ヨーロッパ大陸に歴史を刻んだ名戦10:後編

UFC
UFCファイトナイト・ロンドン:ダレン・ティル vs. ホルヘ・マスヴィダル【イギリス・ロンドン/2019年3月16日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・ロンドン:ダレン・ティル vs. ホルヘ・マスヴィダル【イギリス・ロンドン/2019年3月16日(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCのパリデビューが迫っている。ヨーロッパの大地ではこれまでにも多くの記憶に残るバトルが繰り広げられてきた。前編に続き、そのいくつかを紹介したい。

これらの試合のすべてが――たとえその中のいくつかが他よりも強い印象を残す試合だったしても――必ずしもアメリカから大西洋を超えた地で行われた中で最高のバトルだというわけではないが、ヨーロッパの前哨基地で起こった重要な瞬間であることは確かだ。なぜそれが重要なのかを説明していこう。

どうかじっくりとこれらの瞬間に思いを馳せてほしい。

【ヨアンナ・イェンドジェイチェク vs. ジェシカ・ペネ(UFCファイトナイト69)】
2ラウンドいっぱいまでかからずにカーラ・エスパルザを倒してから3カ月、イェンドジェイチェクはドイツ・ベルリンを訪れ、ジェシカ・ペネを相手に初の女子ストロー級タイトル防衛に臨んだ。ペネといえばジ・アルティメット・ファイター(TUF)シーズン20のブロンズメダリストだ。

イェンドジェイチェクがUFC 185でやってのけたほど圧倒的なスタイルでタイトルを勝ち取った選手には、次の一戦でそれがたまたまではないこと、もしくは、非常に有利な状況のおかげではなかったことを証明することが望まれる。ポーランド出身のタイトルホルダーが、エスパルザとの一戦は決して例外ではなく、平常運転だったことを証明するまでに、長くはかからなかった。

チャンピオンシップを勝ち取ったときよりも少し時間はかかったものの、イェンドジェイチェクは激しい連打でディビジョントップの位置を守っている。イェンドチェイチェクはテクニカルであると同時に凶暴でもあり、格下の相手にも決して手加減することはなかった。

エスパルザ戦での勝利がより広くMMA界へその名を知らしめるきっかけだとすれば、このときの勝利はチャンピオンとしてのお披露目パーティーのようなものだったと言えるだろう。

【マイケル・ビスピン vs. アンデウソン・シウバ(UFCファイトナイト84)】
当時、このマッチアップは2人のベテランミドル級ファイターによる好カードであり、毎年ロンドンを訪れているUFCイベントのメインイベントとしてはパーフェクトな対戦だと評価されていた。

シウバはクリス・ワイドマンに2度目の敗北を喫してから2年を経ており、この年初めての戦いに挑む形だった。一方のビスピンは最後のハードルを超えられない周縁的な存在でありながらも、2連勝を決めてトップ10の半ばにとどまっていた。

本格的な応酬になったのは第1ラウンドの終盤のことだった。まずはビスピンがブラジルのレジェンドの体勢を崩し、第2ラウンド残り1分でも再びシウバに膝をつかせた。第3ラウンドの終盤にシウバが押すようになり、ビスピンがレフェリーにマウスピースが外れたことを知らせようとした際、フライングニーを顎に叩き込んでラウンド終了のホーン直前にビスピンをノックダウンしている。

これで勝負が決まったと確信したシウバは喜びを示すものの、事態はそうは運ばなかった。議論が勃発(ぼっぱつ)して両者落ち着かないままにコーナーでの時間が過ぎ、戦いが再開されたときには流血したビスピンが決して譲らず、シウバはラウンド終盤にかけてプレッシャーをかけ続けるにとどまっている。

第5ラウンドに入っても勝負はどちらに転ぶか分からず、一つ一つの打撃ではシウバの方が大きなショットを繰り出す一方で、全体的にはビスピンが押している状況だった。スコアが読み上げられると、“ザ・カウント“ことビスピンがユナニマス判定で勝利をつかみ、雄叫びを上げている。

この時点で、この勝利はビスピンのキャリアにおいて最も大きな勝利であり、最高の瞬間でもあった。だが、ビスピンは4カ月後にショートノーティスでミドル級タイトル戦を制覇。長年のライバルであるルーク・ロックホールドを相手に、第1ラウンドで予想外のノックアウト勝利を決めたのだった。

【マイケル・ビスピン vs. ダン・ヘンダーソン(UFC 204)】
6月にタイトルを獲得したビスピンは、10月に母国の大地でタイトル防衛戦に臨むチャンスを得た。ビスピンはマンチェスターで、UFC 100の雪辱戦でもあるダン・ヘンダーソンとのバトルに挑んだ。

UFC 100での一戦――そして、特にその展開――は、常にビスピンを悩ませてきた。顎に一撃を喰らい、意識のないままカンバスに崩れ落ちたビスピンに、ヘンダーソンが追い打ちでエルボースマッシュを入れたのだ。さらに悪いことに、ヘンダーソンはマイケル・ジョーダンの“ジャンプマン”のロゴのごとく、そのときの姿をマークにした。それは新たなミドル級王者となったビスピンにとって、最悪の夜を思い起こさせる象徴だった。

1ラウンドと半分を過ぎたところで終わった最初の対戦とは異なり、2回目の対戦は長く続いたものの、ジャッジは必要ないと思わせる瞬間が何度かあった。接戦ではあったものの、チャンピオンがベルトを確保してリベンジを果たすとともに、支持者たちの前でタイトルを守ることに成功している。

これがビスピンのUFCでの最後の勝利になった。1年後、ジョルジュ・サン・ピエールに敗れたビスピンは、最終的にケルヴィン・ガステラムへの第1ラウンドノックアウト負けを経て引退している。2019年、ビスピンはUFCの殿堂に迎えられた。

【ポール・クレイグ vs. マゴメド・アンカラエフ(UFCファイトナイト127)】
ポール・クレイグはデリック・ルイスのサブミッションバージョンだ。どんなに厳しい状況に置かれようとも、どんなに強烈な一撃を受けていようとも、策に富んだスコッツマンがサブミッションを決めるには、一瞬の隙さえあればいい。

その神話がロンドンでさらに強まった。

現地14時50分から始まった15分のバトルの大部分で、アンカラエフが優勢だった。無敗のままデビューしたライトヘビー級ファイターであるアンカラエフは、さまざまなスキルをクレイグに対して披露。一方のクレイグは過去2試合をいずれも第1ラウンドのノックアウトで落としていた。第3ラウンド――そしてこの試合――の終了間近の合図が鳴ったときには、アンカラエフはクレイグのガードの中でダメージを与えるのに苦戦し、クレイグがリストコントロールを維持している状態だった。

パンチを繰り出すためにアンカラエフが少し身を反らした瞬間、クレイグは手首を引き寄せてトライアングルチョークを試みる。この技はすぐに固く決まり、アンカラエフがタップした次の瞬間にラウンド終了のホーンが響いた。

負け寸前の状況から白星をつかみ取ったクレイグ。4年後、クレイグはニキータ・クリロフとの試合で同じような勝利を挙げた。このときは4分弱にわたる攻撃にさらされてからのトライアングルチョークだった。

【ホルヘ・マスヴィダル vs. ダレン・ティル(UFCファイトナイト147)】
リバプール出身のティルにとって、イギリスに戻ってきたオクタゴンは勝利への復帰の舞台になるはずだった。ティルはその6カ月前にUFC 288でタイロン・ウッドリーとのウェルター級チャンピオンシップ戦を落としている。それはティルのキャリア初黒星であり、次の試合は好カードだと見られてはいたものの、ティルにとって勝利は易しいと予想されている試合でもあった。

序盤はその通りに進んでいた。ティルは最初に放った左腕でマスヴィダルを崩す。ベテランのマスヴィダルはスクランブルからうまく立て直したものの、打撃を入れるのはティルの方であり、ラウンドの半ば過ぎに再び左からの攻撃を当て、第1ラウンドを通じてマスヴィダルにプレッシャーをかけ続けた。

第2ラウンドで仕切り直したマスヴィダルはややアグレッシブさを強め、レスリングで攻めていく。しかし、ティルはこれにうまく対処し、よりアグレッシブな戦いを続行。ベテランに対し、自分の意思を押し通そうとしていた。だが、両者がオクタゴンの中央でリセットした後はマスヴィダルが突進し、右と左から立て続けに攻撃を繰り出して、後者がティルの顎を捉えると、ティルはそのままカンバスに崩れて落ちた。

3月のロンドンでメインイベントを張ったこの試合は、ティル復帰へのジャンプスタートとはならず、“Gamebred(ゲームブレッド)”と呼ばれるマスヴィダルの年の始まりとなった。マスヴィダルは次戦でベン・アスクレンに“3ピース(のチキン)とソーダ”と言い表した連撃を喰らわせて記録に残るノックアウト勝利を決め、マディソン・スクエア・ガーデンではネイサン・ディアスを退けてBMF(バデスト・マザー・ファッカー/世界一のワル)のタイトルを手にしている。
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