテカーとの試合については2ラウンドもかかわらない傑作に仕立て上げている。

ウィテカーが序盤に数度攻撃するも、その姿は急いでいるように見え、これまでの忍耐強く、落ち着いて、テクニカルな姿勢とはどこか違っていた。アデサニヤはカウンターに徹し、できる限り多くの攻撃をかわしつつ、ウィテカーが自ら作る機に乗じて反撃に転じている。

第1ラウンドの大部分を互角で終えた後、ラウンドの終わりにアデサニヤが鋭い右の打撃を放つ。ウィテカーの体はキャンバスへと崩れた。このノックダウンでもとより大きかった元王者の自信はさらに高まり、ウィテカーを短くクリーンなショットで追い込んでいく。

アデサニヤはタイトなフックで再びウィテカーにダメージを入れ、頭部へのキックはブロックされたものの、ウィテカーのバランスを崩すのに成功。それを見てとったアデサニヤは前に出てコンビネーションでボディを攻撃し、相手の反撃は頭を逸らしてかわしている。

ウィテカーはさらに反撃を続け、2人はオクタゴンの中央で打ち合いに。しかし、両者が相手に当てて一つのシークエンスが終わったとき、アデサニヤがさらにもう一発のタイトな打撃をウィテカーに与え、挑戦者を背中からキャンバスにひっくり返した。レフェリーが素早くアデサニヤの追撃を止め、勝負の行方が決まっている。

こうしてアデサニヤは王座に上りつめ、現在までその場所を守ってきた。そして今、再びウィテカーと相まみえるUFC 271で在位期間をさらに伸ばそうとしている。
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