UFCファイトナイト・メキシコシティ見どころ:ロドリゲスとグラッソ、母国がい旋で迎える才能開花の時

UFCファイトナイト 見どころ
UFCファイトナイト・デンバー:ジョン・チャンソン vs. ヤイール・ロドリゲス【アメリカ・コロラド州デンバー/2018年11月10日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
UFCファイトナイト・デンバー:ジョン・チャンソン vs. ヤイール・ロドリゲス【アメリカ・コロラド州デンバー/2018年11月10日(Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)】
日本時間9月22日(日)に開催されるUFCファイトナイト・メキシコシティのメインイベントでは、ヤイール・ロドリゲス(メキシコ)対ジェレミー・スティーブンス(米国)のフェザー級5回戦が行われる。

主役はゾンビキラー、ロドリゲス!

前回は2018年10月にUFC創設25周年記念イベントとして開催されたUFCファイトナイト・デンバーで、“コリアン・ゾンビ”ことジョン・チャンソンと対戦したロドリゲス。第5ラウンド終了の1秒前にゾンビの懐に入ったロドリゲスは、ノールックの打ち上げ式エルボーをゾンビのアゴにヒットさせるという、見る者の想像を完全に超える衝撃のフィニッシュでゾンビを完全失神ノックアウトしたのだった。この試合はUFC公式サイト認定、2018年最優秀ノックアウトを受賞している。

前回のゾンビ戦は18カ月ぶりの試合だったが、今回も10カ月の間隔を開けての試合となり、トランキーロ(焦るなよ)といわんばかりにマイペースにキャリアを積み上げているものの、ロドリゲスのUFC戦績は7勝1敗と高勝率、フェザー級の未来のチャンピオン候補の1人であることには違いがない。

母方がメキシコ系アメリカ人だというスティーブンスも、メキシコ国旗を身にまとって入場することでおなじみだが、ロドリゲスは今回ばかりはホームグラウンドの利は自分にあると断言する。

「もちろん、メキシコのファンは俺の味方だ。何しろ100%のメキシコ人なんだからね」

「スティーブンスは目がいいストライカーで、非常に危険な相手だと考えている。負け数も多いが、負けた相手は相当強い選手ばかりだ。ただ、連敗中だから今回は必勝を期して積極的にフィニッシュを狙ってくると見ている。そこにつけこんでやろうと思っている」

ロドリゲスにとって今回は、初めて母国メキシコでメインイベントを飾るがい旋試合だ。主役にふさわしい、驚きの逆転勝ちを見せてくれそうな予感がする。

雨のち晴れ、スティーブンスの戦いは続く

33歳のベテラン、スティーブンスのUFC戦績は15勝15敗だ。敗戦数15はUFCレコード、試合数30はドナルド・セラーニの32に次いで史上2位である。ただしスティーブンスの評価は戦績からは測りきれない。最多敗戦数記録は、トップファイターとの戦いも、急台頭の若手に胸を貸すことも、急な代打出場もいとわず、常にファンが喜ぶエキサイティングな試合を提供してきた信頼と実績の表れなのだ。

とはいえ、スティーブンスは現在、ジョセ・アルド、ザビット・マゴメシャリドフに連敗中で、3連敗を阻止すべく、今回は必勝を期して早めに敵地に乗り込んでいる。

「何事も準備が肝心なんだよ」とスティーブンスは語っている。「早めにメキシコ入りして、文化になじみ、旅の暮らしに慣れ、標高にも身体を慣らしているんだ。ファンの前で勝利の雄たけびを上げるのが待ちきれないよ。メキシコ流でガツンとノックアウトしてやるさ」

そんなスティーブンスだが、アルド戦敗退後には、心の健康を損ねていた時期があったことを告白している。

「試合で負けたせいだけではない。自分の人生のパターンというのか、ここで勝てば大きく飛躍できるという時に、必ずしくじってしまう。同じようなしくじりはもう3度目だったんだ。どうしてしくじってしまうのか。それは自分で自分を信用していないからなんだよ。そして自分は心身の健康を損ない、暗闇に入っていった」

一時は自殺も頭をよぎったというスティーブンスだったが、周囲の支えで回復に向かう。

「コーチのエリック・デルフィエロや、チームメイトのドミニク・クルーズから勧められたエモーショナル・インテリジェンス(EQ、感情的知性)のセミナーが立ち直るきっかけになった。メンタルコーチにものの考え方を教えてもらって、人生観が変わったんだ」

「過去を振り返るのはつらい作業だった。暗闇での出来事が、自分に思ったより大きな影響を与えていたことがわかった。これまでに行ったことがなかった場所に行ってみたり、これまでに経験したことのないような練習を試してみたりして、自分をとことん見つめ直した。敵などどこにもいなかった。これは自分自身との戦いだったんだ」

スティーブンスのようなトップファイターによるメンタル面での問題の告白は、多くのファンに勇気を与えた。スティーブンスの元にも、励まされたファンからの声が多く届いているという。

「ノックアウト勝ちがなくても、お金がそんなになくても、今は本当に幸せなんだ」と語るスティーブンスの晴れ晴れとした復活劇を見届けたい。

ついに本領発揮か、グラッソ母国がい旋

UFCファイトナイト・メキシコシティのセミメインイベントでは、アレクサ・グラッソ(メキシコ)対カーラ・エスパルザ(米国)が行われる。

8勝0敗というMMA戦績をひっさげ、23歳でUFC入りしたグラッソ。Invicta FCでの魅津希戦などが高く評価され、当初はUFC女子部門の未来を背負う存在として期待を集めていた。しかし、その後は勝ち星が伴わず、ケガによる長期欠場もあり、伸び悩み感のあるまま3年が経過した。

そんなグラッソが前回、UFC 238 (2019年6月)では、カロリーナ・コバルケビッチを強い勝ち方で退け、いよいよ才気煥発(さいきかんぱつ)かと期待が高まっている。UFC会長のデイナ・ホワイトも次のように語っている。

「グラッソのことはUFC入りする前から注目していたが、UFCに来てからは、なかなか評判通りの活躍ができなかった。ところがこの試合はどうだ! 今日のグラッソはすばらしかった。強敵相手に力を発揮していた」

母国メキシコではまだ無敗のグラッソが、セミメインイベントの大舞台で対戦するのは、初代Invicta FCストロー級チャンピオンであり、TUF(ジ・アルティメット・ファイター)シーズン20優勝者、そして初代UFC女子ストロー級チャンピオンでもあり、いまやトップファイターのリトマス試験紙的存在のエスパルザだから、相手に不足はない。

メキシコシティの標高は、富士山五合目に相当する2,250メートルで、酸素量は平地の4分の3、滞在するだけで高山病にかかる観光客もいる厳しい環境だ。スタミナとコンディショニングが勝敗を分ける、この世界一タフなファイトシティでは、これまでに数々の番狂わせが演じられてきた。メキシコのファンの熱気の中で行われる、文字通り息詰まる熱戦を堪能しよう。

【文 高橋テツヤ】
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