オクタゴンで2023年の最初の2カ月が過ぎた今、分かってきたことがある。今年はUFCにとって特別な年になりそうだ。
2カ月連続でファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれる可能性のある試合が展開された。他の3つの賞にも強力な候補が登場している。UFCファンはニューカマーや頭角を表しつつある才能、有望株からコンテンダーに成長していくファイターたち、そして多くのフィニッシュとファンタスティックなバトルを目にしてきた。
3月のラインアップも、同じことを約束している。
2月に傑出した戦いを見せ、いずれそのオクタゴンでのパフォーマンスが称えられることになりそうなファイターや試合をご紹介。
ブレイクアウト・パフォーマンス:中村倫也
27歳の中村は昨年に実施されたRoad to UFCのトーナメントの最初の2回戦で、最も印象的なコンペティターだった。第1ラウンドでのフィニッシュを2回決める中で、多様なスキルセットや忍耐力、オクタゴンの中での自信を思う存分披露している。
2月の初めに同じく日本から参戦したファイターである風間敏臣とのバンタム級決勝戦に挑んだ中村は、33秒でノックアウトを決めた。
そのMMA(総合格闘技)キャリアはまだ浅いものの、中村はトップクラスの有望株に求められる要素をすべて備えている。階級に対するサイズ、明確なパワー、堅実なストライキングの基盤、卓越したグラップリング。MMAに転身する前はレスリングで世界レベルの実力を発揮していた中村。UFCの旅の初期にはU-23レスリング世界選手権で優勝した頃のような精査やプレッシャー、注目にさらされることなく、自分の長所を雄弁に語ることができるだろう。
デビューから2年足らず、7勝0敗、フィニッシュ6回というパーフェクトな戦歴で最大の戦いの舞台にやってきた中村は、あと1年のトレーニングと経験を積んだときにどこまで行くのだろうか? バンタム級には有望なファイターやとてつもない才能の持ち主がひしめいている。しかし、その中でも中村は今後の動向を見守っていきたい一人だ。
サブミッション・オブ・ザ・マンス:ジェシカ・アンドラージをサブミットしたエリン・ブランチフィールド(UFCファイトナイト・ラスベガス69)
2月にサブミッションで勝利した他の15名への敬意があるのはもちろんだが、それでもここで名を挙げるとすればアンドラージを相手にフィニッシュを決めたブランチフィールド以外にいない。
この試合は、ブランチフィールドにとってはMCAT(医学部入学資格試験)やLSAT(法科大学院入学資格試験)のような難関だと見られていた。つまり、大きな才能の持ち主である23歳のアンドラージが、実際に女子フライ級で正真正銘のコンテンダーになれるのかの試験だ。ブランチフィールドはこの試練を受けて立ったのみならず、あっという間に終わらせた。まるで、簡単な試験だったかのように。
アスリートが競技の中で成長していくのはよく聞く話だが、このときのブランチフィールドは一つの段階をまるまる飛ばしていたと言っていい。
11月に堅実なベテランファイターであるモリー・マッキャンとマディソン・スクエア・ガーデンで対戦したブランチフィールドは、第2ラウンド97秒で元女子ストロー級チャンピオンかつ女子フライ級タイトルチャレンジャーを片付けた。このときも強い印象を残すバトルだった。
第1ラウンドの大部分をアンドラージとの応酬に費やした後、ブランチフィールドは第2ラウンドで美しいまでのパフォーマンスを披露。ボディロックの状態から、勝敗は決した。やすやすとサイドコントロールを取ったブランチフィールドは、戦略的なミスを犯したアンドラージの背部に上り、首が空くやチョークをしかけてそれを緩めることなく試合を締めくくっている。
ブランチフィールドが達成したものに納得がいかず、「そうだけど、だが・・・」と言う者はいるだろう。しかし、肝心なのはブランチフィールドがショートノーティスの代役でのアンドラージとの戦いをためらうことなく受け、7分かからずに彼女を倒したことだ。
信じられないパフォーマンスだった。それ以外に何も言うことはない。
ノックアウト・オブ・ザ・マンス:パーカー・ポーターを倒したジャスティン・タファ(UFC 284)
2月に数多くのサブミッションが見られたのに対し、ノックアウトに関しては比較的候補が少ない状況だった。この月に強烈な一撃によって終わった試合は、8試合しかない。
その中でタファの試合が選ばれたのには、2つの理由がある。
1つ、彼のフィニッシュはクリーンだった。このビッグマンは“ザ・リード・ホース”ことマーク・ハントの生霊を降ろしたかのように戦い、パーカー・ポーターにサヨナラ勝ちを収めている。
2つ、タファは今後のヘビー級でちょっとした驚異になることを想像させる、素早く見事なフィニッシュを決めた。
ニュージーランドからやってきたこの大男は、まだ29歳――ヘビー級の世界では赤子に過ぎない――で、MMAキャリアを開始してから9戦を経験している。その3分の2はUFCのオクタゴンで行われた試合だ。UFCでは3勝3敗(全体で6勝3敗)にとどまっているものの、タファは2試合連続で第1ラウンドでのフィニッシュを決めており、高い運動能力と爆発力を有している。そして、ジムとケージの両方でより多くの時間を過ごすほど、さらに成長していくだろう。
ノックアウト勝利はいつでも気持ちをハイにしてくれるものだ。タファは恐るべき正確性と素早さで勝利をもぎとっている。
この試合に関しては“バッドマン”に脱帽だ。
ファイト・オブ・ザ・マンス:イスラム・マカチェフ vs. アレキサンダー・ボルカノフスキー(UFC 284)
2カ月連続で、最高の一戦と目されていた試合が月間レポートでもベストファイトに認定されている。マカチェフとボルカノフスキーによるテクニカルで戦略的、試合を通して見どころに満ちたUFC 284のメインイベントは、疑いようもない今月を代表する試合だった。
このスポーツにおけるエリートたちによる、激しく、強く引き込まれる、最高の試合だった。ボルカノフスキーはライト級チャンピオンを相手に防戦以上のことができることを示し、マカチェフは確実なストライキングとトレードマークとも言える容赦ないグラップリングをもって初のタイトル防衛を成功させている。
スコアのつけ方についての議論や、再戦が行われるべきか、そして、この2人のうちのどちらがパウンド・フォー・パウンドで上にいるべきなのかという疑問は核の部分に存在する。しかし、これはハイレベルでスーパーコンペティティブ、誰もが憧れるエリートの一戦だった。
真に人を引きつけ、抑えがたい興奮をかきたてるタイトル戦ほど素晴らしいものはない。
この試合にはその両方があった。なおかつ、期待を上回ってみせたのだ。