シンガポールのスイート16:中編

UFC
UFCファイトナイト・シンガポール:ドナルド・セラーニ vs. レオン・エドワーズ【シンガポール・シンガポール/2018年6月23日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・シンガポール:ドナルド・セラーニ vs. レオン・エドワーズ【シンガポール・シンガポール/2018年6月23日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間2022年6月12日(日)にオクタゴンが再びシンガポールに上陸し、UFC 275が実施される。輝くシンガポールの夜に、最高のバトルが期待できるはずだ。なぜなら、この場所では過去にも多くのスリリングな戦いが繰り広げられてきたのだから。

シンガポールのスイート16:前編”に続き、これまでにシンガポールで行われたUFCイベントの中から記憶に残る16の試合――スイート16――を振り返ってみよう。

(承前)
<2017年>
コルビー・コビントン vs. キム・ドンヒョン




コルビー・コビントンは自分がウェルター級で最も優れたグラップラーだと主張してきたが、それを公の見解とするにはまだ片付けるべき仕事があった。“カオス”ことコビントンはシンガポールでそのゴールに一歩近づいた。キム・ドンヒョンを相手に、それまでで最大の白星を挙げたのだ。

American Top Teamに所属する29歳のコビントンは3ラウンドマッチの大部分でキムに面ファスナーのように取りつき、次々にテイクダウンを試みた。韓国の“スタンガン”ことキムが空いている場所に逃れて両足を地につけようとしたときにも、決して相手を離そうとしない。キムがスペースを見つけるたび、コビントンが腰をねじ込んでそのスペースに立ちはだかり、キムの背中をカンバスに向かって押しつけた。

この夜の最もスリリングなバトルとは言えない試合ではあったものの、コビントンが画期的なパフォーマンスを見せたことには間違いない。元ジュニアカレッジチャンピオンにしてNACCオールアメリカンに選出されたファイターは、ランキング7位のキムを最初から最後まで圧倒し、30対25、30対26、30対27のスコアで4連勝を決めた。

佐々木憂流迦 vs. ジャスティン・スコギンズ



戦いが始まってから10秒、ジャスティン・スコギンズは佐々木憂流迦にパワフルなスープレックスを決めた。しかし、勝負は佐々木がスコギンズからタップを引き出し、逆転勝利を決めるまで終わらなかった。

第1ラウンドの早い段階でスピニングバックキックを佐々木のあばらにたたき込んだスコギンズ。さらには顔面へのスピニングホイールキックをカラーコメンテーターのダン・ハーディーが言うところの紙一重でかわした佐々木に対し、痛烈なワンツーを浴びせてダウンを奪った。

第2ラウンドも同じような形で幕を開ける。スコギンズは再びスピニングバックキックで佐々木をカンバスに倒した。肘の連打を乗り切った佐々木は間隙をついて体勢を入れ替え、オクタゴンの中央でスコギンズに対してマウントを取る。

スコギンズのバックに回った佐々木は腕を首元に差し込み、リアネイキドチョークへ。たまらずスコギンズがタップしたところで、佐々木が喜びを爆発させた。佐々木はこの結果によってオクタゴンで3勝3敗、キャリア全体で20勝4敗2分をマークしている。

<2018年>
シェーン・ヤング vs. ロランド・ディ




このファイトナイトに集まったファイターたちの中で、ディとヤング以上にヒートアップしていた組み合わせはないだろう。フェザー級の2人のファイターは計量のときからお互いに噛みついている。土曜日にケージが閉ざされたとき、この緊張感がついに堰を切り、オクタゴンの中は一気に激しいバトルの熱気に満たされた。

ショートノーティスで受けたアレキサンダー・ボルカノフスキーとのデビュー戦を落としたヤングは、十分なキャンプを経て迎えた初めての試合で印象を残そうとしていた。ニュージーランド出身のヤングはまさにそれを果たし、コンスタントにディの眼前にとどまって打撃を加える。第2ラウンドのラスト数秒で繰り出したエルボーによって、ディはその場に崩れ落ちた。

新たにフェザー級に加わったハードな筋金入りのファイターが、このパフォーマンスによって大ブレイクしている。

オヴィンス・サン・プルー vs. タイソン・ペドロ



このライトヘビー級の戦士たちには、様子見というものが存在しなかった。ヘッドキックの応酬からスタートしたサン・プルーとペドロのワイルドな戦いは、そこから3分以内で決することになる。

構えながら前にプレッシャーをかけたペドロはさらにもう一発のヘッドキックをサン・プルーに見舞い、ケージ沿いで繰り出した右からの強烈な一打が長年のコンテンダーからダウンを奪った。立とうとするサン・プルーに対し、ペドロはギロチンチョークをきめようと試みる。“OSP“はそこから頭を引き抜いたものの、オーストラリアからやってきた新進気鋭のファイターから逃れることはできない。

フェンス前でクリンチの形に入る中で、ペドロはテイクダウンを狙い続ける。しかし、よろめいた2人が倒れたときにマウントを取ったのはサン・プルーで、そこからこのベテランが自分の仕事に着手した。ペドロがガードを固めなおしてサン・プルーの攻撃を止めようと試みるものの、テネシー大学の卒業生であるサン・プルーは巧みに腕を回し、ストレートアームバーで一本勝ちを決めている。

35歳のサン・プルーはキャリアを通じてライトヘビー級のトップ15につけるほぼすべてのファイターと戦ってきた。前戦をサブミッションで落としたサン・プルーにとって、この試合は素晴らしい巻き返しとなっている。ペドロは再びポテンシャルの片りんを見せたものの、サン・プルーの経験と過小評価されてきたグラウンドゲームがものを言い、ベテランはライトヘビー級のトップ争いのふもとに再び戻っている。

ピョートル・ヤン vs. 石原“夜叉坊”暉仁



ファンファーレが山ほど鳴り響く中で登場したピョートル・ヤンは前評判通り、第1ラウンドの終盤にケージに沿ってクリーンでヘビーな一連のパンチを石原暉仁に浴びせ続けた。

初めから石原を追い回したバンタム級の新顔は、予想外のテイクダウンでキャンバスに倒されながらもすぐに勢いよく立ち上がり、いったんレンジが定まると、次々とパンチを命中させた。石原は最初に倒されたブローからどうにか回復したように見えたが、ヤンは彼に息つく暇を与えず、さらなるパワーで襲いかかり、数秒後には再びキャンバスに背を付けさせて試合を終わらせた。

プロモーションデビューで事前の評判を裏付けるのは大きな挑戦だが、ヤンは何の問題もなくそれをやってのけ、初めて打撃で石原を倒した男となった。そして、自身の連勝を4に伸ばすと同時に、バンタム級の階級内に衝撃をもたらした。

レオン・エドワーズ vs. ドナルド・セラーニ



しばらく前からレオン・エドワーズはドナルド・セラーニと一緒にオクタゴンに入る機会を求めていた。そのバウトがようやく決まると、ウェルター級のイギリス人ファイターはベテランの“カウボーイ”ことセラーニと世間の耳に届くように、彼はもはや“年寄りでスロー”だと公言し、ケージにとどまるほどの力を持っていないと触れ回った。

第1ラウンド序盤、それは事実であるかのように思えた。エドワーズはクリンチのニーですぐにセラーニの右目の上にカットを作る。エドワーズにとってはこれがキャリア最大の戦いであり、メインカードを務めるのも初めてだったにもかかわらず、一切緊張を見せることはなかった。彼はセラーニにテイクダウンを許さず、攻撃には必ずカウンターをお見舞いした。

第2ラウンドが終わる頃にはセラーニの顔と胸は血に覆われ、キャンバスのあちこちにも目の上の傷から流れ続ける血で赤いしみができていた。序盤はエドワーズ優位に進んだが、経験豊富なセラーニも次第に戦闘力を高めていき“ロッキー”にクリーンなショットを打ち込むと、続けて華麗なハイキックを決めている。

第3ラウンドが始まると、2人はいっそうの緊張感を持って向き合った。セラーニがプレッシャーをかけ、エドワーズは外からシャープなカウンターを繰り出していく。目の横からの流血が止まり、自信を高めたセラーニがペースを上げ、ボディへのコンビネーションで攻め始めたため、エドワーズはやむなくテイクダウンを試みるように。エドワーズも見せ場を何度か作ったが、ベテランのガンマンがリズムをつかんでいき、試合は第4ラウンドに突入した。

ここから徐々にペースは落ちていき、より戦術的なバトルへと変化していく。エドワーズがプレッシャーをかけつつセラーニにクリーンなカウンターを浴びせるようになる。だが、終盤になると元WECのスターが下から足を払い、エドワーズはキャンバスに。それでもその体勢を保つことはできず、立ち上がったときにはセラーニの顔が再び赤く染まっていた。目の上の傷がまた開いてしまったのだ。

最後の5分間の開始時に観客は2人に大歓声を送り、エドワーズとセラーニを最終ラウンドへと押し出した。

ラウンドは終始“カウボーイ”が前進し、“ロッキー”が外から応じつつ、クリーンなシングルショットでセラーニの前進を阻むという展開に。残りが90秒ほどとなったところでベテランが若手をキャンバスに倒す。だが、エドワーズは再び大きなダメージなく立ち上がった。

試合は残り15秒。彼らはUFC 199のマックス・ホロウェイとリカルド・ラマスのようにオクタゴンの中心を指し、ホーンが鳴るまでとことん戦い抜くことを誓い合う。25分間にわたって強打を出し続けた後、2人は抱擁を交わした。

どちらも判定勝利を確信していたが、集計の結果、エドワーズがキャリア最大の勝利を手にしたことが判明する。スコアは3人そろって48対47で、エドワーズは6連勝を飾った。

年老いてスローなガンマンと呼ばれたセラーニもまだ十分に戦えることを示したものの、このとき26歳だったエドワーズにとってこれは大きな瞬間だった。

5連勝中にアルバート・トゥメノフ、ビセンテ・ルーケ、ペーター・ゾボタに勝って静かにトップ15入りを果たすと、彼は初のメインカードという大役を十分に利用して試合前のスポットライトを浴び、戦いでは質の高さを見せつけた。

エドワーズが要求した機会にセラーニが応え、それを最大限に生かしたエドワーズは今まで自分に注意を払っていなかった人々に自己紹介すると、階級内を着実に上昇し続ける成長中の若手の1人としてしっかりと足場を固めたのだった。
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